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歌う介護士

看取りをしたご入居者から「あなたの声は癒される」と。お一人一人を思い浮かべながら、ずっと歌い続けています。

扉を開いて

2009-10-24 00:18:54 | Weblog
入居して、1ヶ月から2ヶ月目くらいの間に体調を崩したり、食事が摂れなくなったりする人も少なくない。
スタッフは原因が分からず対処に苦労する。

好きなものを家族に聞いたり、手を変え品を変え、食事の携帯も変えて提供する。
が、食べてくれない。
どんどん体力がなくなり寝たきり状態まで落ちていく。
簡単にいってしまえば「ウツ」。

私の勝手な命名だが「施設ウツ」。
もしくは「棄てられウツ」。
家族は、決して棄てているわけでもないし、
良かれと思って施設を選んだり、
自宅で、どうしても介護できなくて仕方なしに入居を決めたりだ。
その事情は、ご本人も判っている。

重度の認知症以外の入居者は理解した上で入居を決めている。
しかし、頭では理解していても、心が受け付けていない。
心が拒否していると身体に支障が出てくる。
本人も自分で判らないままに体調が悪くなる。

・・・「Aさん、Aさんが具合悪くなると、ママ(娘)が一番辛いよ。」
「わかってる。」
・・・「一人で、あっちもこっちも世話しながら働けないでしょう?」
「わかってるけど、うちで一緒にいたかった。」
・・・「辛いねえ、ママもAさんも、辛いねえ。」

話しながら涙をこぼす。
家族に代わるケアは出来ないが、家族とともに協力することは出来る。
幸い、勤務施設の家族は入居者を良く見てくれる。
食べられない、表情が硬い、
何とか施設に慣れるようにと食事時に訪問して食べさせてくれたりする。

「帰りたいなあ・・・」
・・・「田舎がいいの?」
「ああ、でも、もう誰もいないから帰っても。」
・・・「おうちには一人で暮らしていたんですか?」
「ウン、子供は帰るのが遅いし、夜は寂しかったな。」

連れ合いをなくして、あっという間にADLが落ちた方。
故郷を思い出しながら、横を向いて涙を隠す。

思い出話を引き出したり、
単刀直入に現実を見るように話す。
入居から間もなく体調を崩す方のケアは、
私は「泣かせるケア」をすることにしている。
まだ親しくもない私の前で、ご自分の弱さを出せたら施設のケアを受け入れてもらえると考える。

担当していないフロアの方と、ゆっくり話せるのは限られているが、
ベッドに寄り添ったり、端に腰かけて話をする。

心に錘があるとき、涙を流すと軽くなると、私は信じている。
なぜなら私もそうだから。

ポロッと落ちる涙を拭いたり鼻水を拭いたりするうちに表情が柔らかくなる。
「またお話しに来てもいいですか?」
と、いって離れる。

もちろん家族の関わりの力はもっとも大きい。
体調を崩す一番の原因は「私を視て!」。
家族がその人を見てくれれば回復できる。


服薬の調整などもしてくださった主治医が、
「どうしてあんなに食べられなくなったんだろうね?」と、
私に問われた。
「そりゃあ、家にいられない事情がわかっていても、施設入居が受け入れられなかったんですよ。『なんで自分がここに入らなきゃいけないの』と泣いてましたもの。」と、私。

とても理解あるDr.なのに、気づいていなかったのか。


いよいよ「第九」のゲネプロ、本番。
こういうので休日のお出かけは楽しい。
出かける前に、学会発表のポスターを完成させないといけない。
これからの1週間は正念場。