テツさんと汲んだタンクを実家に持ち帰ると、父は喜んだ。
「まいの彼氏には世話になりっぱなしだな」
なんて。
これだけあれば等分困ることもないだろう。
少し心に余裕ができた。
ただ、母親とは小さな衝突は毎日のようにあった。
女が同じ台所に入るとロクな事がおきない。
ケンカばかりで、アタシは食事の時以外は祖母の部屋にずっといた。
毎日原発のニュースを見て、携帯で原発の記事をチェックする。
東電などの記者会見が始まればテレビのボリュームをあげ、祖母の声をさえぎった。
原発が爆発する度に父親に逃げようと言い、だんだんとアタシは家族から煙たがれるようになった。
そんな日が続いたある日、父親が職場復帰した日。
母は昼寝をしていて、アタシは食事をしていた。
ラップをひいた茶碗に盛ったご飯にタラコ。
こんな食事ばかりだった。なんせ生きた心地がしなくて食欲が出ないから。
食事を済ませ、祖母の部屋でゴロゴロしていた。
栄養失調になりかねないから、水の代わりにスポーツドリンクを飲んでいた。
余震はバカみたいに続いている。
大小関わらずビクビクしていたけど、起き上がったりすることはなかった。
携帯片手にゴロゴロしていると、遠くでサイレンが聞こえた。
最近はそんなのも日常茶飯事だったから無視していると、母親が血相を変えて部屋に飛び込んできた。
「まい!何やってんだ!」
急に言われても困る。
「津波が来るって消防車が言ってたぞ!早く避難しないと!」
な、なんだってー!
確かに大きい地震はあったかもしれないけど、まさか津波だなんて。
そんなのニュースでもやってないよ。
なぜ?
そうだ!テツさん!
今朝テツさんと電話をして、テツさんは会社にいる!
アタシの家は海から1キロくらいだけど、テツさんの会社はほんの数メートルしか離れてない!
しかも今はメールも電話もなかなか繋がらない!
どうしよう!テツさん!
絶対に気づいてない!
一気にパニックになった!
でも、逃げなきゃ!
どこへ!?どこへ逃げる!?
『どうする!?どこに逃げる!?』
「とりあえずI町に行くか!」母が言った。
I町はちょっとした高台に住宅街があるから、そこに逃げようという魂胆だ。
でも、お父さんが!
仕事だよ!どうしよう!
母が電話してるけど繋がらない!
でも津波はそこまで迫ってる!
逃げなきゃ!逃げなきゃ!
アタシは足元に落ちてる広告をあさった。
裏が白ければメモを残そうと思って。
父は絶対アタシ達を心配して家に帰ってくるはずだから。
父の車には避難できるように飲み物や毛布が入っているから。
父がいないと家族で逃げられない。
チラシが!チラシの裏が白いのがない!
アタシは焦った。
このままじゃ父とはぐれてしまう。
アタシはティッシュを取り、ボールペンで”I町に逃げる”と書いた。
『逃げるよ!ばーちゃん!早く車に乗って!』
祖母に声をかけ、急いで自分の荷物を車に投げ込んだ。
祖母はこんな時に限って、荷物をつめたバッグの中身を出してタンス等もとの場所にしまってしまったらしく、全然荷造りができない。
『早く!何してんの!』
アタシは怒鳴った。
なんとか祖母と母を車に乗せ、家を飛び出した。
すると、まさかの渋滞。
そりゃそうだよね。津波が来てるんだもん。
死んだかな。と思った。
だってアタシ達の家のすぐ傍には川が流れてる。
水神様、なんてやったくらい氾濫したことがある川だ。
渋滞でその橋で動けない。
中には信号無視をする車もいた。
ブレーキを踏む足がガクガクと揺れている。
「こんなのしか持ってこれなかった」
母は、財布が入った手提げしか持ってこなかった。
本当に緊急事態だと、こんなもんだ。
アタシだけが、荷物一式持ち込んでいた。
とある十字路に着いて、一つの選択肢が出た。
まっすぐ行くか、右折するか。
それによって行き先が変わる、
まっすぐ行けば当初の目的のI町に。
右折をすればアタシのアパートがある。
アタシのアパートはI町よりも少し遠く、またそこも高台になっておりまず津波の心配はなかった。
『ママ、どうする?アタシのアパートに行く?』
交差点はすぐそこまで迫っている。
『どっち!?どうする!?』
もう右折するなら右折ゾーンに入らないといけない。
「お前のアパートに逃げるか」
よし!とアタシはハンドルを切った。
こっちに進む人はあまりいなかった。
けれど、父に残したメモにはI町に行くと書いてしまったのに。
はぐれてしまうんじゃないか。
父だけ逃げ遅れてしまうんじゃないか。
そんなことばかり考えていた。
なんとかアパートに着いた。
運よく父とも連絡がとれて、アパートに来ることになった。
しかし問題はテツさんだった。
テツさん、どうしただろう。
津波、大丈夫かな。
テツさん、テツさん、テツさん。
「まいの彼氏には世話になりっぱなしだな」
なんて。
これだけあれば等分困ることもないだろう。
少し心に余裕ができた。
ただ、母親とは小さな衝突は毎日のようにあった。
女が同じ台所に入るとロクな事がおきない。
ケンカばかりで、アタシは食事の時以外は祖母の部屋にずっといた。
毎日原発のニュースを見て、携帯で原発の記事をチェックする。
東電などの記者会見が始まればテレビのボリュームをあげ、祖母の声をさえぎった。
原発が爆発する度に父親に逃げようと言い、だんだんとアタシは家族から煙たがれるようになった。
そんな日が続いたある日、父親が職場復帰した日。
母は昼寝をしていて、アタシは食事をしていた。
ラップをひいた茶碗に盛ったご飯にタラコ。
こんな食事ばかりだった。なんせ生きた心地がしなくて食欲が出ないから。
食事を済ませ、祖母の部屋でゴロゴロしていた。
栄養失調になりかねないから、水の代わりにスポーツドリンクを飲んでいた。
余震はバカみたいに続いている。
大小関わらずビクビクしていたけど、起き上がったりすることはなかった。
携帯片手にゴロゴロしていると、遠くでサイレンが聞こえた。
最近はそんなのも日常茶飯事だったから無視していると、母親が血相を変えて部屋に飛び込んできた。
「まい!何やってんだ!」
急に言われても困る。
「津波が来るって消防車が言ってたぞ!早く避難しないと!」
な、なんだってー!
確かに大きい地震はあったかもしれないけど、まさか津波だなんて。
そんなのニュースでもやってないよ。
なぜ?
そうだ!テツさん!
今朝テツさんと電話をして、テツさんは会社にいる!
アタシの家は海から1キロくらいだけど、テツさんの会社はほんの数メートルしか離れてない!
しかも今はメールも電話もなかなか繋がらない!
どうしよう!テツさん!
絶対に気づいてない!
一気にパニックになった!
でも、逃げなきゃ!
どこへ!?どこへ逃げる!?
『どうする!?どこに逃げる!?』
「とりあえずI町に行くか!」母が言った。
I町はちょっとした高台に住宅街があるから、そこに逃げようという魂胆だ。
でも、お父さんが!
仕事だよ!どうしよう!
母が電話してるけど繋がらない!
でも津波はそこまで迫ってる!
逃げなきゃ!逃げなきゃ!
アタシは足元に落ちてる広告をあさった。
裏が白ければメモを残そうと思って。
父は絶対アタシ達を心配して家に帰ってくるはずだから。
父の車には避難できるように飲み物や毛布が入っているから。
父がいないと家族で逃げられない。
チラシが!チラシの裏が白いのがない!
アタシは焦った。
このままじゃ父とはぐれてしまう。
アタシはティッシュを取り、ボールペンで”I町に逃げる”と書いた。
『逃げるよ!ばーちゃん!早く車に乗って!』
祖母に声をかけ、急いで自分の荷物を車に投げ込んだ。
祖母はこんな時に限って、荷物をつめたバッグの中身を出してタンス等もとの場所にしまってしまったらしく、全然荷造りができない。
『早く!何してんの!』
アタシは怒鳴った。
なんとか祖母と母を車に乗せ、家を飛び出した。
すると、まさかの渋滞。
そりゃそうだよね。津波が来てるんだもん。
死んだかな。と思った。
だってアタシ達の家のすぐ傍には川が流れてる。
水神様、なんてやったくらい氾濫したことがある川だ。
渋滞でその橋で動けない。
中には信号無視をする車もいた。
ブレーキを踏む足がガクガクと揺れている。
「こんなのしか持ってこれなかった」
母は、財布が入った手提げしか持ってこなかった。
本当に緊急事態だと、こんなもんだ。
アタシだけが、荷物一式持ち込んでいた。
とある十字路に着いて、一つの選択肢が出た。
まっすぐ行くか、右折するか。
それによって行き先が変わる、
まっすぐ行けば当初の目的のI町に。
右折をすればアタシのアパートがある。
アタシのアパートはI町よりも少し遠く、またそこも高台になっておりまず津波の心配はなかった。
『ママ、どうする?アタシのアパートに行く?』
交差点はすぐそこまで迫っている。
『どっち!?どうする!?』
もう右折するなら右折ゾーンに入らないといけない。
「お前のアパートに逃げるか」
よし!とアタシはハンドルを切った。
こっちに進む人はあまりいなかった。
けれど、父に残したメモにはI町に行くと書いてしまったのに。
はぐれてしまうんじゃないか。
父だけ逃げ遅れてしまうんじゃないか。
そんなことばかり考えていた。
なんとかアパートに着いた。
運よく父とも連絡がとれて、アパートに来ることになった。
しかし問題はテツさんだった。
テツさん、どうしただろう。
津波、大丈夫かな。
テツさん、テツさん、テツさん。
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