MVCメディカルベンチャー会議

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第105回MVC 定例会in東京

2012年10月21日 | MVC定例会
医療産業について学ぶため、川上浩司氏(京都大学医学研究科教授、薬剤疫学)を講師にお招きして、「医薬産業の現状と障壁をのりこえるために」をテーマにお話いただきました。



(1)私は筑波大学医学専門学群を卒業後、横浜市立大学大学院在籍中から、米国FDAの研究員になり、帰国後2006年に京都大学医学研究科教授に着任しました。専門の薬剤疫学という講座は正規には今でも日本で唯一です。



(2)20世紀には基礎医学/臨床医学という分野区分がありましたが、その時代は終わりました。Translational Medicine (Bench to Clinic)、Evidence based Medicine (Clinic to Population)だけではなく、Population to Benchも見据えたClinical EpidemiologyやPharmacoepidemiologyという3分野の循環が21世紀の医学研究です。



(3)医薬品と医療機器の開発は重要です。ただ、日本の医療産業における最大の問題は、研究開発投資が、全くバリューチェーンにつながっていない、という事実です。日本の医療産業においては、Innovation Ecosystemが乖離しており、投資が回収できていません。



(4)新薬の特許が認められてから25年間がデータの保護期間です。製薬会社は一日でも早く販売をしたいのですが、医学部でも臨床疫学の教育や研究が立ち遅れているため、新薬を上市させるプロトコール策定に弱いのです。また、日本の薬事行政は非効率で、新薬の承認までかなりの時間がかかります。



(5)医療は医学の実践ですから、医療分野においてはシーズからニーズではなく、ニーズからシーズという開発過程を採用する必要があります。携帯電話のような工業技術におけるシーズからニーズへ、という開発とは逆になります。



(6)1990年代から普及したEBM (Evidence based Medicine)においては、基礎医学→新薬→臨床という流れでしたが、欧米では、2000年以降、CER (Comparative Effectiveness Research)という流れも同様に重要になっています。これは疫学、生物統計学、行動科学、経済学に基づいて、QALYなどの尺度を提案する研究です。



(7)世界で均一化できるEBMから、各国独自の尺度を必要とするCERの時代になりました。英国で生まれたQALYなどの概念を用いて、費用対効果を検討する時代です。日本でも2012年7月に、厚生労働省の中に医療技術評価室が設置され、8,000万円の予算でCERを検討しようという動きが現れました。



(8)1990年以前から、オーストラリアやカナダなどの、巨大製薬企業を持たない国では、新薬の申請と承認に、薬剤経済学的な評価を利用する動きが現れました。それに続いて、欧州各国でも新薬の費用対効果を評価するための行政機関が設置されるようになりました。



(9)アメリカ合州国の医療は、実は、極めて費用対効果が悪いと言えます。医療費の対GDP比率は17%と高いにもかかわらず、平均寿命は78歳と低めです。高脂肪食制限と運動よりも制度改革に力点をおき健康省傘下のAHRQという役所で医療サービスの費用対効果を評価しようとしています。



(10)日本ではSocial security numberがないため、日本人の医療データが分散しています。これが日本において医療サービスの有用性や費用対効果を研究することが出来ない根本的な理由です。










【第二部】
「異業種からの医療界参入で成し遂げたこと」をテーマに雨宮玲於奈氏(株式会社リクルートグループエグゼクティブ)にお話頂きました。




1. 私は大学卒業後ベンチャー企業で人事を中心とした仕事をし、リクルートエージェントに入社しました。その後リクルートドクターズキャリア代表取締役等を経て、現在株式会社リクルートキャリア中途事業本部の執行役員をしています。

2. 今日は主に次の3点。①なぜリクルートは、医療分野に進出したか? ②医師転職に関する現状に関して ③リクルートが目指す医療分野の将来像、をお話しいたします。

3. リクルートはマス・マーケティングが中心で、あらゆる人生のイベントについて、媒体を介してコミットメントしておりました。しかし伸び白が限られているので、他のニッチ分野に進出する機会を伺っていました。

4. また、医療業界には情報の非対称性が存在し、解消すべき「不」、「負」が存在していました。つまり、新規参入して、新しい価値を提案できる素地があるということです。これらの点を考慮して、医療分野参入を決めました。

5. リクルートの医療事業領域には、医師・看護師・薬剤師の転職支援事業と医療健康の総合サイト「ここカラダ」の運営が基本にあります。前者が医療ビジネス領域、後者は生活者向けビジネス領域に属します。前者に関して、私が代表を務めていた株式会社リクルートドクターズキャリアが業務を行っていました。

6. 次に、医師転職(職場変更)に関する現状ですが、まず前提条件として、2004年度の①新医師臨床研修制度の開始、②国立大学・国立病院の独法化等が医師の転職(職場変更)に拍車をかけました。

7. 2006年の医師転職について、その規模感をお話すると、職場変更をした医師は75,000人。その内訳を述べますと、52,100人は医局経由、21,000人は一般公募、残りの1,500人が就職あっせん業者(人材紹介事業者)を通じて職場変更したと推定しております。

8. この数字を見てわかるように、世間のイメージである「医局制度の崩壊」といったのは、事実ではなく、依然として医局経由の職場変更が多いのがわかります。

9. このような状況を受けて、現在、複数の大学医局連合とリクルートドクターズキャリアが事業共同体を設立し、医師の教育と育成を医局が担い、当社が医師派遣を担うという仕組みの構築をめざす構想を描いているところです。

10. また、これまで医師転職情報に関しては、情報量において日本一となるように努めてきました。これからは、情報の信頼性、確実性を高め、医療界に存在する情報の非対称性の解消に努めていきます。





【第三部】
ソーシャルビジネスについて学ぶため、佐藤真琴氏(株式会社PEER代表取締役社長)をお招きし、「メディカル領域におけるソーシャルビジネスの可能性」をテーマにお話しいただきました。




1. 私は1977年静岡県生まれ。高校を卒業後、アメリカ留学や会社勤務を経て、静岡県内の看護学校に入学しました。実習中に出会った白血病患者が、高額のかつらを買えなかったという出来事をきっかけに、起業を決意。低価格なかつらを製造すべく、単身中国に渡り、数社の人毛かつらメーカーと提携と同時に株式会社PEERを創業いたしました。

2. 今日は主に次の3点、①ソーシャルビジネスの私なりの定義及び事例に関して、②患者さんへのケアの範囲、③PEERがどのような指針を元に運営しているのか、の3点お話いたします。

3. ソーシャルビジネスの私なりの定義は、ニーズを「どこに」、「どんな」、「どのくらいの量」が存在するのかが把握できるビジネスと考えています。また寄付や助成金に頼らず、業として行い、事業として持続可能性があることが必須です。

4. 私の美容院には、6,000人分の医療情報以外を収集したカルテがあります。これは家族構成やら、治療上の悩み等を含みます。このアナログのデータを詳しく見てみると、驚くほどニーズというのが把握できます。

5. この6,000人分ものデータを紐解いていくと、ニーズを「どこに」、「どんな」、「どのくらいの量」が存在しているのか、はっきりと把握できます。

6. 例えば、あるがん領域の分子標的薬を使用すると、どうしても生え際と頭のてっぺんが抜けてくるのですが、その他の部分は抜けません。となると、このてっぺんのみのかつらが必要なことがわかります。
7. また、病気を取り巻く環境を見てみると、身体、心理、社会、霊的の4分野に分けられます。医療者は身体を扱い、客観的データで治療指針・評価を決めていきます。

8. しかし、患者さんは心理から霊的までのケアが絶対的に必要です。これは医療者だけではカバーできず、関係者全体のサポート体制が必要です。

9. PEERでは、がん治療やその他見た目が変わる疾患や治療とうまく向き合うために存在しています。また髪が抜け始めから髪が生え揃い、いつもの美容室に戻るまでサポートしています。それとともに、前述した心理から霊的な領域のサポートの一環として、「茶話会」や「よろず窓口」といった「がん友」作りのきっかけもおこなっています。

10. 今後もPEERの活動を通じて、患者様が「病気になる前の生活を取り戻す」ための実践を進めていきます。

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