極楽とんぼは風まかせ

東は東、西は西。交わることなき二つとはいえ、
広い太平洋、東の風が吹き、西の風が吹き・・・

とかいなか暮らしはいいもんだ

2016年07月04日 | 今日の風の吹きまわし
7月。もう1年が半分過ぎてしまった。ニューウェストミンスター市民になって11ヵ月。もっと前からここに
住んでいたような気がするのは、それだけ新しい環境に馴染んだと言うことか。総人口250万人の「メト
ロバンクーバー」の地理的な中心にあって、四方をバーナビーとコクィットラム、リッチモンド、川向こうの
サレーという、いずれも移民の流入で近年急速に発展しつつある都市に囲まれた人口7万人そこそこの
「スモールタウン」がニューウェストミンスター市。その地理的な中心がアップタウン地区にある「Sixth &
Sixth」と呼ばれる6番アベニューと6番ストリートが交差するビジネスセンターなんだけど、初めて来たと
きの印象は「とある地方都市の○丁目商店街」。駐車場を備えた2フロアのインドア型ショッピングモール
があって、その後ろには1980年代から90年代に建てられたしゃれた高層マンションが並んでいるのに、
夜になれば通りは閑散として、開いているファストフード店も人影はまばら・・・。

新しい生活が落ち着いたら、新しい「我が町」のことをもっと知りたくなって、週刊コミュニティ新聞『New
Westminster Record』デジタル版をブックマークして定期的に読むようになった。(めったにない)事件の
ニュースや(かなり活発な)文化活動やイベントなどの身近なニュースに混じって、市議会や市役所の活
動もけっこう詳しく報じているところはいかにも「スモールタウン」らしいと言えるかな。最終的に私たちの
新居になったマンションはゾーニングが「コミュニティ商業区域(高層)」(商業施設と集合住宅の混合用
途)になっていて、正面玄関の両側は貸し店舗になっている。片側に歯科と補聴器クリニックが入ってい
るけど、もう一方は空いたまま。向かいの建物も空き店舗があるし、6番ストリートには「テナント募集」の
張り紙をしたウィンドウがあちこちにある。市が進めている「アップタウン活性化」はまだ途上という感じだ
けど、それでもモールにウォルマートが進出するなどして、Sixth & Sixth界隈はかなり活気が感じられる
ようになって来ている。

ニューウェストミンスター市の街づくりの目標は「ウォーカブルシティ」で、交通政策の主軸は「歩行者最
優先」。面積がわずか15平方キロの気がついたら通り抜けてしまっていそうな小さな街で、生活基盤が
基本的に徒歩圏にあるもので、歩行者は王様みたいなところがある。マンション前の道路と6番ストリー
トのT字型交差点はコーヒーショップのティムホートンとスターバックスが向かい合っているので「Coffee
Crossing」と呼ばれていて、歩行者は信号のないレンガ色の横断歩道をコーヒーカップ片手に我がもの
顔に渡るので、歩行者が続くときは6番ストリートは渋滞しがち。止まった車に後続車が追突することが
あっても、のろのろ運転なので大事になることはないらしい。6番アベニューの図書館前とモールの間に
ある横断歩道には歩行者が渡ろうとしていることを知らせる「beg button(お願いボタン)」というのがあっ
て、ボタンを押すと黄色の信号が急速に点滅するようになっている。歩行者が車に「お願い」して止まって
もらうという趣旨なんだけど、みんなボタンをピッとやると同時に渡り始めるし、自動車の9割はきちんと
止まって、歩行者が渡り切るまで辛抱強く待っているから、どっちが「通らせて」とお願いしているのかわ
からない。

都市学の修士号を持つジョナサン・コーテ市長は36歳で、市会議員を3期務めた後に、おととしの市町
村選挙で現職市長を大差で破って初当選。フレーザー川上流のポートマン橋の有料化で古いパタロ橋
を利用する車やトラックが急増して市内の主要道路の混雑や騒音が問題になっていた折、その緩和を
選挙公約に掲げ、就任後は優先政策として進めている。市の交通計画の目標は2031年までに市内で
の移動手段の50%を徒歩と自転車、公共交通にすることだそうで、ダウンタウンのマンションに妻と3人
の子供と住む市長自身も徒歩通勤。駐車スペースは不要だから市役所に来る市民に利用してもらおうと、
市長専用駐車スポットに自転車ラックを設置してしまった。散歩がてら市役所裏を通ってみたら、自転車
6台分くらいのラックがコンクリートの地面にボルトでしっかり固定されていて、「市長専用/駐車禁止」の
標識に「自転車は除く」と付け加えてあった。(急な坂が多いせいか自転車はあまり見かけないけど。)

「スモールタウン」ニューウェストでは隣の隣で「世界一流」を誇るバンクーバーでは考えられない光景が
よく目にとまる。たとえば、ある土曜日の午後、サイレンも鳴らさずに来た消防車が5番アベニュー角の
銀行の前に止まり、降りて来た消防士?が銀行の中へすたすた。「銀行で金を出して来るんでちょっと借
りるよ」ということだったのか、しばらくして消防士が戻って来て、消防車は何事もなかったように走って行
った。暇なところなんだなあと思っていたら、今度は同じ銀行の前で車がエンスト。ドライバーと信号待ち
の歩行者と後続車のドライバーの3人がかりで銀行の裏の駐車場へ移動させた後、手伝ったドライバー
が後ろで立ち往生していたバスに「や、どうも」的に手を振って車を発進させ、バスの後ろで数珠つなぎに
なっていた車も何事もなかったように動き出した。その間、誰もクラクションを鳴らさずに辛抱強く待って
いたからびっくり。

くだんのCoffee Crossingのティムホートン側の角にはいつも人が集まっていて、消火栓をテーブル代
わりにコーヒーを飲みながら談笑しているんだけど、先週この角に忽然と「ミニ公園」が出現した。6番ス
トリートからの左折進入を禁止して、駐車スペースに木のテラスを作ってプランターやベンチを置き、車道
部分は低いバリアで囲って人工芝を敷き、おしゃれなテーブルや椅子を並べてある。公園課の職員がま
だプランターに花を植える作業をしている傍から椅子はもう満員。このミニミニ公園はコーテ市長が出張
先のアメリカから持ち帰ったアイデアに基づくパイロットプロジェクトのひとつなんだそうで、他にも市内の
あちこちの歩道にテーブルと椅子を置いて通りがかる市民に利用してもらう計画だとか。

6番ストリートをまっすぐ下がったところ、首都をビクトリアに取られなければ今頃は州議会議事堂が建っ
ているはずの一角にある市役所へ固定資産税の補助金申請と繰延べの申請をしに行ったときのこと。
正面玄関を入ってすぐのところ窓口業務のカウンターがあり、向き合う形で案内デスクがある。そこで受
付の女性にどの窓口に行ったらいいのか聞いたら、「どうぞお座りください」。待たされるのかと思ったら、
書類をチェックして、PCに向かって手続きを始めたのでびっくり。自宅所有者の補助金申請の「受付」ス
タンプを押したところで「ちょっと失礼」。デスクの下においてあった箱から犬のビスケットを出して、電気
料金を払いに来た人が連れていた2匹のワンちゃんに「はい、おやつ」。(飼い主と一緒に列に並ぶペット
のために用意してあるらしい。)何とものんきなところだなあと感心したけど、ニューウェストではスーパー
でも銀行でも街角でもどこでも、知っている人同士のみならず、明らかに知らない人同士の交流風景が
日常的に見られる。

郊外が波紋のように広がって行くメトロバンクーバーでドーナツの穴のような存在だったニューウェストは、
大都市圏の便利さを享受しながら、知らず知らずのうちに誰とでも「知り合い」になってしまえる田舎っぽ
さを色濃く残しているということで、今どきの日本語で言う「とかいなか」なんだろうと思う。不動産バブル
でバンクーバーから閉め出された子育て世代や郊外からダウンサイズするシニア世代がニューウェスト
に続々と移り住んで来て、10年後には人口が10万人を突破すると予測されているので、いつまでまっ
たりした「とかいなか」でいられるかはわからないけど、州最古の市、元首都としての由緒あるニューウェ
ストミンスターの雰囲気を守りながら都市再開発を図って行こうという若いコーテ市長の施策は、第1期
目の張り切りもあるとしても、成果を上げつつあるように見える。住んでいる人、住んだことのある人が口
をそろえて「好きだ」と言うニューウェストミンスター。「とかいなか」がこんなに住みやすいところだとは想
像もしなかったけど、もうすぐ市民歴1年の私たちも今ではすっかり「ニューウェスト大好き」。とかいなか
バンザイ!