この4月から京都市響の常任指揮者に就任した沖澤のどかが、一昨年の10月山田和樹代演に引続いて再度読響に登場した。1曲目はソリストに三浦文彰を迎え、エルガーのバイオリン協奏曲ロ短調作品61という大作だ。エルガーにしては明るめの音色で明快なメリハリで音を紡いでゆく沖澤に対して、三浦のストラディバリの音色は豊かで美しく技巧も申し分ないものの、今ひとつ曲に入り込めずに感情が音楽にのりきれていないように聞こえた。それゆえタダでさえ長い曲が更に冗長に感じられる結果になった。休憩を挟んでワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」前奏曲とR.シュトラウスの「死と変容」作品24。この二つの曲が間を置かずに続けて演奏され、あたかも「死と変容」が「愛の死」と入れ替わったような具合だった。連結部分は調性的にも音色的にも不自然さを感じさせる所はなく、この二人の作曲家の個性を対照的に聴き比べることができたのはとても面白い経験だった。演奏の方は、前半エルガーと比較するとまるで水を得た魚のように生き生きとしたものだった。まさに本拠地をベルリンに置いて勉強している沖澤の面目躍如ということだ。惚れ惚れするような鮮やかで自信に満ちた振りでオケを統率し、そこから一部の隙もない音楽が生まれる。音響と構成の完璧なバランス、そして決して不自然さを感じさせない微妙な速度の揺れから生き生きした音楽が生まれる。そうした意味ではその手腕はもはや熟達の域に達していると言ってもよいくらいだ。そんな指揮に導かれた読響は、まるで日本のオケであることを忘れさせるように意味をもってブリリアントに鳴り渡り、激しい心の闘争とその後の安らぎを描き尽くした。
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