マオ猫日記
「リヨン気まま倶楽部」編集日記
 




(写真)フランス外務省が国民むけに公表している「旅行者への勧告」ページ

 フランスのクシュネール(Bernard KOUCHNER)外相は、7月22日、海外でフランス人が事件・事故に巻き込まれ、政府が救出活動を行った場合、それに要した費用の全部又は一部を被害者に請求する法案を議会上院(元老院)に提出したそうです。

 「国の対外活動に関する法律案」(projet de loi relatif a l'action exterieure de l'Etat)と題するこの全14箇条からなる法案は、費用の請求だけを規定したものではなく、仏政府部内で検討してきた行政改革の計画に従って関連する規定を創設するもので、関係する条文は「第4章 国外における救助活動に際して国によって投入された経費の償還に関する措置」の第13条と第14条の2箇条になっています。まず、第13条では、「国は、特に職業的活動又は緊急事態に由来する正当な理由がある場合を除くほか、なされた注意喚起に照らして無視し得ないような危険に自らを意図的に曝した者のために行われた国外における救助活動の機会に国が投入した支出又は第三者に対して負担することとなる債務の全部又は一部の償還を、政令で定める額を限度として、請求することができる。」として、個人に対する費用請求を規定。続く第14条は、「国は、その契約者に対して義務を負っているにも関わらず給付の実現が妨げられた不可抗力事由があったとの抗弁が可能ではなく、かつ、国が立て替えざるを得なかった旅行又は帰国給付金を給付しなかった運輸事業者、保険会社、旅行代理店又はこれらの代表者に対して、求償を行うことができる。」として、業者を対象とした費用請求を規定しています。フランスにおいては、民選大統領の下にある行政府における行政立法が広く認められているため、法律の規定は概して簡素で、具体的な請求手続きについては、第13条、第14条とも「本条を適用する要件については、必要に応じて、国家評議院において政令により詳細に定める。」との委任規定を設けています。

 法案の提出理由について、仏政府の文書では、「国は、体育、余暇又は職業的活動の一環で、なされた注意喚起に照らして予見可能な危険に自らを曝したフランス出身者のために準備された救助の金銭的負担を、一層頻繁に支援するようになっています。自らの、そして時にはその同伴者の安全を危機に晒している当事者らは、彼らの身体及び精神の保全、彼らの家族への支援の確保、並びに危機管理のため必要な一連の体制を構築するために国によって投じられた経費の額を要求されることはありません。同様に、旅行業者、運輸業者及び保険業者は、時として彼らの顧客に対する契約上の義務を履行せず、不可抗力の構成要件を満たしてない場合であってすら、彼らの顧客の帰国を図るべく国に任せてしまうことがあります。国にとって非常に重い負担となる結果を生じかねません。」としており、不注意で危険な地域に旅行した自国民の救出に多大なコストがかかっていることを挙げています。

 この法案について報じた8月14日付の雑誌ル・パリジャン」(Le Parisien)は、「フランス人人質の数は、2004年に11人だったのが2008年には59人になった。」「仏外務省は、アドレナリンを求める旅行者を対象とした「戦争観光」という新しい現象を懸念している。5月23日にバロチスタンで発生した誘拐事件は犯行声明も出ておらず、対策本部も立ったままだ。この種の小旅行を企画する旅行業者も罰金が課されることとなる。中には事件発生後、顧客を放置したり、帰国を国に任せきりにしたりする業者もある。2008年末のフランス人500人のバンコクからの退避では、国に70万ユーロの費用がかかり、膨大な業務を生じた。」と、背景を解説。また、今年1月8日には、フランス公共テレビ・2チャンネルは今年1月8日、特報番組「Envoye Special」(「特派員」)の中で「イラク、戦線での観光」との番組(危険なクルド地域やその隣接地域を訪れる観光旅行に密着したもの。)を放送。同番組によれば、今年だけて他に6組の「イラク観光団体旅行」が予定されているそうです。ちなみに、日本の外務省は、イラクのほとんどの部分に退避勧告を、クルド地域に渡航延期勧告をそれぞれ出しています(海外安全ホームページ参照)。

 フランスといえば、個人主義、自己責任の国であると同時に、例えばソマリア沖で発生した一連の海賊事件では軍特殊部隊を出動させてまで被害者を救出する等、自国民保護のためには武力も行使するという姿勢が印象的ですが、そうした「親心」が禍してか、「親方三色旗」に依存する国民や業者も増えているようで、自己責任を徹底する方向に舵を切らざるを得なかったのでしょう



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