MVCメディカルベンチャー会議

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第41回MVC定例会in東京

2007年07月07日 | MVC定例会
60兆円産業ともいわれるヘルスケアサービスについて学ぶため、臨床医とベンチャー起業家としての数多くの経験をお持ちの医療法人健究会理事長、楊浩勇(やん・はうゆん)氏にご講義いただきました。

①私は、1963年に神戸で生まれた華僑の3代目です。国籍は日本です。シンガポールで中高を過ごした後、慶応大学医学部を卒業して、8年間眼科医として働きました。大学に入る前から医療に関連するベンチャー企業の立ち上げをしたいという思いがありました。32歳のとき、出来たばかりの慶応大学ビジネススクールの起業家コースに第一期生として入学しました。そこで私が作成したビジネスモデルが、電子カルテと薬剤処方情報を組み合わせたマーケティングツールの提供というもので、当時の指導教授からはかなり良い評価を頂き、1997年に意気揚々として起業しました。メディカルデータリサーチという会社です。

②起業はしてみて初めて、ビジネススクールで学んだ計画や予算はそのまま達成できるものではないということを知りました。また見積書や請求書の書き方も知らず先輩経営者に教えてもらいました。そもそも医療関連のデータマネージメントビジネスのために事業を始めたのですが、データを集めるためにはレセコン、そして、最終的には電子カルテを作らないといけないということになりました。ITの開発資金を稼ぐため、社長の私は製薬会社のマーケティング関連のコンサルなどにも手を広げるようになったのですが、開発にかける時間が無くなって来てしまい、途中から何のために会社をやっているのか分からなくなりました。

③電子カルテの開発には資金が必要で、貸し渋り全盛期の当時はベンチャー企業に銀行が融資することは難しかったため、増資を繰り返していました。増資を行うたびに、自分の株式割合は希釈してしまい、そこで転換社債や直接社債、ワラント債の発行も行いました。私に出資してくれた株主同士の間で、ワラント債に関しての取り決めで問題が生じ、株主間で板ばさみになり、本当につらい思いをしました。心労がたたって倒れ、病院に緊急入院して1ヶ月半入院してしまいました。1998年に転機が訪れ、マイクロソフト社が私の会社の技術を評価してくれ出資をしてくれました。渡りに船でしたが、その頃は会社も家庭も大変な状態でした。

④2000年にソフトバンクとWebMDにメディカルリサーチ社の全株式を売却しましたが、その時も株主の同意を得るのは簡単ではないということを学びました。「株主構成には気をつけるように」や「金はやっても役はやるな」といった先輩経営者から言われてきたことの意味が分かるようになったのもこの頃です。医療と起業の世界しか知らなかった私はそこで初めて、予算や役職に関する凄まじい権力闘争を経験しました。最終的には2001年に退社しました。

⑤その頃、日本医師会からのお誘いにより、ORCAの電子カルテ開発業務を引き受けることになりました。そこでの仕事が評価され、2003年から1年半、Harvard School of Public HealthにResearch fellowとして留学することができ、アメリカで医療ビジネスを学ぶという昔からの夢をかなえることが出来ました。医療ビジネスの大家であるハーバードビジネススクールのHerzlinger教授に師事できたのは大きな幸運でした。
現在は医療法人健究社、サプリメントなど健康関連ビジネスの(株)アイエフ・メディカル、ITシステム開発の(株)メディカル・ソリューション・サービス、医療系ウェブ関連ビジネスの(株)メディ・ウェブなどの経営に携わっています。また、2006年からは母校である慶応大学の薬理学教室のジェネラルマネージャーと客員講師もしております。

⑥60兆円市場とも言われるヘルスケアマーケットですが、この数年で起きている医療分野の変化には驚くべきものがたくさんあります。混合診療の緩和、株式会社の医療機関経営、ファンドによる病院買収、医師の民間企業への就職と起業、米国医療機関の日本参入、保険診療を行う医療機関の経営悪化、東京大学と民間企業の共同事業、医療界のビジネスへの関心、などは、もしタイムカプセルで5年前に戻って予想したら、誰もが有り得ない、と言っていたに違いありません。小泉改革による日本医師会と族議員の影響力の低下がこの背景にあると思われます。

⑦ヘルスケアビジネスの特徴として挙げられるのは、人手に頼る部分が大きく、独特な医療文化を持っており、医学と医療にはギャップがあり、医療の質の評価は非常に困難であり、市場は大きいが実はとても断片的fragmentedといった点です。また保険制度上、過剰と思われる利潤には価格や制度変更といった調整が必ず入ります。また健康に関するニーズというのは意外に弱い、というのが実情で、いわゆるNice to haveかmust haveなのかを見極める必要があります。

⑧日本政府全体の借金は大まかに言って1073兆円であり、国民一人当たり840万円ということになります。国民医療費32兆円のうち、国の一般会計からの支出は7兆円が上限で、この枠を超えることはおそらくありえないでしょう。医療費削減とよく言われますが、総医療費の48%を占める65歳以上に対する医療サービスを削減する、というのは大問題で、「生死観」や「命の自己責任」といった点について踏み込んだ議論をしないと簡単には答えが出せない問題です。

⑨現在、医療機関の経営は非常に苦しい状況で、私も勤務医をしている後輩と飲みに行ったら、涙ながらに窮状を告白されたりすることもあります。保険診療の点数がどんどん削られている現状では、余裕を持った医療機関の経営をするためには保険外の市場に活路を求めるしか手はないといえるでしょう。


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