「ああ~もうだめだ~」
「まこと、うるさい。手が止まってる」
「だめだってば~」
「・・・だめじゃない」
「無理、もうほんと無理。頭パンクしそう。レイ、休ませて」
「まだ始めて一時間も経ってないでしょ」
「そうは言っても、物理は苦手なんだってば・・・」
「苦手だからやるんじゃない。まったく・・・まこと、亜美ちゃんが教える側だったらそんなこと言わないのに、なんなの」
「亜美ちゃんにはそんなこと言えないだろ。しょうがないじゃないか、今回亜美ちゃんは美奈とうさぎに取られたんだから・・・」
「教えるのが私で悪かったわね。嫌ならひとりでやりなさい」
「それはもっとやだ」
「・・・なら、もうちょっと集中することね。まったく、3人で揃いも揃って追試とか・・・」
「あたしは物理だけだもん・・・どーも今回の単元苦手なんだよな・・・あー、もうだめだ」
「言い訳しない」
「・・・でも、レイ。ほんとに、だめなのあたしだけじゃないよ」
「はいはい、美奈とうさぎがあなたよりひどい成績だったのはわかってるわよ。でも、追試は追試で」
「そうじゃなくって、この部屋。もうだめだと思う」
「え?部屋?」
「もうすぐ電球が切れて暗くなっちゃう。だからどっちにしても休憩しなきゃ」
「そんな、いい加減なことを・・・‥・・・って、え?電気が消えた・・・」
「ああ、もうヒモ引っ張ってもだめだよ。ブレーカーでもないし。停電もしてないよ。単純に電球の寿命だね、替えはある?」
「・・・確か、そこの引き出しの一番上の段に」
「じゃあ替えるよ。ついでに休憩しよう。で、お茶しよう。今日はふたりだからおやつのグレード高いぞ」
「・・・いや、おやつじゃなくて。なんでわかったの?」
「え?なにが?」
「電球が切れるって・・・どうしてわかったの」
「うーん、なんかそんな気配っていうのかな?が、したんだよね」
「電球の寿命?」
「寿命がわかるなんて言うと大げさだけど、なんとなく、いつもと電気の流れが違うというか、流れてる線が弱々しいっていうか、もう終わりだなってそういうの感じるんだよね」
「それは、まことがそういう、帯電体質だから?」
「あー、そうかもね。磁気の乱れとか結構わかるほうだし・・・だからって壊れるのを防ぐとか、壊れちゃったものの修理とかはできないけど。あ、でも、あたしの電気で電球の寿命が縮んだわけじゃないと思うぞ」
「そんなことは思ってないわよ」
「ま、どっちにせよとりあえず球を替えよう。暗いし、このまま勉強したら目悪くなっちゃうよ」
「いいわよ。私やるから」
「いいって、レイだと踏み台いるだろ。あたしこういうの得意だから」
「得意なの?」
「そりゃあ、ひとり暮らしが長いとこういうことは自分でやらなきゃだったし」
「・・・苦労してるのね」
「べつに、電球くらい苦労にならないよ。でも、レイ、もう電球じゃなくてLED照明に替えたら?あれ、便利だよ」
「べつに電球で困ってないから、いいわよ」
「そうかなー。替える前はわりとみんなそう言うけど、実際替えたら明るさの調整もしやすいし、寿命も段違いだけどなあ」
「必要に迫られてないから、いらない。いちおう、参考のひとつにはさせてもらうけど」
「まあ、確かに家のことはおじいちゃんとも相談しなきゃだよね。でも、よくよく考えたら、やっぱりあたし、この電球の寿命縮めてるかも」
「えっ、それはやっぱり体質のせい?じゃあ、まこと、電球と相性が悪いの?」
「うーん、体質と言うよりは・・・これはレイのせいかな」
「え?私のせい?どうして?」
「うーん・・・いっしょにいると電気消せないまま朝になっちゃうことがたまにあるから、かな」
「・・・っ」
「電球って使っただけ寿命が縮むから・・・あたしと会う前とあとでは、だいぶ差があるんじゃないかなって、思ってるんだけど」
「・・・知らないわよ」
「ちなみに参考程度でいいんだけどさ、LED照明だと、布団から出なくても、枕元でスイッチ一つで操作できるし、真っ暗にも夜用の明るさにもできるし・・・どう?」
「・・・・・・考えとくわよ」
「・・・ふふ」
「・・・言っとくけど、あなたにしょっちゅう電球替えさせるの、いろいろ煩わしいと思っただけよ。だから・・・」
「それはつまり、しょっちゅう電球替えなきゃいけないほど、あたしにここにいてほしいってことだろ」
「・・・・・・・・・」
「・・・うん。うれしい」
「・・・おやつ抜きで、電球替えたらすぐ勉強やるわよ。追試に二回も引っかかるなんて真似、みっともないから絶対にやめて」
「ええ~・・・」
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