MVCメディカルベンチャー会議

The United Doctors of Innovation ☆ http://mvc-japan.org/

第126回MVC定例会in大阪 第一部

2017年09月09日 | MVC定例会
               
原正彦(はら まさひこ)氏(循環器内科専門医 認定内科医 日本医師会認定産業医)をお迎えし、「ヘルスケアビックデータによる事業創出~失敗事例から学ぶ戦略~」についてお話いただきました。


(1)今回タイトルが「ヘルスケアビックデータによる事業創出~失敗事例から学ぶ戦略~」ということで、今までどういったヘルスケアの事業が失敗してきたか、その上でどのように患者さんに対する価値創出が出来るかを考えたいと思います。

(2)まずは簡単な自己紹介をさせていただきます。私は2005年に島根大学医学部医学科卒業し、その後大阪労災病院など、いくつかの病院で臨床医として研鑽を積み、大阪大学で統計やビッグデータ解析を学びました。過去に53編ほどの論文を執筆し、結果として世界で最も権威のある学会 American Heart Associationで3度 若手研究員奨励賞受賞も頂くことができました。他にはヘルスケアのビジネスを展開される企業様に向けたコンサルテーションを行っています。
これらの活動はよりよい医療を患者さんに提供していきたいという思いからなるものです。

(3)最初にヘルスケア領域で生じている現象について考えたいと思います。医療現場ではあらゆる医療機器が、病院だけでなく家庭でも使えるようになる傾向にあります。血圧や酸素飽和度など、家庭などで気軽に測れるようになっています。デバイスのデータなどがインターネットにつながってどんどん蓄積され、いつでも参照できるようになっています。そしてデバイスも測るものから身につけるもの(ウエアラブル)になってきています。そのために今ものすごいスピードで情報が氾濫している状況です。これがデータを扱う上で今起こっている大きな問題です。情報の種類は多岐に渡ります。例えば数値データなら心拍数、血圧、歩行数、血糖値など、テキストデータなら電子カルテに記載されている情報や会話やチャットの内容、医療系のメディアのニュース、オミックスであればゲノムのデータや腸内細菌のタンパクの発現データ、画像データであればMRIやCT、その他音声データや表情のデータなどこのような情報が氾濫していることを理解していただければと思います。




(4)私はヘルスケアビッグデータと呼ばれるデータに基づき真に臨床現場に影響を与えるような知見が得られたという成功モデルはまだ現時点では存在しないと考えています。例えば患者さんがウエアラブルからのデータにより血圧が急に下がって心配されるケース。実は、アプリで測定した血圧データの精度は低いのが現状です。相関係数から考えると20%程度しか数値として正しくないというデータになっています。このことから、情報があふれている中、多くのデータが測定精度の問題を抱えていることを考える必要があります。

(5)2つ目の事例はテキスト情報(医療系ニュース)です。例えばNHKでベルソムラという睡眠薬が糖尿病に効くという根拠のないアナウンスがされた時も間違った情報がニュースで広がりました。そのニュースを見て患者さんがベルソムラの処方を要求して外来が混乱したということがありました。ニュース系のテキスト情報も問題を抱えていて、これも気をつけないといけない点です。また、集める情報の影響の強度に関する問題もあります。生活習慣病の方向けにSNPと呼ばれる一塩基多型を調べる検査サービスがあるのですが(5-10万円くらいで受けられます)、生活習慣病におけるSNPの影響度は非常に小さいことがわかっています。例えば心筋梗塞に関するSNPは15ほど指摘されていて、それぞれが心筋梗塞の発症へのリスクは1.1倍くらいあると言われています。もし15全てが適応されたとして約4倍(1.1^15)のリスクになります。一方でタバコを吸っているかという問診をした時に吸っている場合はそれだけでリスクが4倍になります。タバコを吸っているかと聞く情報と、5-10万円払って分かる情報の価値が一緒ということを考えておかないといけません。

(6)大企業が行っているヘルスケアビッグデータの枠組みはパターンが決まっていて、検診データ、買い物データ、DPCデータ、ウエラブルデバイスビックデータ、こういったものをなんとかうまく合わせて何かしらいい情報が出ないかということでコンソーシアムを組んでいます。医学観点の解析からいうと、ウエラブルデバイスのほとんどは測定精度の問題を抱えているので使えません。DPCデータに関しては違った病名で保険請求を行うことがあるので情報精度が低く、買い物データに関しては買った食べ物が疾患発症に影響する強度は非常に低いです。 これらの問題があるため、価値ある情報を提供できていません。失敗パターンは全てこのパターンに陥っています。

(7)それではこれらの情報データが全て高い精度であるという前提で考えてみましょう。しかし、それを価値あるものに変えるには目的(アウトカム)をしっかりと定めなければならないということに気づきます。そのために予測精度というのが重要になってきます。さらに予測できたとしてヘルスケアの事業として成り立たせるために、対費用効果の高い提案ができないといけないです。例えば安価な薬で血圧を下げる場合と毎日塩分制限して毎日栄養指導した場合の血圧の下がり方は前者が圧倒的にコストや労力の観点から見ても効果的です。
この辺の感覚も非常に重要になってきます。



(8)そこで事業創出しようとする時にとるべき戦略として気をつけるべき点をまとめると①情報の測定精度を高めること。②影響度の高い変数にフォーカスして情報を取りに行くこと。③予測精度の高いアルゴリズムを取りに行くためのアウトカムの設定。④対費用効果を高める提案に持って行くための解析。という4点が挙げられます。これらは敷居が高く、だからこそうまくいかないという現状があります。従って、仮説検証型のデータ収集と分析を心がけて対費用効果を満たすモデルを構築しないとヘルスケア系のビッグデータを扱っての事業創出は難しいというのが私の仮説です。

(9)最後にショーペンハウエルというドイツの哲学者のメッセージを送りたいと思います。ショーペンハウエルが言うには物事が成功するのは3段階ある。第一段階は嘲笑される、第二段階は反対され、足を引っ張られる。この第二段階を超えないと大きいことは成功できない。と。今僕は第二段階にあるのですが、この段階を乗り越えて最後の段階にいきたいと思います。ご一緒にやりたいと思われた方はぜひお声をかけていただきたいと思います。ありがとうございました。






最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。