MVCメディカルベンチャー会議

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第129回MVC定例会in大阪

2018年06月17日 | MVC定例会


慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授。後藤 励(ごとう れい)氏に、「医療の経済評価の現状と将来」をテーマにお話頂きました。

1.私は、1998年に京都大学医学部を卒業後、神戸市立中央市民病院での内科臨床研修を経て、京都大学大学院経済学研究科にて医療経済学の研究に従事しました。2005年から甲南大学経済学部講師、2007年同准教授。2012年から京都大学白眉センター特定准教授。2016年4月から現職で所属は横浜市日吉キャンパスのビジネススクールです。

2.まだまだ医療経済学の研究者は少ないので、いろいろなテーマで研究をやっています。特定の疾患の費用対効果も行います。たとえば、月経不順と月経随伴症状は、ステージ2位の癌のQOLの低下と同等の健康被害があると数値化され(未発表)、安価な薬剤で症状がコントロール出来れば費用対効果は高いと言えます。費用対効果以外にも政策評価も行います。小児医療費の外来助成によって医療のアウトカムがどう変わるか検証しましたが、低所得地域での入院、緊急入院や外来でコントロール可能な疾患が重症化しての入院が少なくなる、という結果がでました。高所得地域だと逆に検査入院などの軽微な入院が増えました。この結果から、助成に対する所得制限を上げよう、という提案をしました。



3.政府債務GDP比率は、戦前と同じような状況になっています。公債の引受先が国内だから大丈夫という意見があり、国内問題として国際的には静観されています。財務省は社会保障費を抑制することを考えていますが、総額ではなくGDP比の安定を目指すという考えもあります。

4.財政制度審議会という制度があります、委員は財政の専門家が多く医療の専門家ではありません。2019年から2021年度を基盤強化期間と名付けて対策を進めて行く予定です。医薬品の費用対効果については、今年度中に結論をえて、薬価改定は毎年行う事になりそうです。既存の医薬品や特定保険医療材料の評価だけでは無く、新規に保険収載されるものにも費用対効果や財政影響を活用することも考えられています。フランスのように、費用効果の低い物は自己負担を高くするという案も出されています。

5.日本での医療経済評価は、2012年5月に中医協内に費用対効果評価専門部会が創設された事が始まりです。中医協では薬価などを決めますが、各薬剤等の費用対効果を評価する費用対効果評価専門組織は委員も議事録も非公開です。これまでの政策をあまり変えないで行う方針のようなので、評価はしても、薬価を変えるのは今まで通り、薬価算定組織と保険医療材料専門組織が行っていますので、試行的導入はしましたが全く変わりません。かなり外圧がないと変わらないという印象です。



7.ICERの数値は不確実性が高いにもかかわらず、ICERが500万円を超えると、ちょっとずつ薬価が減っていき、1000万円を超えると一定になる、という設定になりそうです。本来は誤差があるはずのICERの違いが、1万円勝負になってしまいます。不確実なことを前提にした制度を作った方がいいと思っています。イギリスは2万から3万ボンド/ QALYというように、緩やかな決まり方をしています。



8.ある程度しっかりしたICERが計算できることを前提とした現在の枠組みは、新規導入される不確実性の高い医療技術に合致させるのは難しいと思います。そもそも経済評価を正確に出来る人が少ない事が問題です。財務省からICERに基づいた医療費の抑制が期待されていますが、実際には時間をおかないと政策的には厳しいという印象を持っています。



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