2004年8月7日(土)

#231 ビル ・ヘンダースン「BILL HENDERSON WITH THE OSCAR PETERSON TRIO」 (POLYDOR/VERVE POCJ-2152)
ビル・ヘンダースンという名のミュージシャンは何人かいるが、そのうち、このビルはジャズ・シンガーである。かのオスカー・ピータースン・トリオをバックに従えたアルバムだ。63年リリース。
ジャズ・シンガーとはいえ、いわゆるスタンダードばかり歌うわけでなく、トラッド、ブルースなど、幅広くこなすオールラウンドなシンガー。そういう意味では、以前取り上げたことのある、ジョー・ウィリアムズに連なる存在であるといえそうだ。
彼、元々は故郷のシカゴでデビューしたものの、その後活動の拠点を西海岸に移してしまい、以降はメジャー・シーンで派手な活躍をしたとはいえない。しかし、寡作ながらもクォリティの高いアルバムを作り続けており、本盤はその代表作といえそうだ。
「ユー・アー・マイ・サンシャイン」で本盤はスタートする。実質的なアメリカ国歌ともいわれる、あまりにも有名な一曲。これを最初はソフトに、次第にスウィンギーに、フェイク、シャウトもまじえた熱唱を聴かせてくれる。
ビルの声質は、どちらかといえばライト。先輩のジョー・ウィリアムズに比べると、だいぶん軽めで、音域もやや高い。
耳にスムースに入ってくる、割りと聴きやすい歌声といえそうだ。
そのせいか、「ア・ロット・オブ・リヴィング・トゥ・ドゥ」(チャールス・ストローズ作曲)、「アット・ロング・ラスト・ラヴ」(コール・ポーター作曲)のような軽妙なスウィング・ナンバーに、実にハマっている。
もちろん、しっとりとしたバラードでも、ウィリアムズとはまた違った味わいの歌を聴かせてくれる。
「重厚さ」よりは「切れ」、そんな歌いぶりである。
「のるかそるか」(ジャック・ローレンス作曲)、「ザ・フォークス・フー・リヴ・オン・ザ・ヒル」(ジェローム・カーン作曲)が、その好例。ピータースンの達者なピアノ演奏とともに、しみじみと情感あふれる歌唱を堪能出来る。
一方、ブルース感覚にあふれたナンバーもある。「ベイビー・マイン」は前年公開されたディズニー映画「ダンボ」の中で歌われたナンバーだが、使われているのは歌詞だけ。ビル自身のアレンジにより一変、このうえなくファンキーな一曲と仕上がっている。
知らずに聴くと、まるで、彼のオリジナル・ブルースかと思ってしまう。でも、元ネタはあり、「クロウダッド」というトラッド・ブルースで、ニューオリンズ周辺でよく歌われていたそうだ。
その他、シャルル・トレネ作のシャンソン「アイ・ウィッシュ・ユー・ラヴ」なんて異色のセレクションもあって、おもしろい。
いずれのトラックでも、最盛期のオスカー・ピータースン・トリオ(レイ・ブラウン、エド・シグペン)が絶妙なバッキングで、スウィンギーな歌を一層盛り立てている。文句なしの出来ばえ。
出来ればアフター・シックスに、キリキリに冷えたマティーニなど飲りながら、聴いて欲しい一枚。「粋な」ヴォーカルとは何か、よくわかりまっせ。
<独断評価>★★★★