象が転んだ

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”悪魔の兵器”はこうして誕生した”その2”~ヴァニーヴァー・ブッシュに見る、巨額で巨悪な原爆プロジェクト

2018年09月07日 03時39分22秒 | 戦争・歴史ドキュメント

 前回”その1”では、原爆の父オッペンハイマーに焦点を当てましたが、彼が発案した原爆開発はどの様にして大きく膨らんだのか?
 この原爆開発を大規模なプロジェクトにしたのが、オッペンハイマーと並ぶ2人目の主役であるヴァニーヴァー・ブッシュ(写真)でした。彼はルーズベルト大統領の側近の科学顧問で、大統領の絶大な信頼を得ていたのです。


ブッシュの野望

 ”原爆の開発計画が、大統領や軍の最高幹部らが主導して決定したと思っているだろうが、それは誤りだ。大統領も軍も、科学や物理学の多くを理解していなかったのさ”と、ブッシュは振り返る。
 日本列島を丸焦げにした新型焼夷弾も科学の力によるものでした。こうした次世代の兵器は、ブッシュがルーズベルトに直談判し、実現させた科学研究開発局が担った。これらは兵器開発を大学などの民間科学が支える、全く新たな組織でした。
 第二次世界大戦で、初めて科学が戦争に介入したと言われる所以ですね。

 ”原爆を作るのが目的ではない。戦争に科学を活用しただけだ。誘導ミサイルもロケットも。こうなるのは必然さ。文明が学ぶ事の一つで、科学がもたらした恵みなんだ”
 この時点でブッシュは間違ってますね。文明が学ぶではなく、人が学ぶ。科学者も学ぶ事を忘れたら、しっぺ返しを喰らう典型なのだろうか。 
 彼は42歳の若さでMITの副学長となった超エリート科学者で、後に”科学界のドン”と呼ばれますが。超越した知力は心を失うと、狂気という凶器に変わる。つまり知能とは、道徳や倫理を含めた、知力の幅と奥行きとバランスが大切なのだろう。
 アメリカには、こういった傲慢主義的なエリートが多する様に思えるのだが。


”科学界のドン”の大きな賭け

 でも、そんな超エリートのブッシュが何故、兵器開発に血眼になったのか?
 ブッシュは手紙でこう嘆いてる。”科学は病気をなくし生活水準を向上させてるのに、科学への資金は大幅にカットされ、完全にうち捨てられた”
 事実、1930年代にアメリカを覆った世界大恐慌では、機械化が人の仕事を奪ったと、科学者は目の敵にされた。お陰で、科学者の多くは仕事に就けなかった。

 ”この戦争は科学が左右する。どんな手を使ってでも、強力な爆弾を造りあげ、他人の頭上に落とすのも悪い事ではない”と、ブッシュは強い決意で戦争にのぞんだ。この戦争に貢献し勝利し、科学者の地位を上げると。
 科学が人の命を救い、そして人の命を奪う。歴史から学べない科学バカは、こういう致命的な大失態を繰り返すものだ。  

 このブッシュが手掛けた兵器開発の中で最大のプロジェクトが、成功率僅か10%の原爆開発という大きな賭けだった。
 ”一つだけ確かなのは、原爆の爆発力は既存の爆弾の何千倍も大きく、戦争の勝利を決定的にするでしょう”と、彼はルーズベルトに進言する。
 ブッシュが本格的に原爆開発に乗り出した直後、日本軍による真珠湾攻撃でアメリカは第二次世界大戦に参戦する。
 極秘事項として承認された原爆開発の予算は、20倍規模に膨れ、最終的には20億ドル(現在の約3兆円)に。
 彼の計画を認めたルーズベルトは、一つの要求を出した。”戦争中に開発を間に合わせろ”と。ウィキでは、ルーズベルトは原爆開発に関与しなかったとあるが、しっかりと着手してますね。
 つまり、オッペンハイマーが発案し、ブッシュが推し進めた、巨額で巨悪の原爆計画だった。


極秘で進められた”マンハッタン計画”

 この極秘の原爆開発は1942年6月、”マンハッタン計画”と呼ばれ、全米で28か所もの研究施設が建設された。ブッシュは大統領のもと5人の最高政策グループの中心メンバーとして、全体をとりしきった。  

 前回”その1”で登場したシラードはシカゴ大学で原爆の原料プルトニウムの研究を、オッペンハイマーはロスアラモス研究所を指揮した。
 しかし、国家機密として極秘に巨額の開発費がつぎこまれてた原爆開発に疑問の目が向き始める。
 1943年、多額の使途不明金が陸軍の予算に計上されたのを追求する調査が動きだす。
 ”軍事支出の無駄を追求”する活動で名を馳せてたハリー・トルーマン上院議員は不正支出を疑った。この頃はまだ、トルーマンもまともだったんです。 

 ”もし戦争が終わるまでに原爆を開発できなければ、我々は窮地に陥るかもしれません”とブッシュ。
 ”戦争が終わってしまえば、原爆の開発も我々の手でできなくなるだろう”とルーズベルト。
 この様に、極秘で進んだこの原爆開発(マンハッタン計画)は、後戻りのできないものになっていく。


原爆開発への疑問と疑惑

 1944年、諜報部隊から”ドイツはまだ本格的な原爆開発に乗り出していない”との情報が入る。
 アメリカが開発を始めた最大の理由だった筈のナチスドイツの原爆製造の実態が次第に明らかになった。
 ドイツは戦線拡大により戦費が膨れ上がり、費用のかかる原爆開発を早くに断念してたのだ。

 つまり、アメリカは脅威がないとわかるまで幽霊を追いかけていたのです(作家リチャード・ローズ)。
 ドイツの原爆開発断念は1942年6月。それはまさに、アメリカがマンハッタン計画を立ち上げたタイミングだった。
 しかしその後も、アメリカ軍の原爆開発は止まらない。
 1944年冬、科学者たちの中で開発に対する疑問が沸き上がる。原爆の開発を急ぐ理由は薄れ、ドイツは原爆の開発を断念し、しかも降伏は時間の問題となっていた。

 グループリーダーのロバード・ウィルソンは、開発を続けるかやめるかを、科学者同士で話し合う場をもうけ、原爆開発は明らかに倫理に反してると唱えた。
 しかし、集会に反対したオッペンハイマーは壇上で言い放つ。
 世界が恐ろしい爆弾を目の当たりにすれば、戦争という選択肢を捨てるに違いない。そうすれば平和の秩序が守られるはず。
 原爆の存在を世界に示す為にも、戦争が終わるまでに完成させるべきだ”
 オッペンハイマーが語ったのは、これまでの目的とは全く違うものでした。
 つまり、彼の目標は原爆をいち早く完成させ、それを”使う”事。その事を誰にも邪魔されたくなかったのです。(ウェラースタイン准教授)


オッペンハイマーの不透明で不可解な説得

 科学者たちが疑問を抱き、集会を開く度にオッペンハイマーは、新たな開発理由を訴え、説得を続けた。
  結局、彼らはみな研究開発に戻っていった。このプロジェクトを抜ける科学者は一人もいなかった。恐ろしい未来がわかっていながら、現状に甘んじて何も変えようとしなかった。
 科学者達は長い期間、自問自答し、その状況を受け入れた。しかし何とも奇妙な感覚だ。それは人間の殆どの活動で同じなのでしょうが。(ロイ・グラウバー氏)

 オッペンハイマーは、なぜ”世界平和の為”という新しい開発理由を語り始めたのか?
 ノーベル賞物理学者のニールス・ボーアはロスアラモスを訪れ、オッペンハイマーに尋ねた。
 ”それは十分に大きいかね”
 ボーアは、原爆の破壊力が大きければ人々は戦争を放棄すると考えていた。
 ボーアの新しい考えをオッペンハイマーは興味深く聞いていた。ボーアの話は、オッペンハイマーが原爆開発の意義を見直す助けとなったが、彼はただ人を殺害するだけでなく、何らかの目的を求めていた。(作家リチャード・ローズ)


燻り続ける原爆開発への疑念

 この頃、原爆開発に疑念を抱いたのはロスアラモスの科学者だけでく、前述のレオ・シラードも大きく揺れていた。
 1945年春には、ドイツとの戦争は終わるのは明らかだった。原爆開発を続ける目的は何なのか?原子爆弾が完成した時、日本との戦争が続いてたら、爆弾はどのように使われるのか?

 ジラードはこの懸念を大統領に伝えようとしたが、面会を約束した1945年4月、ルーズベルトは急死。
 この事は、後の原爆開発計画に大きく影響を与えていく。
 続いて、”その3”(要Click)に行きます。



8 コメント

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学ぶ事を忘れたカナリア (ootubohitman)
2018-09-08 13:27:00
こんにちわ。

転んださんも、学ぶ事が好きですね。
このブログだけでも、4回は登場してます。

原爆開発に携わった当時の科学者たちが、学ぶという本当の意味を解ってたら、60万の義性は防げたかもしれません。転んださんが、学ぶという事に口酸っぱく拘るのも、理解できそうです。

オッペンハイマーもブッシュも、エリートになった時点で、学ぶ事を忘れたんですかね。

その3とその4も、楽しみにしてます。
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たとえ学んでも直ぐ忘れるカナリア (Viva)
2018-09-08 23:42:49
本当によく学ぶ人だと思います。

ジャンルも幅広く・・いつも凄いな~と思います。

ついでに夜も凄いかな~と思います


私の得意なもの、教えます
ダイアモンドゲームです

あとは空想です。


なので、空想で、
レモンウォーターさんと
深夜のドライブに行きました。

そこで幽霊に遭遇しました。

私は驚いてレモンさんに抱きつきました。
でもレモンさんは、
私を振り払う為に
バックドロップで私を投げ飛ばし、
一目散に一人で逃げました。


痛い空想でした


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Re:学ぶ事を忘れたカナリア (lemonwater2017)
2018-09-09 01:03:27
こんばんわ。

 学ぶ事が好きというより、学ぶコツを知ったという感じですかね。何もしなくても、勝手に脳みその中に入ってくると。
 若い時にこうだったら、もっと充実した人生が送れたのにです。

 学ぶ事を忘れたカナリアとは、言い得て妙です。多分、神様はオッペンハイマーやブッシュに学ぶことを教えなかったんですかね。天才が天災を引き起こした最悪のケースですかね。エリートと殺人鬼は紙一重なんですかね。
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Re:たとえ学んでも直ぐ忘れるカナリア (lemonwater2017)
2018-09-09 01:30:33
Vivaサン、こんばんわです。

 バックドロップをご存知とは、プロレスフリークですかな。Vivaサンよくご存じで、実は私バックドロップの名手だったんです、よく自爆しましたけど(笑)。

 深夜のドライブなんて、時代を感じさせますね。でも、幽霊と遭遇して、そのままヤッテしまうかもです。

 それに、何時も感心するんですが。オリジナルの絵文字が凄いです。どうやって作ってんのかね。
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Unknown (桂蓮)
2018-09-09 07:55:38
フェーインマンの本から核兵器を作った経緯は知ってはいましたが、
日本の視点からみると
悪魔の兵器になりますよね。
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Re:悪魔の兵器でもあり万能兵器 (lemonwater2017)
2018-09-09 10:44:50
桂蓮サン、おはようございます。いや、こんばんわですね。

 ”悪魔の兵器”というより、最終兵器ですか。今では、ビジネスにも外交手段にも、脅しにもなる万能兵器かもですが。
 
 でも、NHKにしてみれば、よく考えた言葉ですかと。米空軍による無差別爆撃も、陸軍による原爆も、日本から見れば、”悪魔の攻撃”には変わりないんですが。

 そういう私も、原爆については、アインシュタインくらいしか思い付かなかった程です。全く無知とは恥ずかしいもんで。

 ”その4”でも述べますが(予定)、ヴァニーヴァー・ブッシュの死ぬ間際の言葉が、全てを物語ってますね。
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Unknown (Viva)
2018-09-09 22:16:50
絵文字ですが、

コメント欄の枠と、数字4桁を入力する枠の
間に絵文字表示ってありませんか?


そこに沢山あります。

私はブログをして2年目に気付きました。
教えてもらいました(^-^;



バックドロップですが、

父はプロレスが好きで、

祖母もプロレスが好きでした。

父は祖母の為に
よくプロレスの本を届けていました。(*_*;


私はプロレス興味無いです(^-^;



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悪魔の必殺技バックドロップ (lemonwater2017)
2018-09-10 04:59:45
Vivaサン、おはようございます。

 絵文字の件、そォォ〜うだったんですね。分かりました。
 バックドロップの件、ヤッパリですね。モロ影響受けてますね。立派なプロレスフリークです。

 プロレスについても結構詳しいんで、ブログ建てようかなと。
 こんな感じでスンマセン。
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