チキチキ読書日記

無駄に読み散らかした本の履歴です。

芸術起業論 村上隆 幻冬舎

2006年08月06日 23時01分35秒 | 芸術・美術論
ルイヴィトンとのコラボで一躍一般人にも知られるようになった村上隆の暑い、いや熱い芸術論である。
「芸術は金にならない」
これはもう一般論に近く流布している。
そして芸術を志す者たちも、金のことを云々するのは芸術家の道義に反すると思っているふしがある。

村上はアートで金を儲けたいのだ。
もちろん村上個人が金を儲けて終わりではなく、アートが金を儲けられるようにするシステムとノウハウを構築しようとしてる。
そのあたりがとても斬新で新鮮である。

彼はまず西洋の美術史を丹念に読み込んだ。
それは欧米では芸術の確固たる評価軸があり、その文脈に則ってはじめて評価の俎上にのせてもらえるのだ。

そのことを村上は、自身のアメリカ滞在の経験も含めて徹底的に理解した。

そして村上は自らの芸術のモチーフに「オタク」をとりあげる。
等身大のNISS KO2は大絶賛され、それはオークションで一億円の値がついた。

しかし、オタクを取り上げたことは、「ホンモノ」のオタクたちからの不評を買った。
オタクをダシに使って儲けてると。

そもそも村上がオタクを取り上げようと思ったのは、アメリカ滞在中のことである。
芸術の「本場」アメリカで製作に没頭できる環境にありながら何も造れない。
それは、それまでの製作の原動力が日本の美術家へのあてこすりであったからだ。
アメリカにきたら、もう日本へのあてこすりは通用しない。
日本では差別されてきたオタク文化から、距離をとってきた村上はアメリカに来て改めて気がついた
漫画に感動し泣き、街角に流れる日本のアニメに反応してしまう自身の姿に。

オタク文化をモチーフにすることは、おそらく同時多発的に多くの人間が考えたと思う。
しかし、自らの技量を鍛えることはもちろん、欧米の美術界の構造を徹底的に調べ上げた村上のみが一心にその評価を受けることになった。

アメリカで大成功したスーパーフラット展で、村上を評価した評論家の東浩樹は、現在は完全にアンチ村上になってしまっている。
その理由は村上は自らのキャラクターに似たキャラを製作した起業に、猛烈に著作権侵害を主張したからだ。
そもそも村上自身もオタク文化から相当の「パクリ」をしているにもかかわらず、ここで著作権を主張するとは何事ぞ、というのが東の怒りの本質である。

この事例を見ても最近の村上はアートで儲けるためのシステムを構築しようとするあまり自ら硬直化しているように見えなくも無い。

しかし押しも押されぬ日本の美術界のエースである。
今後の動きに注目したい。