いやー、この冬は寒いですねー。
寒くても怒濤の年度末はやってくるヽ( ´ー`)ノ忙しくなってまいりましたが、通勤電車内のSF読みはおかげさまで捗っております。今年2冊目の読了はこちら。
エクソダス症候群/宮内悠介(創元SF文庫)
精神医療が発達し、ほぼ全ての精神疾患がコントロール可能になったかと思われた近未来、突如発生した症状「突発性希死念慮」。恋人の発症と自死を防げず、追われるように地球から火星へとやってきた精神科医カズキ・クロネンバーグは、火星で唯一の精神病院・ゾネンシュタイン病院で働き始める。カバラの「生命の樹」を模した構造を持つこの病院でカズキが直面したのは、スタッフも物資も不足する中でギリギリの医療活動を続けねばならない壮絶な環境、権謀術数に明け暮れる政治手腕に長けた幹部医師たちとの抗争、そして「特殊病棟」に長年入院/拘束され、同時に君臨し続けている謎の男。かつてこの病院で勤務していたカズキの父もまた、カズキには言えない秘密を抱えたまま息を引き取っていた。目に見えぬ悪意と亡き父親の影を感じながら日々の勤務に追われるカズキの前に、火星特有の症状「エクソダス症候群」の集団発症が襲いかかる。カズキはこの危機をどう乗り越えるのか?ゾネンシュタイン病院が孕む謎とは?
こうしてあらすじを書くとまるでサスペンスか医療ホラーか、といったエンタメ色の強い作品のように思えてきますが、それは鴨の筆力の拙さ故で、実際には精神医療史と精神医療を巡る社会の変遷を軸にした、重たい読後感の作品です。作中のある登場人物が精神医療に関するペダンティックな語りを延々と続けるシーンもあり、相当な事前準備の上で構成された作品であることが伝わってきます。
前作「ヨハネスブルグの天使たち」を読んだ時は、「少女型ロボットが空から降ってくる」というヴィジョンありきで後からストーリーが付いてきたような中途半端なイメージを受け、その現実味のなさが鴨的には馴染めなかったのですが、それに比べると今作は地に足がついた展開で、ストーリー展開で読者を引っ張って行こうとする勢いがあります。ある意味、「普通の小説」っぽくなってきた感があります。
ただ、ラストの展開は正直ちょっと尻窄み。魅力的で謎めいた登場人物を前半どんどん投入してきた割りには、活かし切れずに小ぢんまりと納まってしまった印象です。鴨はこの方の作品をそれほど読んでいるわけではありませんが、何となく方向性を模索しているところなのかなという感じがしました。筆運びは相変わらず達者ですし、これからますます多様さを増していくのかもしれません。これからも注目していきたいと思います。
寒くても怒濤の年度末はやってくるヽ( ´ー`)ノ忙しくなってまいりましたが、通勤電車内のSF読みはおかげさまで捗っております。今年2冊目の読了はこちら。
エクソダス症候群/宮内悠介(創元SF文庫)
精神医療が発達し、ほぼ全ての精神疾患がコントロール可能になったかと思われた近未来、突如発生した症状「突発性希死念慮」。恋人の発症と自死を防げず、追われるように地球から火星へとやってきた精神科医カズキ・クロネンバーグは、火星で唯一の精神病院・ゾネンシュタイン病院で働き始める。カバラの「生命の樹」を模した構造を持つこの病院でカズキが直面したのは、スタッフも物資も不足する中でギリギリの医療活動を続けねばならない壮絶な環境、権謀術数に明け暮れる政治手腕に長けた幹部医師たちとの抗争、そして「特殊病棟」に長年入院/拘束され、同時に君臨し続けている謎の男。かつてこの病院で勤務していたカズキの父もまた、カズキには言えない秘密を抱えたまま息を引き取っていた。目に見えぬ悪意と亡き父親の影を感じながら日々の勤務に追われるカズキの前に、火星特有の症状「エクソダス症候群」の集団発症が襲いかかる。カズキはこの危機をどう乗り越えるのか?ゾネンシュタイン病院が孕む謎とは?
こうしてあらすじを書くとまるでサスペンスか医療ホラーか、といったエンタメ色の強い作品のように思えてきますが、それは鴨の筆力の拙さ故で、実際には精神医療史と精神医療を巡る社会の変遷を軸にした、重たい読後感の作品です。作中のある登場人物が精神医療に関するペダンティックな語りを延々と続けるシーンもあり、相当な事前準備の上で構成された作品であることが伝わってきます。
前作「ヨハネスブルグの天使たち」を読んだ時は、「少女型ロボットが空から降ってくる」というヴィジョンありきで後からストーリーが付いてきたような中途半端なイメージを受け、その現実味のなさが鴨的には馴染めなかったのですが、それに比べると今作は地に足がついた展開で、ストーリー展開で読者を引っ張って行こうとする勢いがあります。ある意味、「普通の小説」っぽくなってきた感があります。
ただ、ラストの展開は正直ちょっと尻窄み。魅力的で謎めいた登場人物を前半どんどん投入してきた割りには、活かし切れずに小ぢんまりと納まってしまった印象です。鴨はこの方の作品をそれほど読んでいるわけではありませんが、何となく方向性を模索しているところなのかなという感じがしました。筆運びは相変わらず達者ですし、これからますます多様さを増していくのかもしれません。これからも注目していきたいと思います。