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古代日本の多民族国家信州信濃の地名を探る

2013-09-01 23:33:13 | 論壇

「信州、地名の由来を歩く」を読んだ。信州出身者には外せない本である。著者は、筑波大学で民俗学者柳田国男の研究で博士号を取得した、歴とした歴史学者の谷川彰英。松本出身の歴史学者。同大学副学長を辞めて、本来の歴史学のノンフィクション作家として独立した。
 長野県人は、自己紹介でほとんど長野県出身と言わない。信州出身という。長野出身という者がいるとすれば、それは信州の長野市出身者である。
 長野冬季オリンピックでは、長野市界隈以外の長野県人は、ほとんど無関心だった。札幌オリンピックの方が関心が高かった。それほど信州人は、地域性が高く、自分の地域以外は別人種が住んでいると思っている。
 この本は、信州の地域性を地名で探っている。県歌「信濃の国」に出てくる松本・伊那・佐久・善光寺の地域性を古代にまで遡って検証しているのだが、アメリカの州のように、独立性の高い県民性の中身が地域ごとに明らかになって、現代人を古代までいざなう。
 まず、長野市のある善光寺平野の象徴である善光寺のルーツでは、善光寺の本尊阿弥陀三仏像は、日本の古代史に深く関与している。6世紀に日本への仏教は、朝鮮半島の百済からもたらされた。その時の百済王が聖明王、日本の天皇は欽明天皇だった。538年と552年説がある。欽明天皇は、聖明王から贈られた仏教経典と仏像を、仏教に関心の高い蘇我氏に預けた。
 蘇我氏は自宅にこの仏像を安置した。折悪しく、このとき日本に悪疫病が大流行し、多くの人が命を落とした。これを、仏教に反対する物部氏と中臣家が、仏像の祟りだと喧伝したため、蘇我氏はこの仏像を密かに浪速の堀江(=運河)に捨ててしまった。これを、信州人の本田善光が発見し、仏像が口を利き「信州まで運んでくれ」と哀願するので、三像を背中に背負って、信州・伊那の自宅に持ち帰って安置した。これが、現在の飯田市郊外の元善光寺である。元善光寺の三像は41年後に水内郡(みのちごおり=現長野市)に移され、善光寺が建立された。
 善光寺の本尊阿弥陀三仏像は、日本最古の仏像である。また、聖徳太子の17条憲法の、第1条.和を持って貴しとなすに続く、第2条.篤く三宝を敬え。三法とは仏法僧である。これにより、日本神道の外に仏教を採用し、神仏習合時代に入る。これは、明治政府の廃仏毀釈令まで、約1200年続いた。
 ここまでは、日本最古の公文書の歴史書「日本書紀」に書かれている。
 大阪には河内長野がある。この河内長野人が移住したところが現在の長野市だと言われている。ついでに、ボクの実家や先祖代々が住んでいるところは、南信州の伊那市である。この伊那人もまた員弁(いなべ)=伊那部であり、朝鮮から摂津(=現大阪)に渡来した員弁の末裔が、摂津国河辺郡為奈(いな)郷を形成したとされる。これは,現在の尼崎市東北部に相当する。
 ウッヒャーッ!!。ボクの生まれは大阪市此花区酉島町の住友金属此花寮である。戦後住金が復興して父が住んでいた単身赴任寮は尼崎市森51、住金園田寮である。河野家は日本史の6世紀と同じことをして、大阪と信州の接点をつくっている。
 歴史は面白い。諏訪は国譲り物語に出てくる出雲の神建御名方神(タケミナカタノカミ)が、大和の国の建御雷之男神(タケミカヅチノカミ)に力比べて破れて、出雲から信州の山奥に逃げ延びた場所である。諏訪大社の本尊は神建御名方神である。平安時代の延喜式神名帳によれば、諏訪大社は常陸の鹿島神宮、上総の香取神宮とともに東国の三軍神と明記されている。
 都会人に人気のある安曇野は、当地出身の作家臼井吉見の小説「安曇野」で有名になったが、歴史は古く7世紀に活躍した軍事外交家阿雲比羅夫(あずみ・ひらふ)一族の末裔が、北九州の本拠地だった志賀島から信州の山奥・安曇に逃げ込んだとされる。それは大和朝廷の百済再興のための任那(みまな)復興計画を、百済を倒した新羅に通報していたのが阿曇一族どいわれ(盤井の乱)、新羅のスパイとして朝廷から追われた一族が、海伝いに日本海を北上、糸井川沿いに安曇野に逃れたという説。阿曇一族は、阿雲、安曇、安住、渥美などと姓名を名乗り、安曇野だけでなしに全国に散らばっている。
 このほかに、上田の真田一族、諏訪の諏訪一族、伊那一族、木曽一族、須坂一族のルーツなど、信州・信濃の末裔にとって、垂涎の的のような歴史書である。もちろん、現代口語体表記だから、古代モノでもスラスラと読める。
 信州人で良かったとつくづく思った。暗記するまで読みたい。
            (ベスト新書/定価800円+税/KKベストセラーズ発行)

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