しゃこ、しゃこ。
じゃり、じゃり。
ずざざざ。
形容しがたい音で目が覚めました。時計を見ると朝の7時過ぎです。
これはもしかして積もったかな、と、
マフラー、ニット帽、ダウン、手袋と完全装備で玄関の戸を開けました。
通りには、数センチは積もったと思われる雪の名残が見られ、
3、40センチほどの高さの積み上げられた雪のかたまりが
道の端々にありました。
ご近所様と思われる数名の方々が雪かきをしておられました。
結構ご年配の方が多いように見受けられました。
手馴れている様子を見ると、もしかしてこちらでは
雪が降ることが多いのかもしれないな、と思いました。
「おはようございます。」
と、年配の男性の方に声をかけられて、手伝っていない自分に少し居心地の悪さを感じつつ、
「大分積もりましたね。」
と返事をしました。
裏手にある運動場ばりに広い畑は、案の定、白いカーペットが敷かれたようでした。
柵沿いに歩きながら、やわらかそうな雪のじゅうたんを見て、
ごろんと寝転がってみたいという思いにかられましたが、
中に入っているのを農家の方に見つかった時のことを想像して、
踏みとどまることができました。
少し残念でした。
そのまま歩いていきます。
通りはもちろん、家の玄関、三角の屋根、街路樹に至るまで、雪が積もっていました。
向こうの方で猫が寒そうに歩いていました。
畑を過ぎて、駐車場を過ぎて、近所の銭湯へ向かいました。
駐車場を通り過ぎたとき、雪がかなりまっさらな状態で残っているのに気付きました。
少し心が高鳴りました。
5分ほど歩き、銭湯の建物に到着しました。
ここの銭湯は、お湯の温度がとても熱くて、
10分ちょっとしかつかっていられなかったな、という記憶がよぎりましたが、
そんな銭湯の建物にも雪は積もっていました。
そんな銭湯の建物の様子に満足した後、
さっき通り過ぎた駐車場に戻ってきました。
登山家は、そこに山があるから登るということを何かで読んだ気がします。
そこに雪があるから、雪だるまを作るのは当然のように思われました。
およそ25年もの前の経験から、簡単に作れるものとたかをくくっていましたが、
雪は思いのほか砂のようにさらさらとしていて、全然固まってくれませんでした。
悪戦苦闘を数分間重ねていると、
「何してるの?」
という声が聞こえました。
見ると、すぐそばに小学生の低学年ぐらいの女の子が立っていました。
「雪だるまを作ろうとしてるんやけど。うまくいかへん。」
「・・・かんさいべん?」
「・・・よく知ってるね。」
正直に言って小さい子との会話は苦手です。何を話せばよいのか見当が付きません。
異文化コミュニケーションです。
とりあえず、郷に入らずんば郷に従え。標準語でチャレンジすることにしました。
「こっちは、結構雪が降るんだ?」
「ううん。今年に入って2回目かな。」
それは知っていましたが、その答えから、こちらでも雪は珍しいようだな、と考えました。
「わー、雪いっぱい積もってる。嬉しいな~。」
女の子は楽しげにじゃりじゃり雪を踏んづけてます。
こちらは一生懸命に雪を固めようとしながら、
「そうだね。嬉しいね。学校の運動場はもっとすごいんじゃないかな?」
と返事をしました。なんとか5センチぐらいの雪のかたまりができてきました。
「明日も降らないかな~。」
「そうだね。明日も降ったらそれこそすごいだろうね。
あ、そこの車に、つららっぽいのができてるよ。」
異文化コミュニケーションは続きます。
それにしても学校に行かなくても大丈夫なのでしょうか。
「え~、どれ?えい。」
と、つららっぽい雪がはたき落とされました。
こいつ・・・と思いながら、手のひらにある雪のかたまりはさらに大きくなり、
土台(?)みたいな形ができあがってきました。
そこに、小学生の低学年ぐらいの男の子がやってきました。
女の子は、男の子に話しかけました。どうやら知り合いみたいです。
「すごい雪積もってるね~。楽しいね~。」
「・・・雪が積もって楽しい?」
意外と冷めた答えが返ってきました。
かたや30過ぎの男が雪だるまを作っている状況に、考えさせるものがありました。
女の子は男の子としばらく話をした後、一緒に歩き去っていきました。
しばらくして、駐車場のワンスペースに、
2段重ねの高ささ20センチぐらいの小さな雪だるまができました。