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音盤日誌「一日一枚」#310 クライマックス・ブルース・バンド「サンプル・アンド・ホールド」(ビクター音楽産業 VIL-6033)

2022-09-20 05:33:00 | Weblog

2006年3月12日(日)



#310 クライマックス・ブルース・バンド「サンプル・アンド・ホールド」(ビクター音楽産業 VIL-6033)

クライマックス・ブルース・バンド、通算14枚目のアルバム。ヴァージン移籍後初のアルバムでもある。83年リリース。ジョン・エデンおよび彼ら自身によるプロデュース。

クライマックス・ブルース・バンドほど息の長いバンドも珍しい。結成は67年、英国スタッフォードにて。69年にアルバム・デビュー。

当初の「クライマックス・シカゴ・ブルース・バンド」というバンド名を71年に「クライマックス・シカゴ」と変え、さらに73年に現在のバンド名に再変更と、脱皮を繰り返しつつ成長してきた。

オリジナル・アルバムの制作は88年の「DRASTIC STEPS」が最後になっているが、2003年にはウィリー・ディクスンのカバー集「BIG BLUES」もリリース、現在もオリジナル・メンバーのコリン・クーパー(66才!)を含む5人編成でライブ活動を行っている。なお、中心メンバーであったピーター・ヘイコックは、ソロ・ギタリストとしてIRSからアルバムを出している。

クライマックス・ブルース・バンド(以下CBB)といえば、76年に出したアルバム「GOLD PLATED」に収録されていた「クドゥント・ゲット・イット・ライト(COULDN'T GET IT RIGHT)」が大ヒット。翌年、全米3位にまでのぼりつめているが、良くも悪くもこの曲が、以後の彼らの道のりを決定したといっていい。

実力のわりには、なかなか人気にもヒットにも恵まれなかった6、7年を経て、大ヒットを出し、誰もが知っているバンドになったことで、バンド活動に余裕が出てきた反面、なかなか冒険は出来なくなり、以前のようなクリエイティビティは失われていった。このへん、先日取り上げたロッド・スチュアートにも共通するものがある。

ショービズに入った以上、誰もが憧れ目指す「成功」ではあるが、いったんそれを手にしてしまうと、「守り」に入らざるをえなくなる。結局、何かを得たかわりに失うものも大きいのだ。

CBBの場合、それでも何年かはクリエイティビティを維持し、81年には再びスマッシュ・ヒット「I LOVE YOU」(全米12位)を出して意気軒昂なところを見せているが、それが限界だったようで、以後はまったくヒットと無縁になる。

トップを走り続けるということは、かくも難しいことなのである。

さて、このアルバムはレーベルも移籍して、新しいCBBサウンドを出そうとそれなりに模索している一枚だと思う。

オーソドックスなR&Bをベースにしたポップ・ロックということでは以前と大きな違いはないが、以前のような若さ、パワーを前面に出したスタンスではなく、メンバーが40代に突入したこともあってか、もっと大人の余裕や貫禄を出した音作りを目指しているようだ。

個人的には元フリーのアンディ・フレーザーと英国のシンガー、フランキー・ミラーの作品、「アイム・レディ」のカバーが一番ツボかな。タイトルからわかるように、マディやディクスンへのトリビュート的ナンバー。ここでのコリンの歌声はソウルフルで、実にシブい。

「ヘヴン・アンド・ヘル」のブルース・ロックなノリもいい。ヘビーなギターに絡むブラスや、オルガンがなんともブルーズィ。イントロが「ふたりの愛ランド」にパクられたとおぼしき「サインズ・オブ・ザ・タイムズ」はブギ・ビートがノリノリで心地よい。

「クドゥント・ゲット・イット・ライト」の路線をもっとも踏襲しているのは、「フレンド・イン・ハイ・プレイス」かな。当時流行のオージー・ロックふうの軽快なビートに、おなじみのオクターブ・ユニゾンのボーカルが乗っかって、いかにもキャッチーな作りだ。

「ウォーキング・オン・サンセット」や「シャイン」も、ダンサブルでノリのいいナンバー。コリンとピーターの異質な声同士のハーモニーがいい個性を生み出している。

一方、メロウでメロディアスな曲も充実している。たとえば、コリンのハスキーな歌声とサックスをフィーチャ-した「ムービー・クィーン」も、ちょっとテンポが速すぎるきらいはあるが、いい雰囲気だ。

いかにも「ソウル・バラード」な「ドゥーイン・オールライト」は、テンプスみたいなコーラス・ワークがなんとも泣かせる。

また、ラストの「ジ・エンド・オブ・ザ・セブン・シーズ」も、ストリングス、コーラスやツイン・リード・ギターを多用、スケールの大きいサウンドがまことに印象的なスロー・バラード。この一曲だけ聴くと、ムーディ・ブルースみたいなプログレ・ハードなバンドかと思ってしまう。

「クドゥント・ゲット・イット・ライト」一曲のイメージだけ、あるいはブルース・バンドという呼称だけで単純に捉えられがちなCBBだが、そのサウンドは多面的であり、極めて奥が深い。さすが、長~いキャリアはダテじゃない。

あくまでも原点であるブルース、R&Bへのリスペクトは失わず、でも一方で新しいビート、新しいサウンドも遠慮なくガンガン導入していく、いい意味での節操のなさ、器用さが、CBBの身上だといえるだろう。

逆にいうと、「これこそCBB!」といえるような、決定的な個性が欠けていたともいえるんだけどね。

ぶっちゃけいってしまうと、歌声にあまりオリジナルな魅力がない。そのへんは、曲作り、サウンド作りのうまさでカバーしていたといえよう。職人肌のバンドなのだ。

決して王者にはなれなかったが、小味ないいバンド、それがCBBだと思う。

たまには音盤を引っぱり出して聴いてみたくなる。筆者にとっては、そんな存在なのである。

<独断評価>★★★


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