NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#264 ミスター・ビッグ「MR. BIG」(ATLANTIC 7 81990-2)

2022-08-05 05:27:00 | Weblog

2005年3月13日(日)



#264 ミスター・ビッグ「MR. BIG」(ATLANTIC 7 81990-2)

ミスター・ビッグのファースト・アルバム。89年リリース。ケヴィン・エルスンによるプロデュース。

ミスター・ビッグという名のロック・バンドは、70年代のイギリスにもあったが、こちらはその解散後出て来た、アメリカ産のほうである。

デビュー当時のメンバーは、エリック・マーティン(vo)、ポール・ギルバート(g)、ビリー・シーハン(b)、パット・トーペイ(ds)の四人。現在はギターがリッチー・コッツェンに替わっている。

いまやロック界において、「ベテラン」の域に到達している感のあるミスター・ビッグ。そんな彼らのデビュー盤を改めて聴き直してみるに、いまさらながら、そのサウンドの完成度の高さを痛感する。

彼らのサウンドは言って見ると、70年代以来、ZEPを筆頭とする諸バンドが築き上げて来たハードロック/へヴィーメタルというジャンルを総決算、総まとめしたという印象がある。

つまり「いいとこ取り」といいますか。

たとえば、アルバムトップの「ADDICTED TO THAT RUSH」。もう、のっけからトリッキーなギターリフ、耳に突き刺さる超高音シャウト、体を揺さぶるハイテンションなビート、HR/HMのショーケースそのものなんである。

続く「WIND ME UP」も、迫力あるコーラスを前面に押し出した、ドライヴィング・ナンバー。ポールの火を噴きそうなプレイも実にカッコよろしい。

他のナンバーもいずれも、そういうハードロック・ファン好みの濃いサウンドばかり。甘ったるいバラードやスローな曲、フォーキーなナンバーなどほとんどなく、ほぼ全編テンポのあるハードなチューンで統一している。

いささかワンパターン、一本調子なのは否めないが、とにかくプッシュに次ぐプッシュ。勢いだけでは誰にも負けない、押し相撲型のバンドなんである。

エリックのヴォーカル・スタイル、声質は、ポール・ロジャーズ、ルー・グラムあたりに近い。ブリティッシュ系のハードロックにもかなり影響を受けていると見た。

そういえばバンド名は、バンド一ののっぽ、ポールのニックネームにちなんで付けられたようだが、もちろん、フリーの名曲「ミスター・ビッグ」も意識していたのだろう。エリックのフレージングには、どうしてもポール・ロジャーズ(どちらかといえばバドカンの頃のだが)の面影を感じてしまう。

デビューしたてのバンドとしては極めてレベルの高い演奏、歌、そしてコーラス。エルスンのキメの細かいアレンジも素晴らしい。いささか曲調が偏っているといううらみはあるものの、「ただ者ではない」とすべてのリスナーに思わせるだけのものを持っている。まさに、バンド名に恥じない出来。

ただ、筆者としては、欲をいうと、そのあまりのソツのなさのゆえに、特別なひっかかりがなく、どこか物足りなさを感じてしまうのも事実。

なんか購買者の全ての欲求を、可能な限り満たすべく作られた「最大公約数」的商品だなぁ~と思ってしまうのだ。

だから、筆者の個人的な偏愛の対象には、絶対ならないタイプのバンドではある。

でもアルバム中、一曲だけには「おっ!やるじゃん」と思ってしまった。

それは、アナログ版アルバムには未収録だったトラック、「30 DAYS IN THE HOLE」である。

これはもちろん、スティーヴ・マリオット作、第二期ハンブル・パイの代表的なナンバー。ライヴ・ヴァージョンを収録。

原曲にほぼ忠実なアレンジで、あのホットなグルーヴを再現するミスター・ビッグ。ことに、生のコーラスの素晴らしさは、ご本家パイとタメを張っている。これには驚き。

正直、ミスター・ビッグの、質の高いあのコーラスは、スタジオ録音でしか出来ないんじゃないかとタカを括っていただけに、見直しましたよ。

やっぱ、各メンバーのミュージシャン能力の高さは、その歌を聴けばわかりますな。

あちらのバンドと日本のバンドとの決定的な差は、演奏よりむしろ歌。そう思いました。

「最初っから大物の貫禄、それがミスター・ビッグ・クォリティ」といったところでしょうか。

<独断評価>★★★★


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