2004年2月1日(日)
¥204 ピエール・バルー「シエラ」(ALFA ALC-28053)
フランスのシンガー=ソングライター、ピエール・バルー、84年のアルバム。
ピエール・バルーといえば、何と言っても「男と女」の主題歌で有名だろうが、日本にもYMOやムーンライダーズら、彼に影響を受けたミュージシャンがけっこう多かったりする。
このアルバムは、82年に立川直樹氏のプロデュースにより制作された「ル・ポレン-花粉-」(日本コロムビア)の後をうけて、同じく立川氏のプロデュースにより作られたもの。
彼の人脈により、呼び集められたミュージシャンの顔ぶれが、なかなかスゴい。
YMOの坂本龍一と高橋幸宏、加藤和彦、ムーンライダーズの鈴木慶一、かしぶち哲郎、白井良明ら、YEN系列から立花ハジメ、清水靖晃、バルーとゆかりの深いフランシス・レイ、ローラン・ロマネリ、ルイス・ヒューレイといった人々が演奏や作・編曲で参加しているのだ。
日仏の代表的なミュージシャンのコラボレーションにより生まれたアルバム。まさにコスモポリタンな一枚といえよう。
<筆者の私的ベスト3>
3位「ワン・ニャン・ワン」
「CHATS CHIENS CHATS」という仏題をつけられたこの曲は、聴けばすぐわかるが、小学校の音楽の教科書には必ず載っている「おもちゃのチャチャチャ」(越部信義作曲)。
ただの童謡と思われがちなこの曲だが、バルーがユーモアあふれる詞をつけ、かしぶち哲郎が小粋なアレンジを施すことで、見事なポップス・チューンへと変身している。
バルーの素朴でちょっとおトボケな歌い方が、曲調にうまくマッチしていてナイス。バックの生き生きとした演奏もいい。
なんとも愛すべき一曲であります。
2位「ケ・ビバ・ヴィラス」
無国籍ポップス、日本製童謡の次は、アルゼンチン・タンゴである。
詞はバルー、曲はフランシス・レイが担当、これにローラン・ロマネリ、ヤニック・トップが格調高いタンゴ・アレンジを加えている。
ここでのバルーでの歌唱が本当に素晴らしい。彼は大声量で朗々と歌い上げるような技巧派ではないのだが、一語一語、かみしめるように歌うのが実にいい。
日常生活を離れた旅での驚き、とまどい、歓び、そういった情感が、ダイレクトに伝わって来る。こういうのを、説得力がある歌というのだろうね。
いい歌はやはり、テクニックではない。「こころ」なのだよ。
1位「愛の苦悩」
唯一、ピエール・バルー自身の作曲によるナンバー。ローラン・ロマネリの編曲。
当然ながら、彼自身の思い入れが一番色濃く投影された曲で、文句なしにベスト・トラックだ。
ピアノとギター、ストリングスによるオーセンティックな演奏にのせて、語るように、ささやくように歌われる、悲しき恋心。
ことばと旋律、そしてサウンド。すべてが相まって、ひとつの「詩」を作り上げている。
わずか数分の曲が、こんなにも人を揺り動かす。そんなこと、他の芸術に出来る芸当だろうか?
これこそが、ピエール・バルーの魅力なのだなと再認識した。
自ら歌を作り、うたう全ての人々に聴いていただきたい。クリエイトするとは、こういうことなのだよ。
<独断評価>★★★☆