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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

アメリカン・ギャングスター

2008-03-16 10:09:31 | 映画(あ)
評価:82点/アメリカ/2007年

監督:リドリー・スコット

「バーチュオシティ」の共演再来!

アメリカのNYの裏社会を仕切るバンピーは、突然心臓発作で死んでしまう。
彼の付き人だったフランク・ルーカス(デンゼル・ワシントン)は、代わりに裏社会を仕切ってやろうと考える。
ベトナム戦争中であることに目をつけたルーカスは、アヘンを直接中国へと買い付けて、それを軍用機で輸入することを思いつく。
純度100%の「ブルーマジック」と呼ばれるその麻薬は、瞬く間に裏社会に出回り莫大な利益を上げる。
それまでは純度の低い麻薬を高く売りさばいていた他の売人たちは、仕事を失い、ルーカスをうらむようになる。
一方、仲間が裏社会と関わっていることが許せなかったリッチー・ロバーツ(ラッセル・クロウ)は、麻薬密売のボスを摘発すべく、チームを結成する。
ルーカスファミリーがあやしいと次第に分かってきたリッチーだったが……。

さまざまなジャンルを撮り続けるリドリー・スコットは、本当にすごい映画監督だと思う。
彼の映画作りへの情熱は、誰もが驚くことだろう。
今回は、「マッチスティック・メン」のような
軽いクライム・ムービーではなく、社会派の作品になっている。

その主演にラッセル・クロウとデンゼル・ワシントンという二大俳優を競演させるという気合の入れようだ。
昔二人が駆け出しのころ「バーチュオシティ」という映画を撮っていた。
近未来を舞台にしたこの作品からも二人の非凡さを垣間見ることができる。
僕はこれを彼らが有名になったあとに見て、「今じゃあ、このキャスティングは無理だろう」と思ったのを覚えている。
それを実現してしまったのだから、スコットはやはりすごい。

デンゼル・ワシントンもますます演技に磨きがかかっている。
彼の選ぶ仕事は正確で、適切だ。
間違いなくキャリアアップを遂げてきた。
のし上がっていくギャングの役とは、ぴったりの配役だろう。
一方のラッセル・クロウは、激太りしている。
あの「グラディエイター」から考えると見る影もない。
その彼が妻に逃げられた警官役を演じる。
その寂しさがこの映画にさらなる深みを与えているのかもしれない。

オスカーとは無縁だったが、間違いなく2007年度を代表する映画といえるだろう。

▼以下はネタバレあり▼

デンゼル・ワシントン演じるルーカスは、アメリカではすごく有名な人らしい。
誰もできなかったNYの裏社会を牛耳るということを、黒人がやってのけた、という伝説があるという。
日本にはあまりなじみのない名前かもしれないが、その彼を「ありのままに」描いたのが本作だ。

史実であろうと、真実であろうと、全くの創作であろうと、映画を観るということにおいては、あまりどうでもいいことだ、ということは、これまで再三書いてきた。
今回も、あまり意識せずに観た。当然予備知識も無しだ。

この映画が非常にうまいのは、これだけ複雑な物語、長大な物語を描いておきながら、物語の軸となるものが非常にシンプルで、かつ、明確だ。
それはキャスティングからもわかる。
デンゼル・ワシントンとラッセル・クロウとの対比である。
要するに「正義しかない男」リッチー・ロバーツ、ラッセル・クロウと、「正義だけがない男」フランク・ルーカス、デンゼル・ワシントンとの対比である。

刑事のリッチーは、仕事人間だ。
違法に手に入れた犯罪者のお金を、「ふつうの」警官なら横領してしまうところを、すべてナンバリングして証拠品として押収する。
周りの刑事たちからは、馬鹿なやつだと揶揄される。
彼は離婚調停中であり、その金があれば、妻子を呼び戻すことや、親権を獲得することもできたかもしれない。
しかし、リッチーはそれができないのだ。
彼は仕事人間であり、刑事としての職に反することができない。
だが、まじめ人間とは違う。
酒もたばこも、女遊びもする。
彼は彼の掲げた「正義」を貫き通すことをしたいだけだ。
そのどこか壊れたストイックなまでの「正義」故に、周りの刑事たちとは齟齬をきたしてしまう。
当然家族のことが後回しになり、家庭を顧みないので、離婚せざるをえないのだ。

逆に正義だけがないフランクは、その先見性と、大胆な行動力によって、かつて誰も成し遂げていなかった裏社会のリーダーに上り詰める。
ヒントはおそらくバンピーがいっていた「スーパーマーケット」だろう。
商社を介さずに直接買い付けることによって、大幅にコストダウンをはかることで、質のいい麻薬を大量に安価で手に入れることが可能になった。
それが周りの同業者に大打撃を与えることとなり、周りに敵も増える。
だが、贅の限りを尽くすことができ、美しい妻も手に入れ、すべてを手に入れるのだ。

だが、彼には人間が持つべきはずの「正義」がない。
倫理が欠落している。
だから平気で人を殺せるし、麻薬を売ることに対して何の呵責もない。
彼は裏社会のボスというよりは、どちらかというとビジネスマンだ。
いかに効率よく、無駄なく、確実に、消費者に商品を提供するか。
欠落した「正義」には全く抜かりもないし、全くためらいもない。
おそらく、その鮮やかな手法と行動力に、むしろ憧れさえ観客は覚えるだろう。
その意味ではニコラス・ケイジの「ロード・オブ・ウォー」にも通ずるところがあるかもしれない。

だが、一人勝ちは周りが許さない。
これは独占禁止法という法律のあるなしにかかわらず、この世界の理なのかもしれない。
一人勝ちすると自然とどこかからほころびが生まれ、組織や個人は崩壊する。
悪が増大しすぎた世界は、なぜか善によって自然と浄化されていくのに似ている。
「盛者必衰」ということなのかもしれない。
ベトナム戦争の終わりとともに、バブリーなフランクの計画は、瓦解していく。

結局、勧善懲悪な展開となってしまうが、気になる点はラストのほう。
これまで両者ともに非常に丁寧に心理を追っていたのに、フランクが司法取引で次々と仲間を挙げていく変貌ぶりには少し違和感がある。
それまで悪の限りを尽くしていたのに、ここで急に刑事たちへの復讐へと変化してしまう。
理解はできるが、共感できるレベルまで描き切れていない。
史実だからという問題ではなく、それまでの展開で刑事に対する怒りや悲しみを描く場面がもっとあってもよかった。
ただでさえ長い映画なのだから、最後まできっちりと彼の内面に迫ってほしかった。

とはいえ、この映画、伝説となった両者に直接指導をもらって、どこまでも史実に近づけたという。
徹底した取材と一貫したスタンスがなせるわざだろう。
リドリー・スコットとは、本当にすごい映画監督だ。

(2008/3/20執筆)

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