井沢満ブログ

後進に伝えたい技術論もないわけではなく、「井沢満の脚本講座」をたまに、後はのんびりよしなしごとを綴って行きます。

個室理容室

2013年08月10日 | ドラマ

新作2つのドラマの打ち合わせを近くの喫茶店でして、ふと髪を切ろうかと
「個室」と表示のある理容室が駅前にあったので、入ってみた。

ミッドタウン内の、某ホテルのレジデンスに暮らしている頃は、やはり
ミッドタウン内の建物内にある理容室に通っていたが、ここは特に表示もなく当たり前のように
全て個室だった。
久々の個室で髪を切ってもらったが、価格がミッドタウンのまず
十分の一で、改めて高い所で暮らしていたのだなあと思った。
はっきりした記憶はないのだが、爪を整えてもらって1万円だったか?
価格は覚えてないが、内館牧子にその話をしたら、彼女は
絶叫した。「あたしが爪を切ってあげるし!」


室内の電球が切れてコンセルジュに頼むと、電球換えの手間暇込みで
4千円ぐらいだったかと思う。
バカバカしいようでもあるが面白い暮らしではあった。
また新たなバブリーなレジデンスが建設されるようだが、当時は
日本でもっとも、豪奢なレジデンスであったと思う。
長期に暮らすほどの財力はないが、束の間でも味わっておいて
物書きとしてはよかったと思う。

だだっ広いリビングから真正面に東京タワーが見える部屋で、しばらく
喜んでいたが、そのうち見るのも嫌になり、しまいには
軽い吐き気を覚えるようになった。所詮人工物なのである。

東京タワーのような非日常、ハレを毎日眺めて暮らすものではない。
これが自然の大木なら、こうも嫌気はささなかったろう。
建物もあたかも要塞で、雨風の気配全く判らず、外で
暴風が荒れ狂っていても中は森閑と静まり返り、冷暖房が廊下にまで
行き渡り、季節はそこにはなかった。

地震は揺れが来る30秒前に警告のアナウンスが有り、緊張して
待ち構えていると、最新の免震構造の建物は全く揺れず、
ふと見ると天井のシャンデリアの飾りが僅かにゆらめいていた。

支配人がハンスという名の、どこの国の人だったか、英語しか
通じない人で、玄関にはドアマンやコンセルジュたちがいるので、
サンダルにユニクロというわけにもいかず、しじゅう外出着に
近い格好で暮らしていた。

その前は世田谷の住宅街に暮らしていて、小鳥の声で目覚める暮らしで
夏はセミの、秋はむしのすだきに家が包まれ、空と木が手を伸ばす距離に
いつもあった。人はあまり自然から離れ過ぎるべきではない。