secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

16ブロック

2009-07-26 15:53:03 | 映画(さ)
評価点:73点/2006年/アメリカ

監督:リチャード・ドナー

懐かしの90年代くらいを思い出すアクション映画。

夜番だったジャック・モーズリー(ブルース・ウィリス)は、突然証人の護送を頼まれる。断れなかった彼は、仕方なく気軽な気持ちで受ける。
これが、すべての始まりだった。
酒を買おうとした彼は、賊に襲われる。
思わず引き金を引き、証人(モス・デフ)を連れてバーに逃げ込んだ彼だったが、そこに現れたのは元同僚のクランク(デビッド・モース)だった。
彼は悪徳警官の証言をしようとしている証人を殺すべきだと訴える。
混乱するジャックは、その場から逃げ出し、証人を護送することを決意する。
かくして、悪徳警官率いる警察と、16ブロック先に10時までに連れていかねばならない一人の刑事との壮絶な戦いが始まったのだった。

さて問題。
だめだめ刑事の非番と、大きな事件そして、主演・ブルース・ウィリスの共通点は?
ダイハード」ではない。
正解は「16ブロック」。
このシチュエーションを聞いて、すぐに「マクレーン!」と叫びたくなったあなたは、きっと僕と同じにおいがする人だろう。
だが、この映画は「ダイハード」シリーズとは全く関係はない。
むしろ同じ監督の「リーサルウェポン」シリーズに近い。

どちらにしても、僕の育ってきた環境(時代)にあった、あの懐かしい無茶なアクションが帰ってきたのだ。
これはもう観るしかない。
とびきりの傑作ではないにしても、きっと楽しい時間につれていってくれるだろう。
 
▼以下はネタバレあり▼

閉鎖的で、絶体絶命、わかりやすく、そして、単独で危機を打開する。
まさに僕の好きなシチュエーションである。
昨今では、無駄に設定がややこしく、ミスディレクションを狙うばかりに、失敗した駄作や、CGに金と時間をかけることに注目し、脚本や演出がてんでダメな映画が多い。
その中でも、映画が最も安易に作られた時代を彷彿とさせる、ちょっと懐かしい感じがする映画だ。

この映画の肝は何と言っても、「テンポ」である。
飲んだくれて、どうしようもない男が、いきなり仕事を任され、それが意外な方向へ向かっていく。
その危機への持っていき方が実に巧みだ。
そして、始まって20分くらいで、映画全体の対立軸が、ハッキリ提示される。
何と潔いことか。

護送しようとしていた証人は、実は警察の不祥事を暴くものだった。
それを知った刑事たちは、証人を安い麻薬中毒者を遣い、殺そうとする。
それを聞かされたジャックは、選択を迫られる。
刑事達に乗って、証人を殺させるか。
証人を公判のはじまる十時までに裁判所に届けるか。
しかも、その悪徳警官は嘗て一緒に働いていた相棒だった。
相棒は言う。
変な気を起こすな。自分で自分の首を絞めることになるぞ。
しかし、ジャックが下した決断は、証人を助けることだった。

それからは危機の連続で、絶え間なく緊張が持続するように組み立てられている。
ストーリーとしての意外性や、どんでん返しのようなものは、ここには一切必要がない。
刑事が刑事を殺す、という対立軸がしっかりしているから、そんなよけいなものは必要がないのだ。
何も考えずに、状況をいかに打開するかが、この映画の面白さになっていく。

また二人の変化、やりとりも面白い。
この二人は、昔流行った「コンビ者」の変換である。
でこぼこコンビの刑事が事件を解決するというタイプの映画を思い出させるような、おしゃべりな黒人と無口な白人のコンビニなっている。
この辺りにも懐かしさと、安心感が漂う。

クライマックスとなる、バスでのやりとりも面白い。
このやりとりは、「インサイドマン」を思い出したが、単なる馬鹿な刑事ではなかったことを証明している。
そしてやはり僕らの「ブルース・ウィリス」だったことに嬉しい感動をさえ覚えるのだ。

終盤までの流れは、かなりスムーズだ。
オチも、丁寧な伏線により、わかりやすくなっている。
ラストシーンも、お約束通りだが、感動を誘う。

その一方で、もう少しだな、という思いもある。
やはりすべてがお約束通りなので、もう少し意外性が欲しいという気もする。
また、真相が明かされるのがあまりに早すぎて、
なぜだめ刑事が、そこまで人間が変わってしまったのか分かりづらい。
感情移入やキャラクター性がつかめないまま進む。
しかも、彼は無口なキャラなので、その内心がつかめない。
映画を見終わると、なるほど、と思えるが、あれだけテンポが良かった、その時に感情移入させる工夫が必要だろう。

彼は相棒が証人を殺そうという場面に立ち会い、部外者である視点から悪事を見てしまった。
すると、そこには不自然なくらい「悪」が存在していた。
それは、過去への自覚でもある。
自分がそれまで行ってきた全ての悪事が、実は異常で、許し難いものだということを、客観的な視点を獲得することで、知ってしまったのだ。
事件はそれが徐々に芽生えていく過程を描いている。
もうすこしその辺りを丁寧に描いても良かったのではないか。

また16ブロックという数を活かし切れなかった。
地図や通り名を見せるなどして、だんだん近づいているということを、多少わかりやすく描くべきだっただろう。
そうすれば、あと少しなのに、というような「焦らし」が生まれたはずだ。
その「焦らし」によってさらに観客は緊張感をもてる。

何事も腹八分目という。
確かにこれくらいの映画のほうが、体には良いのかも知れない。
古いことが全てではないが、このような映画もハリウッドは失うべきではない。
ちなみに、三本観た(「ワールド・トレード・センター」「レディ・イン・ザ・ウォーター」)この日の映画は、これが一番面白かった。

(2006/11/19執筆)

タイトルは、「じゅうろくぶろっく」なのか、「しっくすてぃーんすぶろっく」なのか。
困るところだが、サ行なので問題はないか…。
同じサ行でも「さんどらぶろっく」なら観に行かなかっただろうな。

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