2010年1月17日(日)
#106 ギター・スリム「Down Through the Years」(Atco Sessions/Atlantic)
#106 ギター・スリム「Down Through the Years」(Atco Sessions/Atlantic)
ふたたび、ピュア・ブルース路線に戻ろう。きょうの一曲はこれ。ギター・スリム、アトコ(アトランティック)時代のヒットを。レナルド・リチャードの作品。
ギター・スリムを取り上げるのは、今回が初めてだったと思うが、長いブルース史上においても極めてユニークなアーティストのひとりだと筆者は思っている。
本名エディ・ジョーンズ。26年ミシシッピ州グリーンウッド生まれ。59年に32才の若さでニューヨークにて亡くなっている。
ギター・スリムといえば、なんてったって「The Things That I Used to Do」。スペシャルティ在籍時代の54年に放ったこのビッグ・ヒットで、彼は全国区的人気を獲得した。
以後、亡くなるまでわずか5年だったのだが、その間にもアトコで何枚ものシングル・ヒットを出しており、このバラード・ナンバーもそのひとつ。
ギター・スリムは、いわゆるブルースの枠にとらわれない、非常に幅広い音楽性を持っていたひとだったと思う。
人種音楽だったブルースを、より多くの人々が楽しめるようなエンタテインメント・ミュージックに昇華させていったミュージシャンのひとりで、後のジミ・ヘンドリックス、スティービー・ワンダー、マイケル・ジャクスンらにも匹敵するようなイノベーターであったと思うのだ。
ただいかんせん、短命過ぎた。もっと活動期間が長ければ、さらにすごい仕事を残したのではないだろうか。
とにかく、度肝を抜く派手なステージングにおいて、当時のブルース界では突出していたのが、ギター・スリムだ。
髪を染め、原色のスーツに身をつつみ、何十メートルもの長さのギターコードを使ってライブ会場中を動きまわる、といった今日ではごくフツーなステージ・パフォーマンスも、スリム自身の創出したアイデア。
とにかく「目立ってナンボ」という彼のミュージシャンシップには、唖然とさせられつつも、学ぶべきところが多いね。
きょうの「Down Through the Years」は、典型的な2拍3連バラードで、大ヒット「The Things That I Used to Do」にも通じるところのある、ニューオリンズ・スタイルのR&B。
ギター・スリムの歌声が、文句なしにエグい(いい意味で)。心の底からのシャウトが、耳をえぐるようだ。
やや走り気味の、間奏部のギター・ソロも、上手いというよりは、味があるって感じだ。
ブルーノートを余り多用せず、陽性のフレーズで彼らしさを出しているのである。
他の多くのブルースマンがどうしても抜け切ることができない「重さ」を、彼は見事に脱して、より多くのひとにアピールする「軽み(ポップ)」を達成している。まさにプロフェッショナルなのだ。
空前絶後の表現者、ギター・スリム。そのワイルドきわまりない音世界を、堪能してくれ。