春琴抄。これまで幾度と無く、あらすじなどを聞きかじってきたが、一度も原典にあたったことがなかった。谷崎といえば、耽美的で背徳的なエロスを日本(上方)の伝統的な美的世界の中で描いているなどと評される。全くその通りであった。西洋にも倒錯性を描いた物語はたくさんあるし、その中の何冊かは読んだことがあるが、やはり舞台が日本のほうが「しっくり」くる。春琴は盲目ゆえに鋭くなった感性を三味線にぶつける。しかしときに、鬱屈した感情を暴発させる。その感情矛先は寡黙な奉公人の佐助である。彼は春琴からうける厳しい仕打ちにいつしか喜びを感じていく。こう書くとなんだかSM小説風であるが、どちらかというと愛に殉じる心中物に近いと思う。愛するという行為に歓びを感じる佐助は果たして倒錯者なのか。それとも真に愛することを体現した幸せな男なのか。ともあれ究極の愛の形の一つであることには間違いない。
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