2003年7月20日(日)
#177 ザ・ビートニクス「EXITENTIALIST A GO GO-ビートで行こう-」(CANYON D32A0295)
鈴木慶一、高橋幸宏によるユニット、ザ・ビートニクスのセカンド・アルバム。87年リリース。
ムーンライダーズのリーダー、元YMOのドラマーというふたりの才人がコラボレート、類例のない面白い作品となっている。
このふたりに共通しているのは、一徹なミュージシャンというよりは、文学的なセンスをも持つ「アーティスト」だという点だろうね。
彼らのデビュー・アルバムの「出口主義(EXITENTIALISM)」というタイトルからして、実存主義=EXISTENTIALISMをもじったものだし、バンド活動の他、雑誌での文芸連載をも持っていたくらいだ。
グループ名も、アレン・ギンズバークらビート・ジェネレーションの詩人を意識したもので、そういった「舶来」のエスプリと、日本ならではの独自のロック&ポップがブレンドされて、絶妙な味わいを見せている。
<筆者の私的ベスト4>
4位「STAGE FRIGHT」
このアルバムでは二曲だけカヴァーをやっているが、そのうちの一曲。もちろん、ザ・バンドの代表曲、ロビー・ロバートスンの作品。
コテコテのアメリカン・バンドであるザ・バンドと、ザ・ビートニクス、ちょっと意外な取り合わせという気もするが、高橋のYMO時代の同僚、細野氏あたりの影響なんだろうか。彼らの隠れた「ルーツ」を垣間見た感じだ。
仕上がりはなかなか良く、ザ・バンドの華やいだ雰囲気とはまた違った、しっとりとしたヴォーカル&コーラスをキメてくれている。彼らのお仲間のひとり、大村憲司のギター・ソロもカッコいい。
ザ・ビートニクスのサウンド上の大きな特徴としては、高橋があえてナマのドラムスを叩かず、リズムがすべて打ち込みによるものだということがある。
あえて、バンド的なグルーヴを消し去って、「ユニット」的な音にまとめようという意図があるのだろうね。
3位「ちょっとツラインダ」
セカンド・ラインふうの軽快なビートに乗って、ふたりが交代に歌う、明るい失恋ソング。詞は鈴木、曲はふたりの合作。
ハネるようにノリのいいベースは、細野晴臣だろうか。また、サックスの達人、矢口博康が陰で、サウンドをビシッと引き締めている。
ちょっぴりおセンチで、ユーモラスな歌詞がいい感じだ。こういう、シャイで淋しん坊な男ごころを書かせたら、鈴木慶一の右に出るものはないな。
2位「大切な言葉は一つ「まだ君が好き」」
これも同じく詞は鈴木、曲はザ・ビートニクスによるナンバー。
どこかファニーで、どこか悲しいラヴ・ソング。このへんはもう、鈴木慶一ならではの世界ですな。
またバックの、ピアノをフィーチャーした、メロウな米国南部風サウンドが、実にいい。
「夜になると僕はまた空き缶を窓の外に投げる」のくだりでは、毎度笑ってしまいます。その投げやりさ加減が、いかにもビート族的でナイスだ。
矢口のソロも、短めですがなかなかいい味を出してます。
1位「TOTAL RECALL」
アルバムのファースト・チューン。すべて英語の歌詞はGiles Dukeと生田朗によるもの。曲はザ・ビートニクス。
循環コードを多用した曲調はどこか、YMOを思わせるものがある。
この曲もやはり、ふたりのコーラスが素晴らしく、他のデュオのどれにも似ていない、独自の響きを聴かせてくれる。
また、大村憲司はここでは、ジャズィなソロを披露しているので、それもまた聴きもの。
なお、5曲目の「THEME FOR THE BEAT GENERATION」はこのナンバーの冒頭部分をインストにアレンジしたものだ。
この一枚、サウンドも一級の出来ばえだし、録音もいいが、それにもまして気に入っているのが、ふたりのヴォーカル。
ややドライな鈴木、少しウェットな高橋、それぞれのヴォーカルの個性がうまく絡み合って、いいハーモニーを生み出しており、ヴォーカル・アルバムとしても上々の仕上がりだと思う。
なにより、歌詞がストレートに伝わってくる。やはり彼らはうまい。
日本のポップス史上、極めてユニークにして完成度の高いサウンドを生み出したふたり。一聴の価値はあります。
<独断評価>★★★★