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音盤日誌「一日一枚」#490 EAGLES「HOTEL CALIFORNIA」(Asylum 755960509)

2023-03-22 05:00:00 | Weblog
2023年3月22日(水)



#490 EAGLES「HOTEL CALIFORNIA」(Asylum 755960509)

米国のロック・バンド、イーグルスの5枚目のスタジオ・アルバム。76年リリース。ビル・シムジクによるプロデュース。

イーグルスは71年レコード・デビュー。もともとはシンガー、リンダ・ロンシュタットのバックにいた4人により結成されたバンドだ。

メンバー交代、追加により5人となったイーグルスがリリースした最初のアルバム、それがこの「ホテル・カリフォルニア」だ。

セールス的には同年前半にリリースした「グレイテスト・ヒッツ1971-1975」に次ぐ大ヒットとなり、RIAAにより米国内で売れたアルバムの歴代第3位として認定されている。

そんなモンスター・アルバムのオープニングはタイトル・チューンの「ホテル・カリフォルニア」。バンドメンバー、ドン・フェルダー、グレン・フライ、ドン・ヘンリーの作品。

ドン・フェルダーの12弦ギターのアルペジオから始まる、裏打ちビートのナンバー。リード・ボーカルはドラムスのドン・ヘンリー。シングル・カットされ、全米1位となった。

憂いに満ちたメロディとハスキーな歌声、深く分厚いギター・サウンドがアピールして、本国だけでなく日本でもヒットした。

77年当時、筆者は大学の友人と一緒にバンドをやっていたのだが、メンバーのひとりがこの曲をやりたいと言い出したものの、ギターひとりの編成だったためどうにも無理があり、断念したのを覚えている。2本、アコギも入れれば3本ないと、このサウンドを出すのは絶対不可能だよね。

いま聴いても、実にパーフェクトな構成の曲だと思う。

ことにフェルダー、ジョー・ウォルシュのそれぞれのギター・ソロの後、ふたりのツインギターへとなだれ込む展開。

その計算し尽くされた流れを超えられるギター・パフォーマンスは、その後のどのバンドからも出ていない。

本曲の歌詞の内容については、さまざまな考察がなされていて、それをひとつひとつ取り上げるのは無理なので、個人的な感想をひとつだけ述べておこう。

「69年以来、(ロックに)スピリットはない」という意味のフレーズに、筆者も敏感に反応していたひとりだった。

ロックがすっかり産業化されてしまい、本来の反骨精神を失っていった70年代の半ば過ぎに、彼らがはっきりと言葉にしてそれを指摘したことは(ひとによっては「なんだそんなこと当たり前の事実で、言うだけヤボってもんだろ」と反発するかもしれないが)、誰かが一度は明言すべき真実だろうなと思っていたから、ストンと腑に落ちるものがあった。

ロックは69年の時点で脳死状態に陥ったまま、それでも呼吸だけはしてかろうじて生きながらえ、しかしついに80年、レノンとボーナム、ふたりの英雄ジョンの死によって完全に絶命してしまったのだと思う。

ロック・スピリットとは何かという重いテーマに取り組んだ本曲は、すべてのロック・ファンに、鋭い問題提起を突きつけているのである。

「ニュー・キッド・イン・タウン」はシンガーソングライターのJ.D. サウザー、バンドのフライ、ヘンリーの作品。リード・ボーカルはグレン・フライ。先行シングルとしてリリース、全米1位を獲得している。

歌詞はダリル・ホール&ジョン・オーツのことをモチーフにしているという。イーグルスと歩みをともにしてきた、朋友というべきデュオのことを歌うことで、自分たちの世界をも同時に語る、そんな曲だと思う。

優しい雰囲気を漂わせる、どことなくマリアッチ風味のバラード。かつてはバンドの表看板だったのに、この曲が本盤ではフライの唯一のリード・ボーカルというのが、ちょっと残念だ。

「駆け足の人生」はウォルシュ、ヘンリー、フライの作品。リード・ボーカルはヘンリー。タイトル通り、アップ・テンポのロックンロール・ナンバー。シングル・カットされ、全米11位となっている。

74年のアルバム「オン・ザ・ボーダー」からのフェルダーの参加以降、バンド・サウンドのロック度が上がったイーグルスだが、ウォルシュの加入により、さらにロック化が加速した感がある。

スピーディなビート、ハードなツイン・ギター。ロックなイーグルスを代表する一曲が、まさにこれだ。

当然、このサウンドに拒否感を示すメンバーも、出ることとなった。

「時は流れて」はヘンリー、フライの作品。リード・ボーカルはヘンリー。

カントリー・ミュージックという、イーグルスの基本路線を踏襲したバラード・ナンバー。ピアノはウォルシュが担当。

哀感のあるメロディが、ヘンリーのしょっぱい歌声によくマッチングしている。

「時は流れて(リプライズ)」はLPのB面トップ。前曲のインストゥルメンタル・バージョン。ストリングス・アレンジはジム・エド・ノーマン。

「暗黙の日々」はフェルダー、ヘンリー、フライ、サウザーの作品。リード・ボーカルはヘンリー。シングル「ニュー・キッド〜」のB面。

ブルーズィなスライドギター・サウンドと、イーグルスの最大の売り物、ボーカル・ハーモニーが溶け合ったロック・ナンバー。

陰と陽が絶妙なバランスでブレンドされた、中期以降のイーグルス・サウンドの到達点と言える一曲だ。

「お前を夢みて」はウォルシュ、シンガーソングライターのジョー・ヴァイタルの作品。リード・ボーカルはウォルシュ。シングル「ホテル・カリフォルニア」のB面。

ウォルシュはギタリストとして語られることがもっぱらだが、彼は前のバンド、ジェイムズ・ギャングにいた頃からボーカルも担当しており、また曲も書いていたので、シンガーソングライターとしての彼にも、もっとスポットが当たっていいという気がする。

自らピアノを弾いて歌う、静かなバラード・ナンバー。メロディ、コーラスなどが少し、トッド・ラングレンの作風に似ている。

原曲のタイトルが「カワイコちゃんを手当たり次第」みたいなアレな意味なので、このみょうに美しい曲調はちょっと不思議だな。

「素晴らしい愛をもう一度」はベースのランディ・マイズナーの作品。彼自身のリード・ボーカル。

結成当時からのメンバーであったマイズナーは、新体制のイーグルスの音楽性に違和感を抱いていたのだろう、このアルバムの発表後の78年、バンドを去っている。

いかにもマイズナーらしい、フォーキーで爽やかな曲調と、ハイトーン・ボーカル。

バックのハーモニーの素晴らしさは、イーグルスだから折り紙付きだ。

こういった本来のイーグルス・サウンドは、その後次第に消えていくことになる。

ラストの「ラスト・リゾート」は7分以上におよぶ、本盤で最も長尺のバラード・ナンバー。ヘンリーとフライの作品。リード・ボーカルはヘンリー。シングル「駆け足の人生」のB面。

歌詞内容はアメリカという国の荒廃、病いをテーマにしていて結構重く、タイトル・チューンと表裏一体を成しているようだ。

淡々と、時には切なく歌うヘンリーの、視線の向かう先は絶望の未来か、それとも一抹の希望の光か…。

いろいろと、考えさせられる。

オーケストラにより長く続くリフレインが、この内省的な曲に、さらなる深みを与えているように思う。

カリフォルニアの青空のように澄み切った世界を歌っていたイーグルスが、5年あまりの歳月を経て、爛熟し退廃した文化をも歌うようになった。

日本の某音楽評論家は初期のイーグルスを「あれはグループ・サウンズでしょ」とバカにしていたが、それはあんまりな言い方だったと思う。

彼らは西海岸でテイク・イット・イージーな生活を送りながらも、70年代のアメリカが、そしてロックが抱えていた病いをずっと見据えていたのだ。

次第に彼らは歌詞を変え、サウンドも変えて、問題の本質を掘り下げていく。

もはや、気楽に構えることなど出来ないくらい、自分たちの国は退廃し、病み切ってしまったと感じた時、「ホテル・カリフォルニア」という曲は生まれたのだろう。

それまで洋楽ポップスの歌詞なんかろくに聞こうとしなかった日本のリスナーにも、歌詞の意味を考えさせるきっかけになった一曲。

ロックの転換点、そしてイーグルスの転換点としても、大きな意味を持つ一枚。

彼らの音楽が流行りものとしてだけ、優れているのではないことを、もう一度聴いて確認してほしい。

<独断評価>★★★★☆

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