フィルップ・コーリー監督作品「マリア・カラスの真実」(2007)という映画を渋谷のユーロスペースで見た。これは不世出のディーヴァの一生をドキュメンタリー・タッチで描いた作品である。手法としては、過去の劇的エポック映像や音声を、一定の解釈の流れのなかに埋め込んで作られていて、ナレーションが全ての基調となっている。映像的に足りない部分は、舞台衣装の実写やイメージ画像を埋め草にしてる。そんな方法で作品としてどうにか形になっているものの、ドキュメンタリー映像と後追い映像の相違に違和感がないわけではない。50年前の現役歌手なので、映像による舞台記録が豊富にあるわけではなく、ほとんどの歌唱音源は膨大な録音音源から取られたもの。それゆえ、舞台での歌唱とのシンクロではなく、主に他の映像のバックとして使用されているに過ぎない。ナレーション台詞の構成からは、家庭に恵まれず、人生の伴侶にも恵まれず、その結果、本当の「愛」を知らずに育った女が、その天賦の才能と人並でない努力で手に入れた栄光、しかしそれは、決して幸せなものではなかったという筋書きをが現れてくる。しかし、その悲劇的なストーリーに衝撃性はあるものの、それはある意味類型的と言えば類型的である。では作品として一流かというと、どうもそのあたりはテーマの重さに頼りすぎている感があって、手法や映像表現のセンスも月並みで、どうも完成度はいまいちと言わざるを得ない。ただ、テーマがテーマだけに、心の重苦しさだけは十分に残ったが、それは「感動」とはいささか違うものだ。カラスに感動したければ、CDの中に封じ込められた仮想のドラマの数々に勝るものはないようだ。
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