NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#75 クリーム「WHEELS OF FIRE」(Polydor 559425)

2022-01-28 05:11:00 | Weblog

2001年11月25日(日)



クリーム「WHEELS OF FIRE」(Polydor 559425)

IN THE STUDIO

1.White Room

2.Sitting On Top Of The World

3.Passing The Time

4.As You Said

5.Pressed Rat And Warthog

6.Politician

7.Those Were The Days

8.Born Under A Bad Sign

9.Deserted Cities Of The Heart

10.Anyone for Tennis

LIVE AT THE FILLMORE

11.Crossroads

12.Spoonful

13.Traintime

14.Toad

クリームのサード・アルバム。68年リリース。

LPでは2枚組として発表されたもの。1枚めはスタジオ録音。2枚めはフィルモアに於けるライヴ。

とにかく名盤中の名盤の誉れ高く、いまだに売れ続けているアルバムなのだが、なにがそんなにスゴいのか。

まずはジャック・ブルース(曲)・ピート・ブラウン(詞)コンビによる、クリーム最大のヒット曲(1)から聴いてみよう。

セカンド・アルバムの「英雄ユリシーズ」の循環コード進行を発展させたナンバー。

この曲ではじめてワウ・ペダルなるものの存在を知ったというリスナーも多いくらい、ワウが効果的に使われている一曲だ。

他にもフィードバックやエコー、オーバーダビング等が多用され、スタジオ録音技術がフルに生かされている。

もちろんこれは、プロデューサーであるフェリックス・パッパラルディ、レコーディング・エンジニアであるトム・ダウド(のちにオールマンズも担当)やエイドリアン・バーバーらの、高い技術力に負うところが大きい。

(2)はハウリン・ウルフのカバー。原曲とは違って、かなり粘っこい、これでもかの重たいアレンジが特徴的だ。

ブルースというより、これはもうヘヴィー・ロック。

(3)は、以前にも紹介したように、ジンジャー・ベイカーとマイク・テイラーによる、アバンギャルド・ジャズ風味のナンバー。

エスニック調コーラスで始まり、ストリート・オルガン風の音にストリングスが絡む。

途中何度もテンポ・チェンジを繰り返す、複雑な構成。未知の音世界へと誘ってくれる。

ジャズやアフリカ音楽に深く傾倒している、ベイカーならではの曲調だ。

プレイヤーとして、クリームの三人だけでなく、パッパラルディが全面的に参加しているのも、このスタジオ盤の特長。

ヴィオラ、オルガン・ペダル、トランペット、スイス・ハンド・ベルといった多様な楽器を巧みに操り、クリーム・サウンドにヴァラエティを加味している。

この曲では、オルガン・ペダルやヴィオラで参加。

続く(4)は、ブルース=ブラウン・コンビ作。ブルースがアコースティック・ギターを弾いている。

音階的にも、西洋音楽のそれではなく、どこかアラビアあたりのエスニック的なものが感じられる、実験的な作品だ。

パッパラルディのヴィオラ、ブルースのチェロが奏でる不協和音が、神秘的な雰囲気を高めている。

(5)は、パッパラルディのトランペット・ソロで始まる、これまた摩訶不思議なムードのナンバー。ベイカー=テイラー作。

寓話ふうのストーリーをクラプトン(らしき声)が語り、バックのリズムは徐々に激しくなり、最後はギターのうねるようなソロへと昇りつめていく。

(3)から(5)は、ライヴにはまず向かない、スタジオならではの面白い試みといえそうだ。

(6)は、ライヴでもおなじみの、へヴィーなビートのナンバー。ブルース=ブラウン作。

進行的にはブルースなのだが、もっと重々しく、歌詞も風刺にみちている。

ギター・ソロも、オーバーダビングによる凝った音作りになっている。

それも主音に和音を重ねていく、いわゆるツイン・リードのやり方ではなく、少しずつ違ったフレーズのソロを重ねていく、「ポリ・メロディック」(そんな言い方があるかどうかは知らないが)な方法論が面白い。

こういう試みも、ひとつ間違えると、ものスゴくダサくなりがちだが、クラプトンの巧みなプレイのおかげで、ギリギリ免れている。

次の(7)も、ベイカーがグロッケンシュピールなる打楽器、パッパラルディがハンド・ベルを演奏している、毛色のかわったナンバー。ベイカー=テイラー作。

地の演奏はアップテンポのハード・ロックなのだが、コーラスも加わって、なんとも奇妙な味わいのポップスに仕上がっている。

一般にクリーム=ハード・ロック・バンドと把握されがちだが、このアルバムを聴くと、そんな一筋縄ではいかないことがよくわかる。その音楽性は実に多岐にわたっているのある。

(8)は、ブルース・ファンにとってはなじみの深いファンキー・ブルース。もちろん、アルバート・キングのカバー。ウィリアム・ベル=ブッカー・T・ジョーンズ作。

クラプトンのギター・プレイも、かなりオリジナル寄りの、ファンキー色の強いものになっている。

アルバートが彼らにとっても、かなりインスピレーションをもたらした存在であったことが判る。

(9)は、アコギも加えた演奏。タイトなビートに乗せて、ストリングスとクラプトンのギターが自在に躍る、進歩的なサウンド。

キング・クリムゾンあたりがやっていたことを、確実に十年近く早く試みていたのである。

クリーム、そういう意味でも、相当「プログレ」なバンドだったのである。

スタジオ盤ラストの(10)はオリジナル・アルバムにはない、ボーナス・トラック(EP)。映画「サべージ・セブン」の主題曲。アコギやコンガ等を使った、アコースティック・ナンバー。ストリングスも効果的に使われている。

このように全編、ブルース、ファンク、プログレ、エスニック等々、スタジオ録音で可能な実験をあれこれ試している。

でも決してひとりよがりに陥らず、ちゃんと「聴かせる」アルバムにも仕上がっている。

これが、実にスゴいところなのだ。

さて、ライヴ盤のほうはといえば、これまた完成度は高い。

まず、クリームといえばこの曲!とまで言われる(11)。以前にもこの曲に対するオマージュ(賛辞)は書いてしまったので、ここではくだくだしく語らないが、68年時点における世界最高水準のロック・ライヴというだけでなく、20世紀を代表する名演奏といえそうだ。

続く(12)は、これもまたハウリン・ウルフの代表曲。ウィリー・ディクスンの作品。

なんと17分近くにおよぶ長丁場を、だれることなく、延々とインプロヴィゼーションだけでうずめつくしていく三人の力量には、舌を巻かざるをえない。

ことに、クラプトンのギブソンSGでのプレイは、「INCREDIBLE」のひとこと。

日本でも60~70年代、陳信輝、竹田和夫ら、多くのトップ・プレイヤーが腕試しのため、この難曲に挑戦したものである。

でもやはり、当時弱冠22歳のクラプトンの腕前には、誰もかなわなかったものだが。

大体、コピーできるか云々以前に、このフレーズをすべてオリジネートしたクラプトンの才能は、ただものであろうはずがない。ふつう17分も演奏すると、ネタ切れになるぜ、ホンマに。

「神」とよばれた所以である。

(13)では、クラプトンはお休み、ベイカーのドラムスのみで、ブルースがハープを吹く。

このハープも実にいい。トーンは割りとシャープで、黒人ブルースマンのそれとは一味違った彼のプレイも、クラプトンの陰にかくれてあまり語られることはないが、グーである。

大ラスの(14)は、ファースト・アルバム所収のインスト。繊細にして豪快、ベイカーの実力をあますところなく伝える、圧巻のソロ・プレイ。もう、こたえられません。

以上、名うてのプレイヤー三人が、持てる技をすべて出しつくして演奏する、バトル・ロワイヤルのような40数分。

「すさまじい」のひと言だ。

スタジオ盤に比べると、音楽的な広がりで勝負というよりは、とにかく力技でわれわれの耳を圧倒するという感じのライヴ盤ではある。

84分、通しで聴けば、ノック・アウト間違いなし。この「音」の洪水に、あなたは耐えられるかな?


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