2023年2月11日(土)
#451 STEVIE WONDER「TALKING BOOK」(Motown POCT-1809)
米国のミュージシャン、スティーヴィー・ワンダーのスタジオ・アルバム。72年リリース。彼自身、マルコム・セシル、ロバート・マーゴレフによるプロデュース。
スティーヴィー・ワンダーは62年、12歳の若さでレコード・デビューしており、すでに10年のキャリアがあり、「マイ・シェリー・アムール」のような大ヒットもあったものの、まだソウル・ミュージック、ブラック・ミュージックという括りの中にいた。
そんな彼がジャンルを越えて、レイ・チャールズにも比肩すべき国民的なシンガーとなるきっかけとなったのが、この「トーキング・ブック」というアルバムだ。
オープニングの「サンシャイン」はシングルカットされ、全米1位の大ヒットともなったバラード・ナンバー。
白人シンガーにも広くカバーされて、「マイ・シェリー〜」に代わる彼の代表曲になった。
ペースとコンガ以外の全ての楽器を、ワンダーが演奏しており、彼のマルチ・プレイヤーぶりがよく分かる。
内容は恋人同士がたがいに讃えあう、ごくストレートなラブソング。「ユー・アー・マイ・サンシャイン」の現代版として、後々も愛された名曲だ。
「メイビー・ユア・ベイビー」は雰囲気が一転、ひたすら黒いノリのファンク・ナンバー。
ワンダーの代名詞ともいえるエレクトリック・クラビネットの響きが、なんともファンキー。
バックでブルーズィーな音を聴かせるギターは、スタジオ・ミュージシャン時代のレイ・パーカーJRだ。
レイディオを結成するはるか前、無名時代のパーカーの若々しいプレイを聴くことが出来る。
「ユー・アンド・アイ」はピアノとシンセをフィーチャーした美しいバラード・ナンバー。
これもストレートなラブソングだが、君と僕のふたりなら、世界も征服できるとか、歌詞がやたら大げさなのが笑いを誘う。
ワンダーの歌詞はことラブソングに関しては、マキシマムな表現が多くて、それもまた彼のキャラクターであり個性なんだなぁと思う。
実際、ワンダーは恋多き男としても知られていて、好きになったら即結婚を繰り返してきたせいで、現在までに5回結婚し、子供も9人いるのだとか。
ちょっと凡人には、真似が出来ません(笑)。
さすが「愛」を歌うことが人生を通してのテーマな、アーティストのことだけはある。
「チューズデイ・ハートブレイク」はタイトル通りの失恋ソング。リズミックなソウル・ナンバー。
これはソウルシンガー、シリータ・ライトと70年に結婚するもこのアルバムを出した72年にスピード離婚した、個人的な経験を反映した歌なのかな?
それはともかく、ワンダーがすべて演奏したリズムパートのノリはすごくいい。デイヴィッド・サンボーンのアルト・サックスもご機嫌だ。
「バッド・ガール」はブラジリアン・ミュージックの影響が強いナンバー。コンガ以外はすべてワンダーが演奏している。
ブラックミュージック、白人のロック、そして黒でも白でもないワールド・ミュージック。それらをすべてクロスオーバーしてみせたのが、ワンダーの音楽である。
72年で、すでにこのような音を生み出していたとは。まさにワンダー(驚き)なサウンドだ。
「迷信」は、皆さんご存じ、ワンダーがベック・ボガート&アピスのために書いたナンバー。
BB&Aがシングルとしてリリースする前にワンダーがシングル化して、おまけに全米1位の大ヒットとなっため、BB&A版が完全にかすんでしまった。
そのお詫びのしるしとして後年、ワンダーが「悲しみの恋人たち」という曲をベックのアルバム「ブロウ・バイ・ブロウ」に提供したというのは、ファンの間ではよく知られた話である。
ベックとワンダーの親交は、本アルバム制作のだいぶ前から始まっていたようだ。このふたり、ちょっと意外な組み合わせにも思われがちだが、ベックが第2期ジェフ・ベック・グループで目指したサウンドが(第1期とは違って)ファンク色の非常に強いものであることを考え合わせれば、すんなりと納得がいくのではなかろうか。
ワンダー版「迷信」はBB&Aのギター・サウンドの代わりにクラビネット、そしてホーン・セクションを前面に出して、よりファンクでダンサブルな仕上がりになっている。全米1位も、ナットクである。
「ビッグ・ブラザー」はアコースティック・ギターとハーモニカをフィーチャーした、ちょっとフォーキーなナンバー。
ワンダーの吹くハーモニカはブルースハープとはまた違い、シャープなトーンが実にクールだ。
ルーツ・ミュージックを巧みに洗練させた腕前はお見事である。
「ブレイム・イット・オン・ザ・サン」はピアノとコーラスをフィーチャーしたバラード・ナンバー。失恋がテーマである。
その歌詞には、恋をなくした男の痛切な感情が込められている。恋の終わりは、まるで自分の終わりでもあるかのようだ。
思い切り泣いて苦しんで、自らの哀しみを浄化する。
そんな素顔のワンダーが、この一曲に見てとれる。
これこそ、ワンダーの音楽が性別、人種を問わず共感される理由なのだろう。
「アナザー・ピュア・ラヴ」は、前述のようなジェフ・ベックとの付き合いから、彼との初共演が実現したナンバー。バラード。
ギターはベックとバジー・フェイトンのふたり。ベックがリード、フェイトンがサイドである。
メロウなサウンドに乗り、ベックはギターを自在に奏でる。思いついたメロディを口ずさむように。
このふわふわとした感覚は、失恋に続く、新しい恋の予感なのかな?
そんな夢見心地な曲に、ベックのデリケートなプレイはぴったりだ。必聴。
ラストの「アイ・ビリーヴ」はフォーク・ロック・スタイルのナンバー。新しい恋をみつけた喜びが満ちあふれる、人生讃歌だ。
本盤の中では、最も白人ロック寄りの曲だと思う。
この曲は、他にもまして、コーラスがまことに強力だ。ワンダー本人の多重録音に、3人のバックまで付いている。
爽やかで、パワフル。白人のフォーク・ロックを支持する層にも、すんなり受け入れられるサウンドに仕上がっている。
で、その調子で最後まで通すのかと思いきや、終盤、フォークなノリからソウルなノリに変化するのがなんとも面白い。
いろいろなスタイルをとりながらも、根本はひとつ、愛がテーマのアルバム。
ひとが人を愛するのは、ごく自然なこと。
出会い、恋、そして別れ。さらに新たな出会い。
その繰り返しこそが、ワンダーの人生であり、わたしたちの人生でもある。
トーキング・ブックが語るのは、そういう不変の真実なのだろう。
<独断評価>★★★★☆
米国のミュージシャン、スティーヴィー・ワンダーのスタジオ・アルバム。72年リリース。彼自身、マルコム・セシル、ロバート・マーゴレフによるプロデュース。
スティーヴィー・ワンダーは62年、12歳の若さでレコード・デビューしており、すでに10年のキャリアがあり、「マイ・シェリー・アムール」のような大ヒットもあったものの、まだソウル・ミュージック、ブラック・ミュージックという括りの中にいた。
そんな彼がジャンルを越えて、レイ・チャールズにも比肩すべき国民的なシンガーとなるきっかけとなったのが、この「トーキング・ブック」というアルバムだ。
オープニングの「サンシャイン」はシングルカットされ、全米1位の大ヒットともなったバラード・ナンバー。
白人シンガーにも広くカバーされて、「マイ・シェリー〜」に代わる彼の代表曲になった。
ペースとコンガ以外の全ての楽器を、ワンダーが演奏しており、彼のマルチ・プレイヤーぶりがよく分かる。
内容は恋人同士がたがいに讃えあう、ごくストレートなラブソング。「ユー・アー・マイ・サンシャイン」の現代版として、後々も愛された名曲だ。
「メイビー・ユア・ベイビー」は雰囲気が一転、ひたすら黒いノリのファンク・ナンバー。
ワンダーの代名詞ともいえるエレクトリック・クラビネットの響きが、なんともファンキー。
バックでブルーズィーな音を聴かせるギターは、スタジオ・ミュージシャン時代のレイ・パーカーJRだ。
レイディオを結成するはるか前、無名時代のパーカーの若々しいプレイを聴くことが出来る。
「ユー・アンド・アイ」はピアノとシンセをフィーチャーした美しいバラード・ナンバー。
これもストレートなラブソングだが、君と僕のふたりなら、世界も征服できるとか、歌詞がやたら大げさなのが笑いを誘う。
ワンダーの歌詞はことラブソングに関しては、マキシマムな表現が多くて、それもまた彼のキャラクターであり個性なんだなぁと思う。
実際、ワンダーは恋多き男としても知られていて、好きになったら即結婚を繰り返してきたせいで、現在までに5回結婚し、子供も9人いるのだとか。
ちょっと凡人には、真似が出来ません(笑)。
さすが「愛」を歌うことが人生を通してのテーマな、アーティストのことだけはある。
「チューズデイ・ハートブレイク」はタイトル通りの失恋ソング。リズミックなソウル・ナンバー。
これはソウルシンガー、シリータ・ライトと70年に結婚するもこのアルバムを出した72年にスピード離婚した、個人的な経験を反映した歌なのかな?
それはともかく、ワンダーがすべて演奏したリズムパートのノリはすごくいい。デイヴィッド・サンボーンのアルト・サックスもご機嫌だ。
「バッド・ガール」はブラジリアン・ミュージックの影響が強いナンバー。コンガ以外はすべてワンダーが演奏している。
ブラックミュージック、白人のロック、そして黒でも白でもないワールド・ミュージック。それらをすべてクロスオーバーしてみせたのが、ワンダーの音楽である。
72年で、すでにこのような音を生み出していたとは。まさにワンダー(驚き)なサウンドだ。
「迷信」は、皆さんご存じ、ワンダーがベック・ボガート&アピスのために書いたナンバー。
BB&Aがシングルとしてリリースする前にワンダーがシングル化して、おまけに全米1位の大ヒットとなっため、BB&A版が完全にかすんでしまった。
そのお詫びのしるしとして後年、ワンダーが「悲しみの恋人たち」という曲をベックのアルバム「ブロウ・バイ・ブロウ」に提供したというのは、ファンの間ではよく知られた話である。
ベックとワンダーの親交は、本アルバム制作のだいぶ前から始まっていたようだ。このふたり、ちょっと意外な組み合わせにも思われがちだが、ベックが第2期ジェフ・ベック・グループで目指したサウンドが(第1期とは違って)ファンク色の非常に強いものであることを考え合わせれば、すんなりと納得がいくのではなかろうか。
ワンダー版「迷信」はBB&Aのギター・サウンドの代わりにクラビネット、そしてホーン・セクションを前面に出して、よりファンクでダンサブルな仕上がりになっている。全米1位も、ナットクである。
「ビッグ・ブラザー」はアコースティック・ギターとハーモニカをフィーチャーした、ちょっとフォーキーなナンバー。
ワンダーの吹くハーモニカはブルースハープとはまた違い、シャープなトーンが実にクールだ。
ルーツ・ミュージックを巧みに洗練させた腕前はお見事である。
「ブレイム・イット・オン・ザ・サン」はピアノとコーラスをフィーチャーしたバラード・ナンバー。失恋がテーマである。
その歌詞には、恋をなくした男の痛切な感情が込められている。恋の終わりは、まるで自分の終わりでもあるかのようだ。
思い切り泣いて苦しんで、自らの哀しみを浄化する。
そんな素顔のワンダーが、この一曲に見てとれる。
これこそ、ワンダーの音楽が性別、人種を問わず共感される理由なのだろう。
「アナザー・ピュア・ラヴ」は、前述のようなジェフ・ベックとの付き合いから、彼との初共演が実現したナンバー。バラード。
ギターはベックとバジー・フェイトンのふたり。ベックがリード、フェイトンがサイドである。
メロウなサウンドに乗り、ベックはギターを自在に奏でる。思いついたメロディを口ずさむように。
このふわふわとした感覚は、失恋に続く、新しい恋の予感なのかな?
そんな夢見心地な曲に、ベックのデリケートなプレイはぴったりだ。必聴。
ラストの「アイ・ビリーヴ」はフォーク・ロック・スタイルのナンバー。新しい恋をみつけた喜びが満ちあふれる、人生讃歌だ。
本盤の中では、最も白人ロック寄りの曲だと思う。
この曲は、他にもまして、コーラスがまことに強力だ。ワンダー本人の多重録音に、3人のバックまで付いている。
爽やかで、パワフル。白人のフォーク・ロックを支持する層にも、すんなり受け入れられるサウンドに仕上がっている。
で、その調子で最後まで通すのかと思いきや、終盤、フォークなノリからソウルなノリに変化するのがなんとも面白い。
いろいろなスタイルをとりながらも、根本はひとつ、愛がテーマのアルバム。
ひとが人を愛するのは、ごく自然なこと。
出会い、恋、そして別れ。さらに新たな出会い。
その繰り返しこそが、ワンダーの人生であり、わたしたちの人生でもある。
トーキング・ブックが語るのは、そういう不変の真実なのだろう。
<独断評価>★★★★☆