井沢満ブログ

後進に伝えたい技術論もないわけではなく、「井沢満の脚本講座」をたまに、後はのんびりよしなしごとを綴って行きます。

後期高齢者のラブストーリー

2013年05月09日 | ドラマ
表題を岸さんが見たら、嫌な顔をされるだろうなあと思いつつ、
敢えて。
分かりやすいのと、「世間」はそう受け止めるであろうから、皮肉を込めて。

岸恵子作「わりなき恋」のヒロインは70歳で、岸さんにしてみればもっと
年齢を上げたかったのかも。
男は60代。この年齢設定を聞いて「あり得ない」とか「気持ちが悪い」と
いう人には無縁の物語。
要するに年齢は関係ないのである。
精神的には成熟はしているので、会話も恋の駆け引きも長けているけれど、
恋のはじめの揺らぎも、嫉妬も十代と大して変わりがありはしない。
もう何十年も前からそう思って来たけれど、その通りだった。

小説中の男女は経済力もあるので、舞台背景も豪華だが、それゆえに
恋の質が変化するわけでもない。ありようは中学校を舞台にしたラブストーリーと
変わりがあるわけではない。

「同窓会」という大昔の作品をコメント欄で話題にしていただいたけど、
これは男同士の愛の物語。愛に年齢も性別も関係ないよ、それは
魂の次元のことなのだから、という事がテーマの作品であったのだけれど
当時はずいぶん、誤解も受けたし安易にホモドラマ扱いもされた。
反面、リアリズムから言ってあんなホモはいないと言われもした。
ホモを書こうと思って書いたわけではない。
私が書きたかったのは、同性同士という一種の極限状況での普遍の愛の物語だった。
それが10年、20年と時を経るにしたがって、書いた当時の思いを
まっすぐ受け止めてもらえるようになった。時代的にそういう意味では
10年か20年早すぎた作品だった。ヒットはしたのだが、作品にこめた
思いがまっすぐ伝わるまでは時を要した。

岸さんも、わざわざ高齢者どうしの性愛を描こうと思ったわけではないと
思う。恋愛ありきで、それがたまたま世間一般常識で言ったら、
ヒロインは後期高齢者と言われる年齢であった、というに過ぎない。
「同窓会」も似たようなことで、恋に落ちたらたまたま相手が
同性だった。岸さんの小説に「恋に近い友情」というフレーズがあり、
素敵だなと思った。もっとも岸さんは男女の間にそれはない、という
規定で書いていらしゃるのだけど。同性間にはそれがある。
ジャン・コクトーも同性間の愛を「極端な友情」と表現している。
恋愛に成熟したフランス特有の言葉があるのかもしれない。

「同窓会」に関しては、リクエストもあるので、制作にまつわるエピソードは
おいおいに書いて行くとして、岸さんの小説に触発された
というわけでもなく、世間的には高齢と言われる人の恋を書いてみたいとは
思っていた。次回作か次の次で書くことになるかもしれない。
しかし、大人のヒロインが一人で成立するほど、日本の恋愛風土は
熟してはいないので、若者の恋と並べて描く手法を取るだろうと思う、
もし書くとすれば、だが。
日本ではまずないので、書いてみたい。
「時雨の記」だったかな? 話題になったのはあるが、今思うとせいぜい
60前の男女ではなかったか?
私はいっそ80歳に近い年齢で書いてみたい。テレビでは性愛の部分は無理であるけれど、
ちゃんとそこは踏まえて書きたい。

岸さんの小説を現実離れしたお伽話か願望小説のように受け止める人のほうが
多いと思うけれど、実際に岸さんという方を知っている者からみれば、
なんの、ほとんどドキュメントではなかろうかと思われる。
もっとも、それが成立するのは岸さんほどの美貌と肢体を保っていてこどのことで、
相手の男とて60ではや還暦爺として、へたっていてはラブストーリーの
登場人物にはなれない。しかし美男美女でなくても、市井の高齢者の中には
ひそかに、恋をしている人たちもいるかもしれない。
そこにスポットを当ててみたい。老人ホームの色ボケとは違う次元の
まさしく「恋」を書いてみたい。

「同窓会」も当時はゴールデンタイムに大した無謀な冒険であったけれど、
私は冒険が好きである。

岸さんの小説では、ヒロインのほうが長年の性の不在で肉体が、男性を
受け入れず、婦人科を尋ねる生々しいリアリズムがあるが、テレビでは
描けない。ちらっとしたセリフとか、しぐさで暗示して分かる人には分かる、
という手法を取るかもしれない。高級テクニックであるし、見る側にも
成熟度が求められるけれど、そこは分からなくても話は分かる、という
書き方が実はプロとしての技も上級編になってくる。


1 コメント

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人間愛・・・ (たける)
2013-05-09 23:28:25
「同窓会」がスキャンダラスに取り上げられたのは確かですが、根本に流れている愛は揺ぎ無いものでした。20年経った今でもそう思います。20年前、ジェットコースタードラマが流行りましたが、この作品はそうは思いません。それは愛を突き詰めた作品だからです。
熟年の方々の恋愛も興味があります。ひとつの愛の形として・・・。
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