7月25日の早朝、IS戦闘員らがシリア南部のスウェイダー市と東・北東郊外を襲って自爆や銃撃等を行い、シリア人権監視団によると250人近い死者が出た。これはシリアでのISの攻撃による死者数としては最大人数とされる。また、地元メディアによると、東郊のシブキー村で女性や子供らが拉致され、そのうちの1人の若者が後日殺害された。政府軍や同盟勢力、武器を取った地元の人々がISをスウェイダー県から駆逐したが、拉致されている約30人の解放交渉は進んでいない。今月に入って、彼らの姿を示す短い映像が公開された。その中で1人の女性が「2018年9月11日」と日付を明示し、政府もロシアも他の誰も彼らの解放に向けて交渉を行っていないとして、動画の視聴者に助けを求めている。
上記のスウェイダー東郊シブキー村から拉致された人々の動画(アラビア語)
これほど大人数の死者を出した攻撃で、しかもそれ以来女性や子供たちが拉致されたままであるにも関わらず、世界的に見て、この事件がメディアで大きく取り上げられることはなく、7月25日の事件当日と翌日にニュースになった程度で、後は忘れ去られてしまった感がある。その後も関連ニュースを継続的に発信しているのは、シリア人権監視団とスウェイダーの地元メディアにほぼ限定される。SNSの反体制派のページで取り上げられることもない。それはなぜかと考えると、最終的に答えは「スウェイダーの住民の大多数がドルーズだから」ということになると思う。
ドルーズはイスラム教シーア派の一派とされ、シリアではスウェイダーを中心に分布している。レバノン、ヨルダン、イスラエル支配下のゴラン高原にも存在する。
ドルーズはイスラム教シーア派の一派とされると書いたが、実際にはイスラムとは別の秘密主義的な宗教なのだと思う。私にはドルーズの友人たちがいるが、彼らはコーランを読まないし、モスクで礼拝しない。酒を飲むし、ラマダーン月に断食しないし、輪廻転生を信じている。宗教行為を行うのは長老たちのみで、その内容は一般の信者には知らされていない。彼らには、多数派であるスンニ派に異端視される存在だという自覚が強く見受けられる。
スウェイダーは近隣のダラアやクネイトラとは異なり、住民が集団規模で反体制派に参加することはなかった。その一方で、積極的に政権を支持するわけでもなく、政府の支配地域ではあるものの、市内の治安維持を住民が担当するなど一定の自治を保ってきた。そのおかげか、2011年3月の反体制運動勃発以降も、激動のシリアにあって例外的な平穏を保ってきたのだ。
7月25日に先立ち、ダマスカス南郊のヤルムーク・パレスチナ難民キャンプを拠点としていたIS戦闘員の一部が、政府側との停戦合意に従って、スウェイダー東・北東郊外に隣接する砂漠地帯に移送されたという経過があり、スウェイダー関係者には、「シリア政府とこれを後見するロシアが、ISがスウェイダーを襲撃するよう仕向けた」と主張する傾向がみられた。「政府が自治を取り上げて支配を強めたがっている」「スウェイダーの若者の多くが徴兵逃れをしている状況を変えようとした」というのだ。
拉致されたのがキリスト教徒であれば、バチカンや欧米メディアが反応していただろうが、ドルーズは一応イスラム教の一派とされているので、そうはならなかった。シリアのドルーズの活動家たちが大きく声を上げて国際世論に働きかける様子もなかった。外部の人々に訴えかけ、理解してもらうことを諦めているかのようにみえる。閉鎖的な集団だからだろうか。
7月25日のスウェイダーの悲劇は、そしてISに拉致された女性や子供たちは、このまま忘れ去られていくのだろうか?
(参考資料)
・アラビア語
تقرير تفصيلي عن مجريات الأحداث في السويداء بعد هجمات تنظيم داعش
・英語
Sweida province: Isis knocked on doors then slaughtered families
New video shows dozens of IS-held Syrian Druze pleading to be saved
・日本語
イスラム国、女性ら36人拉致か シリア南部
https://www.asahi.com/articles/ASL704QVFL70UHBI00T.html?ref=chiezou
「ドゥルーズ派」(ウィキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%82%A5%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%82%BA%E6%B4%BE
ちなみに、数か月前からマレーシアのクアラルンプール空港で足止めされているシリア難民のハサン・クンタール氏もスウェイダー出身で、徴兵を逃れて出国した過去を持つ。ツイッターで日々自分の置かれた状況を訴えかけ、世界中の人に助けを求めているにもかかわらず、彼は未だにどこにも行けないでいる。
Hassan Al Kontar@Kontar81
https://twitter.com/Kontar81/status/1022091711407779840
(終わり)
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