子供の頃は、抜群の記憶力を誇ったわたしであるが
ピークは高校生のときで、一晩に100個くらいは軽く単語を覚えることが出来た。
また、くだらないこともよく覚えていて、何年前のご飯がなんだったとか
挙句に人のことまでよく覚えているので、姉は一時期わたしを「記憶係」にしていたくらいだ。
しかし、それも年々衰えてきて、最近じゃ些細なこともすぐに忘れる。
仕事で大事なことはメモをとるので、それ以外で忘れてしまうことは
どうでもいいことだから忘れてしまうんだろうと、さほど気にしていない。
最近多いのは、倉庫まで来て「何しに来たんだっけ」というやつである。
今日もそれをやっていたら、わたしよりいくらか年上のTさんが、さも嬉しそうに
「それは老化現象よ」と言う。
だからなんだ、と思いながらも何をしに来たのか考えていると
「老化っていくつから始まるのかな」と愚問を投げかけてくるので
「老化なんて思わなければいつまでも老化しないのよ。うふふ」と不気味に微笑んで見せると
「でも実際、老化するわけでしょう」と食い下がってくる。
そうか、そんなに答えを聞きたいか。
仕方ないのでわたしは答えた。
「それはね、生まれたときからよ」