NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音曲日誌「一日一曲」#106 ギター・スリム「Down Through the Years」(Atco Sessions/Atlantic)

2023-07-16 05:03:00 | Weblog
2010年1月17日(日)

#106 ギター・スリム「Down Through the Years」(Atco Sessions/Atlantic)





ふたたび、ピュア・ブルース路線に戻ろう。きょうの一曲はこれ。ギター・スリム、アトコ(アトランティック)時代のヒットを。レナルド・リチャードの作品。

ギター・スリムを取り上げるのは、今回が初めてだったと思うが、長いブルース史上においても極めてユニークなアーティストのひとりだと筆者は思っている。

本名エディ・ジョーンズ。26年ミシシッピ州グリーンウッド生まれ。59年に32才の若さでニューヨークにて亡くなっている。

ギター・スリムといえば、なんてったって「The Things That I Used to Do」。スペシャルティ在籍時代の54年に放ったこのビッグ・ヒットで、彼は全国区的人気を獲得した。

以後、亡くなるまでわずか5年だったのだが、その間にもアトコで何枚ものシングル・ヒットを出しており、このバラード・ナンバーもそのひとつ。

ギター・スリムは、いわゆるブルースの枠にとらわれない、非常に幅広い音楽性を持っていたひとだったと思う。

人種音楽だったブルースを、より多くの人々が楽しめるようなエンタテインメント・ミュージックに昇華させていったミュージシャンのひとりで、後のジミ・ヘンドリックス、スティービー・ワンダー、マイケル・ジャクスンらにも匹敵するようなイノベーターであったと思うのだ。

ただいかんせん、短命過ぎた。もっと活動期間が長ければ、さらにすごい仕事を残したのではないだろうか。

とにかく、度肝を抜く派手なステージングにおいて、当時のブルース界では突出していたのが、ギター・スリムだ。

髪を染め、原色のスーツに身をつつみ、何十メートルもの長さのギターコードを使ってライブ会場中を動きまわる、といった今日ではごくフツーなステージ・パフォーマンスも、スリム自身の創出したアイデア。

とにかく「目立ってナンボ」という彼のミュージシャンシップには、唖然とさせられつつも、学ぶべきところが多いね。

きょうの「Down Through the Years」は、典型的な2拍3連バラードで、大ヒット「The Things That I Used to Do」にも通じるところのある、ニューオリンズ・スタイルのR&B。

ギター・スリムの歌声が、文句なしにエグい(いい意味で)。心の底からのシャウトが、耳をえぐるようだ。

やや走り気味の、間奏部のギター・ソロも、上手いというよりは、味があるって感じだ。

ブルーノートを余り多用せず、陽性のフレーズで彼らしさを出しているのである。

他の多くのブルースマンがどうしても抜け切ることができない「重さ」を、彼は見事に脱して、より多くのひとにアピールする「軽み(ポップ)」を達成している。まさにプロフェッショナルなのだ。

空前絶後の表現者、ギター・スリム。そのワイルドきわまりない音世界を、堪能してくれ。

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音曲日誌「一日一曲」#105 supercell「君の知らない物語」(Sony Music)

2023-07-15 05:36:00 | Weblog
2010年1月10日(日)

#105 supercell「君の知らない物語」(Sony Music)





少し遅めのスタートとなったが、今年もよろしく。新年第一弾はこれ、話題のクリエイター集団、supercellのメジャーデビューシングルだ。

supercellは、作詞・作曲・プロデュース担当のミュージシャン、ryoを中心とするチーム。ボーカロイド・初音ミクをフィーチャーした一連の作品でネット界に大反響を巻き起こし、一躍メジャーな存在となった。まさにネット時代の、寵児的存在なのだ。

そのsupercellが、満を持して世に問うたのが、このシングル曲。昨年放映された中でも最も印象的なアニメのひとつだった「化物語(ばけものがたり)」(原作は西尾維新によるライトノベル)のエンディングテーマとして制作された。

この曲ではボーカルは初音ミクのようにバーチャルなものでなく、生身のシンガーを初登用している。ニコニコ動画で初音ミクの曲を何曲もカバーしていた縁でryoの目に(というか耳に)とまったらしい、nagi(ニコ動でのHNはガゼル)がリードボーカルをつとめているのだが、これがまた既存のシンガーにはない清新な魅力を放っているのだ。

あくまでも高く清く澄んだ声、でもちょっと儚さやもろさを感じさせるその歌声は、どこにでもいそうで実はどこにもいない、そんな印象だ。

高音部で少し苦しげな発声になり、素人っぽさが抜けきらないあたりも、逆に彼女ならではの持ち味。そういう意味で、亡き坂井泉水あたりに通じるものがある。

またバックには、ギターの西川進をはじめとする、実力派スタジオミュージシャンを揃えている。中でも、ピアノの渡辺シュンスケがダイナミックな演奏を聴かせてくれるので、こちらにも注目だ。

最近、スキマスイッチ、アンジェラ・アキ、WEAVERなど、ピアノ・サウンドをフィーチャーしたアーティスト、あるいは楽曲が増えてきているように思うが、supercellもまた、ピアノがそのサウンドの要であると見た。

なお、ご覧いただくPVの映像は、「化物語」本編とは独立した内容ながらも、主人公の高校生カップルが「ほしのさと天文台」(実在していない)に夏の星座を観に行くといった設定で、アニメの内容とも微妙にリンクした一編の青春ドラマになっている。

自分自身には、こんな甘酸っぱい青春の思い出など皆無ではあるが、これを観て「君の知らない物語」を聴くと、不思議と懐かしさがわき起こってくる。「セイシュンやな~」という感じ(笑)。

誰の身にも起こりそうな、でも現実よりはずっと魅力的な「もうひとつの物語」を見事に作りあげ、若い読者やリスナーの心をガッチリとつかんだ西尾維新、そしてsupercellの実力。脱帽であります。

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音曲日誌「一日一曲」#104 大貫妙子・山弦「snow」(note/EMIミュージック・ジャパン)

2023-07-14 05:00:00 | Weblog
2009年12月27日(日)

#104 大貫妙子・山弦「snow」(note/EMIミュージック・ジャパン)





年の瀬にふさわしい一曲を。大貫妙子とアコギ・ユニット山弦の共演ナンバーだ。大貫のオリジナル。

早いもので、ター坊がシュガー・ベイブで75年にレコードデビューしてから、34年もの歳月が経ってしまった。

ソロデビューからでも33年。もう、押しも押されもしない大ベテランということやねぇ~。

その間に出したアルバムも、オリジナルものだけでも33枚。平均すれば年に1枚。実に堂々たる仕事ぶりなんである。

でも、30数年たっても、彼女、デビュー当時とほとんど変わっていないのだ。見た目の楚々としたイメージも、その透明な歌声も。

これはホント、スゴいことでっせ~。

まあ、その驚くべき若さの秘密は、ター坊自身も言っていたように、ずっと結婚せずに、自由な生き方をしてきたからに、ほかならないだろう。

さて、今日の一曲は、2002年のアルバムより。ここでは実力派アコギデュオ「山弦」との共演を果たしている。

そもそも彼らのなれそめは、山弦(小倉博和、佐橋佳幸)のオリジナル・インスト「祇園の恋」に、ター坊が歌詞をつけて「あなたを思うと」というタイトルで歌ったことから始まっている。これが実に素晴らしい出来映えだった。

そのコラボレーションを発展させ、アルバム一枚にまとめあげたのが「note」ということになる。

現在56才の大貫より、6、7才ほど若い山弦のふたりだが、キャリアは十分。決して、ター坊に貫禄負けしていない。小倉はもとより、ふだんはエレクトリック・ギターでハジけまくっている佐橋も、しっとりとした大人っぽい音を聴かせてくれる。

今日の「snow」は、ミディアムスローテンポのバラード。ター坊はいつものように、なんのギミックも使わず、さらっと歌い上げているのだが、これがまた極上の味わい。

彼女の澄み切った歌声に、山弦のふたりの爪弾きが重なりあい、純白の冬の風景を聴き手の心に浮かび上がらせるのだ。

これぞ、ピュア・ミュージックと呼ぶにふさわしい音。日頃ストレスで汚れきった心を、見事に洗い清めてくれるのです。

三人の生み出す、透明度100%のサウンドに、些事を忘れて身をゆだねていただきたい。

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音曲日誌「一日一曲」#103 ヴァン・ヘイレン「Ice Cream Man」(Van Halen/Warner Bros.)

2023-07-13 05:00:00 | Weblog
2009年12月13日(日)

#103 ヴァン・ヘイレン「Ice Cream Man」(Van Halen/Warner Bros.)





ヴァン・ヘイレン、78年リリースのデビュー・アルバムより。ジョン・ブリムの作品。

ヴァン・ヘイレンは、ここ10年ほどは活動休止状態ではあるものの、35年もの歴史を誇る長寿バンドだ。

オリジナル・メンバーはエディ(g)とアレックス(ds)のヴァン・ヘイレン兄弟に、デイヴィッド・リー・ロス(vo)とマーク・アンソニー(b)の4人編成。74年、カリフォルニア州パサディナにて結成。

78年にキンクスのカバー「You Really Got Me」のシングルヒットを飛ばしたときは、実に清新な衝撃をロック界に与えたものだ。

ブリティッシュ・ハードロックの強い影響を受けながらも一歩突き抜けた、アメリカのバンドならではの陽気で開放感あふれるサウンドは、それまでにないものだった。

デイヴの賑やかなキャラクターと超絶高音ボーカル、エディの派手なライトハンド奏法、そしてリズムセクションの切れのいいワイルドなプレイ。

先達であるZEP、エアロなどともひと味違った、まさに新世代ハードロックの幕開けだった。

ファーストにしてすでにベテラン・バンドに匹敵する完成度を備えたアルバムは、リスナーたちを大いに刺激した。これぞ80年代の音という評価も少なからずあった。

その後バンドは何回かのメンバー交代を経て、少しずつスタイルを変えつつも存続していくのだが、デビューアルバムを最高傑作と考える人は多い。

初々しさというよりは、既に十分な貫禄を感じさせるそのサウンドは、フツーのバンドならば3枚目か4枚目でようやく達成するレベルのものだ。

そんな良曲ぞろいの中でも、ちょっと異色の一曲が、この「Ice Cream Man」。

ジョン・ブリムといえば、50年代にシカゴで活躍した黒人シンガー/ギタリストだが、いくつかのレーベルを経て所属したレコード会社、チェッカー/チェスとの折り合いがあまりよくなかったため、そこでのレコーディングもお蔵入りになることが多く、わずかにエルモア・ジェイムズとの相乗りアルバム「Whose Muddy Shoes」(70年発表)収録の7曲で知られる程度であった。

60年代にはミュージシャンからほぼ足を洗って、クリーニング屋で生計を立てざるをえなかったという。

そんなブリムにとって思いもよらぬ朗報が、このヴァン・ヘイレンによるカバー・バージョンだった。

ブリムが再びブルースマンとして表舞台に立つことになったのも、このアルバムのヒットのおかげだったという。

オリジナルは、ブリムの友人リトル・ウォルターのハープを従えた軽快なシャッフルだが、ヴァン・ヘイレン版はちょっとひねってあって、前半アコースティック、後半ハードロックというアレンジになっている。

ブリムが妻のミュージシャン、グレイスの協力を得て作ったユーモラスな歌詞が、実に印象的。ダイヤモンド・デイヴの伊達男キャラにもマッチした、小粋でちょっとキワドく、そしてとことん陽気なナンバーだ。

デイヴの派手なボーカルに負けじと、目一杯ハジケて弾きまくるエディのギター・ソロも聴きもの。

ヴァン・ヘイレンによる、ブルース讃歌と言える一曲。ハードロックのルーツは、やっぱりブルースなんであります。

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音曲日誌「一日一曲」#102 ブラインド・ボーイ・フラー「Georgia Ham Mama」(Remastered 1935-1938/JSP)

2023-07-12 05:01:00 | Weblog
2009年12月6日(日)

#102 ブラインド・ボーイ・フラー「Georgia Ham Mama」(Remastered 1935-1938/JSP)





戦前に活躍したシンガー/ギタリスト、ブラインド・ボーイ・フラーの30年代のレコーディングから。フラーの作品。

フラーは本名フルトン・アレン。1907年、ノース・キャロライナ州ウェイズボローの生まれだ。

ブラインド・ブレイク、ロニー・ジョンスンなどの影響でギターを始め、20代にはゲイリー・デイヴィス師について習う。

35年頃よりノース・キャロライナ州ダラムでプロとして活動、120曲ものレコーディングを残した。

だが、残念なことに、41年33才の若さで病死している。

そんな夭折のブルースマンだが、彼の影響をしっかりと受けている大物アーティストがいる。ブラウニー・マギーだ。

きょうの一曲を聴いていただくとよく判ると思うが、その特徴的な節回しは、クリソツといってもいい。

バックにはマギーの相方、サニー・テリーがハープで参加しており、知らずに聴くと一瞬、テリー=マギーと勘違いしそう。

その、いい感じに鄙びた味わいは、マギーに引き継がれたといっていい。

実際、フラーがなくなった時、マギーはそれを大いに悲しみ、一時はブラインド・ボーイ・フラーIIと名乗ったくらいだったという。

歌だけでなく、ギターでもフラーは後世に少なからぬ影響を残している。マギーとともにその代表格といえるのが、黒人女性ギタリストのエタ・ベイカー。さらには、シーファス&ウィギンスなどにもその強い影響が感じられる。

ラグタイムを基調としたそのプレイは、確かなリズム感とテクニックに裏打ちされたものだ。

ちょっと田舎くさい歌いぶりに、このリズミカルなギターが加わることで、なんとも魅力的なカントリー・ブルースに仕上がっている。

ハンチングなどかぶってリゾネーターをつまびく姿、実に粋なんである。

筆者にとっても、目標となるブルースマンのひとり。ホント、憧れちゃいます。

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音曲日誌「一日一曲」#101 カサンドラ・ウィルスン「I Can't Stand the Rain」(Blue Light 'Til Dawn/Blue Note)

2023-07-11 05:00:00 | Weblog
2009年11月29日(日)

#101 カサンドラ・ウィルスン「I Can't Stand the Rain」(Blue Light 'Til Dawn/Blue Note)





1955年生まれのベテラン女性シンガー、カサンドラ・ウィルスンがアン・ピーブルスの代表曲をカバーしている。これが文句なしにいい。ブライアント=ミラー=ピーブルスの共作。

カサンドラ・ウィルスンといえば、ジャズ畑のひとというイメージがあるが、別にスタンダードばかり歌っているわけじゃない。オリジナルも作って歌うし、ソウル、ブルースもしばしば取り上げて歌っているので、結構目が離せない。

「Blue Light 'Til Dawn」は93年リリース、カサンドラの最高傑作との誉れ高いアルバムだ。ここでも彼女は当曲以外に、ロバート・ジョンスンの作品を2曲カバーしている。

アコギ、アコーディオンなど、アコースティック楽器中心のシンプルなコンボをバックに、おなじみの「Come on in My Kitchen」「Hellhound on My Trail」を歌っているのだが、ロバート・ジョンスンの狂気さえも感じさせるアクの強い歌唱とは対照的に、クールで淡々とした歌いぶりがなんとも印象的だ。

そのへんは、やはり、モダンジャズ・ヴォーカル的なアプローチといえそうだ。

さて、この「I Can't Stand the Rain」は、60年テキサス生まれの白人ミュージシャン、クリス・ウィットリー(2005年歿)のリゾネーターをバックに歌う一曲。

最小ユニットながら、カサンドラの落ち着いて深みのある歌声、マディやウルフなど黒人のブルースに強く影響を受けたというウィットリーの達者なギターが絡み合って、えもいわれぬブルーズィな世界を生み出している。

ソウル・シンガーならばフルにシャウトする曲だが、そこはカサンドラ、ひと味違う。悲しみ、苦悩、焦燥。こういった感情を、あえて爆発寸前の状態で蓄え、ラストまでそれを維持し続けているのが、まことに印象的だ。

歌って、こんなに奥の深いものなんだなぁと感じさせる一曲。

真にすぐれたシンガーは、いかなるジャンルの曲を歌っても、第一級の歌を聴かせてくれる。ぜひ一聴を。

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音曲日誌「一日一曲」#100 バイザー・スミス「So Mean To Me」(Hold That Train/Delmark)

2023-07-10 05:00:00 | Weblog
2009年11月22日(日)

#100 バイザー・スミス「So Mean To Me」(Hold That Train/Delmark)





このコーナーも、ついに100番台に突入した。これからも頑張って更新しますんで、よろしく。

1933年ミシシッピ州生まれのベテラン・ブルースマン、バイザー・スミス2004年のアルバムより、リトル・ミルトン=オリバー・セインの作品を。

これは81年のデビュー・アルバム「Tell Me How You Like It」(Grits)にも収録されている一曲だ。

オーティス・ラッシュ、フレディ・キングらとほぼ同世代にあたるスミスは、シカゴに移住してプロとなったものの、ラッシュらのようにはスポットライトが当たらず、60~70年代を地味にシングルのみリリースして過ごしている。

でも、日本でもシングル「Money Tree」あたりをきっかけに、輸入盤でブルースを聴いているようなコアなファンがついてきたという。

そんな彼にやっと日の目があたり、日本でも容易にその音を聴けるようになったのが、80年代。以来、2、3年おきにコンスタントにアルバムを発表し続け、その名前も定着するようになってきた。

今日の一曲は、リトル・ミルトン・マナーの、ミディアムスローなブルーズン・ソウル。

ここで彼は、歌とギターともに達者なところを見せている。

彼の歌声はオーティス・ラッシュにも似て、少しハスキーで泥臭く、塩辛い味わい。思い切りのいいシャウトが実にさまになっている。

また、ギター・プレイのほうも文句なしに素晴らしい。ヘヴィーさと鋭い切れ味を兼ね備え、絶妙なタメ、間で聴かせる、これぞブルース・ギターといえるような名演だ。

愛器ストラトキャスターから繰り出す音の、なんとも官能的なこと。

ストラトもさまざまな雰囲気の音を出せる名器だが、スミスにかかれば、きわめて艶っぽい響きを奏でるのである。これぞ名人芸なり。

そのテンションの高さ、表現の深さは、ラッシュ、キング、バディ・ガイといった同じ30年代生まれのスターたちにも、決してひけをとっていない。

これは聴かないと絶対損しまっせ、お客さん

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音曲日誌「一日一曲」#99 ビリー・ボーイ・アーノルド「Get Out of Here」(More Blues on the South Side/Prestige)

2023-07-09 05:04:00 | Weblog
2009年11月14日(土)

#99 ビリー・ボーイ・アーノルド「Get Out of Here」(More Blues on the South Side/Prestige)





シンガー/ハーピスト、ビリー・ボーイ・アーノルド63年のアルバムから。B・B・キングの作品。

ビリー・ボーイ・アーノルドとゆーと、イコール「I Wish You Would」という感じで、ほとんど一発屋的にしか見られていない人だが、実際には50年代から2000年代に至るまで、極めて息の長い活動を続けているブルースマンだ。

もちろん全盛期はヴィー・ジェイ在籍時の50年代ではあろうが、その後もいくつかの佳作を残している。

このプレスティッジでのセッション・アルバムもそのひとつで、ギターのマイティ・ジョー・ヤングやピアノのラファイエット・リーク(以前取り上げたホームシック・ジェイムズのアルバムでもいい感じだった)らの好サポートを得て、ナイスな演奏を聴かせてくれる。

アーノルドは35年シカゴ生まれ。生粋のシカゴ・ブルースマンというわけだ。

近隣に住むサニーボーイ・ウィリアムスンI世の影響を受けてハープを吹くようになり、10代からプロの道を歩む。初期はボ・ディドリーとともに活動していた。

「I Wish You Would」のヒットで注目され、その曲や「I Ain't Got You」がヤードバーズによりカバーされたことで、ロックファンにも広く知られるようになった。

でも、なかなか原曲を聴くことは少ないに違いない。

本日の一曲は、60年代のBBナンバーのカバー。でも、BBの怒り節とはかなりテイストが違って、ちょっと掴みどころのないふにゃ~っとした歌い口が、ブルースというよりはR&B、ロックンロールという印象。

そう、ビリー・ボーイは、ブルースにしてはリキみがあまり感じられない「脱力系」なのだ。

この曲ではハープは特に吹かず、ギターがおもにフィーチャーされており、マイティ・ジョーの特にテクニカルとはいえないが、ソリッドでエッジの立ったトーンがビリー・ボーイの歌声をうまく引き立てている。

歌詞内容の殺伐とした内容にしては、へんにギスギスした感じにならず、クールというか飄々とした味わいに仕上がっているのは、彼のいい感じに力の抜けた歌唱ゆえといえよう。

ビリー・ボーイ・アーノルドの小粋な世界を味わってみてくれ。

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音曲日誌「一日一曲」#98 アイク・アンド・ティナ・ターナー「I Smell Trouble」(Atlantic Blues/Atlantic)

2023-07-08 05:00:00 | Weblog
2009年11月7日(土)

#98 アイク・アンド・ティナ・ターナー「I Smell Trouble」(Atlantic Blues/Atlantic)




アイク・アンド・ティナ・ターナー、60年代のライブ録音より。ドン・ロビーの作品。

いうまでもなく、ボビー・ブルー・ブランドの代表曲であるが、これをオリジナルにまさるともおとらぬハイテンションで演っているので、ぜひ聴いてほしい。

アイク・アンド・ティナ・ターナーといえば、とにかくそのライブアクトのセクシーさ、過激さで話題を集めていたものだが、もちろん音楽的にも非常に充実していたデュオだ。

ティナの鋭く切り込んでくるような歌声、トリッキーで挑発的なアイクのギター。まさにダイナマイト級の迫力でオーディエンスを圧倒していた。

今日の一曲は、そんな中でも極めつけのパフォーマンス。

「I Smell Trouble」は、その緊張感に満ちた歌詞内容からいっても、起伏に富んだ激しい歌唱からいっても、第一級のスロー・ブルースだが、ご本家ブランド=ベネットのコンビネーションに匹敵するのは、やはりこの二人をおいてないように思う。

全身を震わせ、痙攣するかのようにシャウトするティナ、ニワトリの鳴き声を思わせるヒステリックなプレイを聴かせるアイク。まことにスリルに満ちた7分間だ。

71年のパリ・オランピア劇場ではさらに長い10分もの演奏をやっていて、こちらも必聴だが、とにかくダレるということない、異常なまでのテンションには脱帽するしかない。

アイク・アンド・ティナの数あるレパートリーの中でも、もっともブルース濃度の高い曲のひとつ。

「やるからにはこれくらい演らんと、お客は満足しない」という気合いがひしひしと伝わってくる。これぞ芸人魂の真骨頂。

さわると火傷しそうなライブ。心して聴いとくれ。

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音曲日誌「一日一曲」#97 yozuca*「S.S.D!」(Lantis)

2023-07-07 05:56:00 | Weblog
2009年10月31日(土)

#97 yozuca*「S.S.D!」(Lantis)





ヒットチャートの上位にいる曲だけが、いい曲ではない。今週は音楽通でも知るものの少ない、正真正銘の隠れた名曲を紹介しよう。

女性シンガーソングライター、yozuca*(ヨズカ)、といってもピンとくる人はきわめて少ないだろうな。

はっきりいってゲーム好きな人しか、その名前を知る者はいないかもしれない。チャートでは2曲ほど10位台に食い込んだことがあるものの、おおむね50位以降が大半だ。

だが、ゲーマーの中では、非常に重要な位置を占めるアーティストといっていい。

なにしろあの人気恋愛ゲームシリーズ「D.C.~ダ・カーポ~」の、一連のオープニング、エンディングテーマ、イメージソングでファンに強い印象を残しているのだから。

「D.C.~ダ・カーポ~」において、彼女の歌い上げるしっとりとしたバラードが、その作品世界のイメージ作りに大いに貢献してきたのは間違いない。

で、この「S.S.D!」は、長らく「D.C.~ダ・カーポ~」シリーズ中心に曲作りをおこなってきたyozuca*としては、従来にないイメージを打ち出した一曲だ。

アコースティック・ギターの響きを基調としながらも、ヘビメタの味付けでメリハリを出した、そんなサウンド。

彼女のシングルとしては、初めて詞・曲ともに本人の自作なのだとか。

yozuca*といえばスローバラード、あるいはアップテンポでもどちらかといえばマイナー系のメロディの曲が多いという感じだったのだが、この曲は見事にポジティブでキャッチー。

太過ぎず、でも繊細過ぎず、どこかゆらめきを感じさせつつも、一方で力強さを合わせもったyozuca*の声は、不思議と耳に残るのだ。

タイトルの「S.S.D!」は「Sun Shiny Day!」の略だそうだが、そのきらめくようなメロディは、彼女のほど遠からぬブレイクを予感させる。

今回はTVアニメ「プリンセスラバー!」のエンディングとして、アニメファンを中心にアピールしたが、次はさらに彼女自身の「顔」を前面に出したシングル曲を期待したい。

アニメやゲームの世界でも、確かな音楽性をもったアーティストはけっこう大勢いる。

そんな中でも、yozuca*は注目株だ。ぜひ一度チェックしてみてくれ。

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音曲日誌「一日一曲」#96 ルーファス・トーマス「Did You Ever Love a Woman」(Atlantic Blues/Atlantic)

2023-07-06 05:08:00 | Weblog
2009年10月24日(土)

#96 ルーファス・トーマス「Did You Ever Love a Woman」(Atlantic Blues/Atlantic)





ルーファス・トーマス、アトランティック在籍時代のレコーディングから。B・B・キングの作品。

ルーファス・トーマスといえば、「ウォーキン・ザ・ドッグ」。これはもう万人の認識だろう。永遠のティーンネージャー、偉大なオヤジロッカー&ダンサー&コメディアン、そんなイメージの人だが、実は違う横顔もある。

1917年ミシシッピ州ケイス生まれ。戦前はメディスン・ショーの一座で活躍、レコードデビューは戦後で、サンレコード時代、以前にも取り上げた「ハウンド・ドッグ」のアンサー・ソング「ベア・キャット」で注目される。

全盛期はもちろん、「ウォーキン・ザ・ドッグ」をヒットさせたスタックス在籍時代。ダンサブルかつちょっとコミカルな曲調のナンバーで、一世を風靡した。

その後も、ステージ、映画等で広く活躍して、2001年メンフィスにて84才で亡くなる。生涯現役、実に堂々としたショーマン人生だった。

そんな彼も、意外とシブい味わいのブルースマンでもあったという証明がこの一曲。BBだけでなく、ゲイトマウス・ムーアも十八番としていたスロー・ブルースだ。

ルーファス・トーマスの歌声は、その二人とはまた違った味わいがある。まずはソフト&マイルドに、囁きかけるように歌い出したかと思うと、感情の高ぶりとともにいきなり激しいシャウトに変化する。なんともエモーショナル。

コミカルばかりが彼の売りではない。ブルーズィできめ細かい感情表現もまた、トーマスの得意とするところなのだ。

このナンバー、ライブでも10分にわたって歌いまくり、延々とディープな世界を展開していたとか。

エネルギッシュ、でもダンス・ナンバーとはまた違っためいっぱいブルースな歌声に、ノックアウトされてちょ。

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音曲日誌「一日一曲」#95 レバランド・ゲイリー・デイヴィス「Candy Man」(Heroes of the Blues/Shout!)

2023-07-05 05:00:00 | Weblog
2009年10月17日(土)

#95 レバランド・ゲイリー・デイヴィス「Candy Man」(Heroes of the Blues: The Very Best of Rev. Gary Davis/Shout!)





今回は、ひさしぶりに趣きを変えて、カントリー・ブルース系でいってみる。ゲイリー・デイヴィス師による弾き語りナンバーを。彼自身のオリジナル(といっても、トラッドをベースにした改作といった方が正しいだろうが)。

ゲイリー・デイヴィスは96年、サウスキャロライナ州ローレンス生まれ。72年にニュージャージー州ハモントンにて亡くなっている。

その呼び名通り、牧師がデイヴィスの肩書きのひとつだが、もうひとつがギタリスト/シンガーとなる。

10代からそのミュージシャンとしてのキャリアは始まっており、フィンガーピッキングの名手としてさまざまな後進のギタリストに影響を与えている。たとえば、ブラインド・ボーイ・フラー、ステファン・グロスマン、ボブ・ディラン、タジ・マハール、それにライ・クーダーなどなど。

まさに20世紀アメリカ音楽の礎を築いた人なのだが、意外とその音楽自体は聴かれることが稀である。

今日は、そんな彼の代表的ナンバーを、2003年リリースのベスト盤より、聴いていただこう。

軽快にして清涼感あふれるフィンガーピッキング・ギターにのせて、彼の素朴なことこの上ないボーカルを味わうことが出来る一曲だ。

歌のほうはともかくとして、ギター・プレイは実に正確無比だ。ギター教材にもうってつけの演奏といえる。

フォーク、ブルース、ラグタイム、ゴスペル等々。ジャンルにとらわれず、さまざまなタイプの音楽を吸収し、ギター・ミュージックとして構築した、音の達人。それがデイヴィス師なんである。

すべてのアコギ・プレイヤーは、一度は彼の演奏を聴くといい。

そのリズム感覚の巧みさを体感し、ぜひ自分のものにもしてほしい。

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音曲日誌「一日一曲」#94 ピー・ウィー・クレイトン「Blues in the Ghetto」(Essential Recordings/Cleopatra)

2023-07-04 05:15:00 | Weblog
2009年10月10日(土)

#94 ピー・ウィー・クレイトン「Blues in the Ghetto」(Essential Recordings/Cleopatra)





今回も、インストでいくじょ。シンガー/ギタリスト、ピー・ウィー・クレイトンのオリジナル。彼個人のアルバムでは、2001年リリースの編集盤で初お目見えのナンバーであります。

録音は少なくとも40年以上前かと思われますが、これがまた時代をまったく感じさせない、クールでヒップな出来映えなんよ、お客さん。

ピー・ウィーは1914年、テキサス州ロックデイル生まれ。本名はコニー・C・クレイトン。85年、LAにて没。

ジャズ・ギターの開祖チャーリー・クリスチャン、エレクトリック・ブルース・ギターの開祖T・ボーン・ウォーカー。こういった先達の影響を強く受けながらも、独自の演奏スタイルを作りあげていったのが、ピー・ウィー・クレイトン。

とにかく、早いパッセージをガンガン弾きまくり、トレモロ・ピッキングも多用。ワイルドでアグレッシブなことでは、右に出るものがなかった。

フツー、ブルース・ギタリストとゆーと、「タメ」とか「間」とかで勝負するタイプの奏者が多いが、彼の場合は問答無用のハッスル・プレイが身上。

この「Blues in the Ghetto」も、割りとゆったりしたミディアム・テンポだが、ギター・プレイはいかにも彼らしく、スピード感があふれている。

バックの重く、力強いリフとは対照的に、華麗に舞い、切り込んでくる、剣のような鋭さ。ええですな~。

ジョニー・オーティス・ショウの一員として活躍していた頃にも、同グループでこの曲をよく演奏していたらしいのですが、ホント、「Blues After Hours」とまさるとも劣らぬ、カッコいい曲であります。

口ひげをたくわえたダンディなルックス。そしてソリッドでクールなギター。歌はまあご愛嬌レベルではありましたが、ピー・ウィーはもっと評価されていいアーティストだと筆者は思ってます。

ぜひ、あなたも ピー・ウィー・ワールドを味わってみてください。

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音曲日誌「一日一曲」#93 ミッキー・ベイカー「Midnight Midnight」(Atlantic Blues: Guitar/Atlantic)

2023-07-03 05:38:00 | Weblog
2009年9月27日(日)

#93 ミッキー・ベイカー「Midnight Midnight」(Atlantic Blues: Guitar/Atlantic)





シンガー/ギタリスト、ミッキー・ベイカーの59年のインスト・シングル曲を。ベイカーとカーティス・アウズリーの共作。

ミッキー・ベイカーといってもピンとこないムキも多いだろうが、R&Bデュオ、ミッキー&シルヴィアの片割れのミッキーといえば、少しは通りがいいかもしれない。

ミッキー&シルヴィアは56年にデビュー、「Love Is Strange」(邦題・恋は異なもの)をヒットさせた男女デュオ。ふたりともエレクトリック・ギターを弾くというのがその特徴で、実際ベイカーがシルヴィアにギターを手ほどきしていた。

ふたりはその後も何曲かヒットを放ち、3年後にコンビを解消している。シルヴィアはその後、ロス・インディオスに参加‥‥というのはもちろん冗談で、70年代にソロで「Pillow Talk」というお色気たっぷりなディスコ・ナンバーをヒットさせたから、そこのお父さんもご存じかも。

相方のミッキー・ベイカーのほうも、その後ソロとしてギターに歌に活躍しておりまして、きょうの曲は、アトランティック在籍時代にヒットさせている。

これが実にカッコよろしい。ミディアム・テンポのシャッフル・ビートに乗せて、メリハリあるギター・プレイを聴かせてくれるのだ。

ジャズ、ブルース、R&B、ロックンロールと、さまざまな要素を匂わせるそのプレイは、なんともクール。

その手のブルーズィな音楽を志すギタリストたちにとって、格好のお手本といえますな。

ファースト・ソロ・アルバム「The Wildest Guitar」にも収録されているが、そこで演っている曲を見ると「夜も昼も」「枯葉」「オールド・デヴィル・ムーン」「落葉の子守り唄」といったジャズ・スタンダードあり~の、自作のブルースあり~のと、実に選曲の幅が広い。

あえて歌はうたわず、ギターのみで勝負しているが、フレーズの豊富さ、表現の巧みさにより、決してあきさせるということがない。コール・ポーターの「夜も昼も」が見事なゴーゴー風ダンス・ナンバーになってしまっているのには、ただただビックリ。

ピー・ウィー・クレイトンの「ブルース・アフター・アワーズ」の流れをうけ、後にはフレディ・キングの一連のインスト・ナンバー(「ハイダウェイ」「ザ・スタンブル」など)にもつらなっていく、ギター・インストの傑作、それが「Midnight Midnight」。

とにかく、ビートがメチャご機嫌なのであります。

ベイカーは今年、84才。音楽活動の話はここのところとんと聞きませんが、いまも元気でギターをつまびく生活を送っているというんだったら、いいんですが。生涯現役プレイヤーを貫いて亡くなった、あのレス・ポール翁のように。

レス・ポールにもまさるとも劣らぬ、「リビング・ギター・レジェンド」、それがミッキー・ベイカーであります。必聴。

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音曲日誌「一日一曲」#92 ロニー・ブルックス「Figure Head」(Authentic Blues/Fuel 2000)

2023-07-02 05:01:00 | Weblog
2009年9月20日(日)

#92 ロニー・ブルックス「Figure Head」(Authentic Blues/Fuel 2000)





1933年生まれのベテラン・ブルースマン、ロニー・ブルックス、若き日のレコーディングより。クレイグ=デニーズ=エマーソンのトリオの作品を。

本名リー・ベイカー・ジュニア。ルイジアナ州ダビュイッソンに生まれ、テキサス州ポート・アーサーに移り住む。20代の後半、ロックン・ローラーとして「ギター・ジュニア」という芸名でローカル・レーベル、ゴールドバンドよりデビュー。後に同名のミュージシャンがいたこともあり、ロニー・ブルックスに改名することになる。

60年代はメジャーを目指してシカゴに出てきたもの、鳴かず飛ばずの状態が続き、レコード会社を転々とすることになるが、運が向いてきたのが79年にアリゲーターに移籍、アルバム「Bayou Lightning」を出したあたりからだ。

この一枚で見事、ブレイク。ブルックス、46才にしてついにオトコとなったわけである。

本曲はそのアルバムに収められた79年録音版‥‥ではなく、オリジナル録音版から。ミディアム・スローのブルース。オルガン(とホーン)のバック・サウンドが時代を感じさせる、いなたいナンバーだ。

もともとはルイジアナやテキサスといった「田舎」で、ほのぼの、ゆるゆるとしたブルースをやっていたブルックスが、都会(シカゴ)の世知辛い環境に入って揉みに揉まれた。そんな足跡も感じられる、ちょっとメランコリーな味わいもある。

ロニー・ブルックスというひと、日本ではいわゆるブルース・マニア以外にはほとんど知られていないし、その歌声よりもギター・プレイで語られることが多い。

が、彼は歌でも結構な実力を持っていると筆者は思う。メジャー未満のブルースマンのおおかたは、おもにギター・プレイで勝負、歌は素人に毛が生えた程度というのが相場だが、彼はもともと流行歌手的なデビューをしただけあって、声に魅力があるのだ。

とくにその中音・低音の巧みな使いわけかたとか、声の響きのよさは、特筆に値いするように思う。

塩辛声系のブルースマンにはない、ほどよい「甘さ」も感じられる。

「Bayou Lightning」にも、この曲の再演が収められているのだが、比較するにオリジナル版のほうが断然いい。若いころのほうが、歌声にまろみと色気があるのだ。

あえてギター・プレイを抑えて、歌一本で勝負するこの一曲。けっこうお気に入りであります。

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