松尾芭蕉でもなければ、東北のネタでもなく、千葉の話です。子供の頃、兄貴においてけぼりを喰らって、知らない町で迷子になったことがあります。あれは怖かったです。暫くのあいだ寝つけなくなった程でした。ところが今は、山奥の細道に向かい、わざわざ迷って走ってます。
房総の中心あたりの国道から谷筋を抜けて尾根に向かい、いくつかの素掘りトンネルを抜けます。やがて民家や、田んぼが無くなってきます。
簡易アスファルト舗装やコンクリート舗装が出てきて、軽トラギリギリの1車線の道がうねうねと、山を巻きながら続いていきます。
耕す人がいなくなった畑、つい最近まで住んでいたはずの家、倒れてしまった家屋など、生活の痕跡が現れてきます。途切れそうで途切れない、細い細い生活の道です。
やがて日暮れが近づいて、暗くなってきます。町もまだまだ遠いですし、ガソリンの残りも頼りなくなってきました。
迷って緊張感がピークになるタイミングで、人工物に出会うことがあります。ハイキングコースの案内板や、寂しい電灯など。安心と引き換えに冒険はおしまい。しばらくすると自販機のある普通の県道に合流します。こういうのが楽しかったりするんですが、わかる人もいますよね。都会に近いと存在しないし、山奥すぎてもただの林道になりますので。行き止まりになるかならないかのギリギリで、山奥の小さな集落を繋いでいくのがよろしい。ちなみに下調べはしないほうが良いですね。千葉県の南房総に行くとこんな道がたくさんあります。おすすめは、鋸山の南東の山の中です。適当に進んで、行き止まりでもそれはそれでOKです。
水仙の花や、真っ赤な烏瓜を見ながら、のんびりと走るのが良いんですよね。
ところで細道は時々、民家の庭に繋がって行き止まりというパターンがあるから要注意です。いつも「怪しまれるのではないか?」という気持ちで焦って、慌ててUターンしてましたが、脳内会議で審議した結果、一番いい挨拶が決定したのでご報告を。「こんにちは。行き止まりですか~?(あちゃーってな雰囲気で)」ああこの人は間違えて来ちゃったんだ、間抜けな人だなあって事にしたい。「どうもどうも」と言いながら、落ち着いて引き返せばよろしい。
そりゃあ凄い山奥の自分ちの庭先に、突然バイクが来るのって、ちょっと怪しいもの。昔、田舎に住んでた頃なんて、「昨日ここらで見かけない車がアンタん家への道を登っていってたで」と近所のじいさんが教えてくれたりしたもんです。そうそう、この間ちょいとT秘境に寄ってから山を適当に進んでたら、やっぱり民家にたどり着いてしまいました。
一車線しかない激狭の道が民家に繋がって行き止まりになったので、Uターンして道を下っていると、軽四自動車が正面から来てしまいました。それはもう人口密度から言えば凄い確率で、なにせ1時間程人間を見ていないような場所だったので驚きました。すれ違いは完全に不可能なので、畔道に入ろうと思ったんですが、側溝や崖があって乗り入れできません。
停止している軽四輪の横に、かろうじて空き地があったのでそこへ入ろうと思ったんですが、軽四輪がスルスルとこちらに進んできてしまい、空き地への入口を塞いでしまいました。モタードと言えども重量は軽く130キロを超えます。この坂道をバックするのはとても出来ないのでバイクを止めて、車のほうでバックしてもらえないかと丁寧にお願いしました。乗っていたのは80歳がらみの老夫婦で、運転しているお爺ちゃんは、「バックは無理だ、どうしても無理だ」と言います。2メートルくらいなのに。代わりに車を運転しようとも思ったんですが、他人の車だし、おまけに横に乗ってるおばあちゃんが蝋人形の様に不気味で(失礼!)おまけにオイラを見る目は完全に不審者扱いです。
仕方がないので、渾身の力でバイクをバックさせようとしたその時、左手首から「メキリッ・・・」と変な音が。痛い、すっごい痛い。やってしまったんじゃないですか、自分で。ポキッって。涙目になりながら、「すいません。バイクなんでバックが出来ないんです。重くて無理なんです。」と泣きを入れたところ、「ワシもやる」とお爺ちゃん。マジですか?2人でせーの!せーの!!とバイクを後ろ向きに押します。「こりゃあ重いがな」とお爺ちゃん。なんとかやっと坂の途中まで押し上げて、路肩の草地に無理やりバイクを押し込みました。
滝の様な汗が出ます。お爺ちゃんにお礼を言って、丁寧に謝ります。しかし、お爺ちゃんオイラを完全無視。ええー?!そして軽四は時速10キロぐらいでジワジワと山を登って行きました・・・。落ち着いて左腕の様子をみます。動くし折れちゃいないとは思うが、激痛です。林道は控えて変える事にしました。迷子もほどほどに。