2012年6月9日(土)
#220 ザ・モップス「朝まで待てない」(サイケデリック・サウンド・イン・ジャパン/ビクターエンタテインメント)
#220 ザ・モップス「朝まで待てない」(サイケデリック・サウンド・イン・ジャパン/ビクターエンタテインメント)

後期グループサウンズ、そして日本の本格的ロック・バンドの先駆け、ザ・モップスのデビュー・シングル曲。67年リリース。阿久悠、村井邦彦の作品。
筆者の意識に「ザ・モップス」というバンド名が刻まれるようになったのは、71年の「御意見無用(ええじゃないか)」あたりからだが、彼らはそれより4年も前にプロデビューしていたのだ。
デビュー当初はギター2人の5人編成。彼らが所属するホリプロ社長・堀威夫氏のアイデアで「日本最初のサイケデリック・サウンド」を標榜し、当時他のグループサウンズのほとんどがミリタリー調などの制服をコスチュームにしていた中で、各人バラバラのヒッピー、フーテン風の衣装を着ていたのだから、先進的にもほどがあった。明らかに他のGSとは、一線を画した存在だったのだ。
サウンドも玄人好みのロックやR&B、ルックスも可愛いとかイケメンとかいうよりはややヨゴレ系、コワモテ系ということで、婦女子の人気はイマイチ、しばらくはヒットにも恵まれなかった。でも音にうるさい男性ファンの支持は根強く、70年前後の「ミュージック・ライフ」(洋楽中心のポピュラー音楽誌)では、日本のバンド部門の人気投票において、ゴールデン・カップスと人気を二分する存在だった。
そんな彼らのデビュー曲は、後に超売れっ子作詞家となる阿久悠の、デビュー作でもあった。
作曲は、学生ミュージシャン出身の村井邦彦が担当。後には作曲家としてだけでなく、名プロデューサーとして数多くのアーティスト(ユーミン、YMOなど)を世に送り出した村井も、まだ駆け出しの時代である。バンドも新人、ライター陣も新人、ということで、きわめてフレッシュな顔ぶれによる、新しい時代の音楽がそこに生まれていた。
このデビュー曲「朝まで待てない」は、後に4人編成で再録音されており、ベスト盤によって一般的にはその音源のほうがよく知られている。だから、このオリジナル録音を聴いたことがあるひとはほとんどいないんじゃないかな。
両者を比較してみると、オリジナルはいかにも67年という感じで、リズムがだいぶんモタって聴こえるが、まあこれは当時の標準ってところだろう。ストーンズだって、67年当時にはこのレベルの演奏しかしてなかったし。
星勝のファズまみれのギターも、当時を感じさせて、懐かしいの一言。たしかに「サイケ」ではある。
その一方で、歌のほうはあまり変化していない気もする。オリジナルでは、鈴木ヒロミツ&星勝のツイン・ボーカルスタイル、再録音版ではヒロミツのソロ+コーラスという違いはあれど、共にその男臭さ、野太さはハンパじゃない。歌詞だってそうだ。ここにあるのは、青春のもどかしさ、悶々とした感情、つまり「欲望」そのものであって、ヘンにリファインされ、牙を抜かれた「恋心」ではない。男の自称や恋人の呼び名も「僕」と「きみorあなた」ではなく、「俺」と「お前」なのである。一般的なGSの、奇妙なまでに性的なものを排除した演出とは、対極にあるといってよい。
これじゃあ、ロマンティックしたい婦女子どもにはドン引きされるよな(笑)。
しかし、だからこそ、オトコどもには絶大な支持があった。虚構で塗りかためたような「蝶よ花よ」のGSワールドにはない、たしかな手応えが、モップスの音楽にはあったのだ。
彼らが目標としたバンド、アニマルズやゼムにもけっしてひけを取らないパッションを、67年の演奏に聴きとってもらいたい。モップスは、デビュー時からロックとは何かを掴んでいた、レアなバンドだったことがわかる。本物の音は何十年たとうが、まったく色あせないね