二人の会話はいつの間にか、ビーエスエイトの話に変わっていた。
「ヒカルって、ほんとベースって感じだよな。」
「どうして。」
「て、言うか、初めてのセッションの時、へたくそだなあって思ってたよ。」
「ひどいなあ。」
「はは、すごくうまくなったよね。」
「なんだよー。」
「俺も、人と演奏したことなくて。」
「ほんとに。」
「ウン。ハルとマーが初めてだった。」
「でも、軽音では・・・。」
「なんだろ、音が妙に色っぽくて、セクスみたいな感じだって、思った。ほら、仁と、仁さんと再会した時の下北のセッション。」
「うん。おぼえてるよ。」
「あの時から、言葉とは違う部分で、皆と一緒になれたって、思ったんだ。」
「うん。」
「ヒカル、名古屋に行っても、ベースは弾いてくれよな。」
「もちろん・・・・・・」
グ、グワシャーン
この会話の数分前、マサルの運転する宣伝カーの二キロ後ろで、ダークグリーンのジャガーが右に、左に、先行する車をかわしながら、もの凄いスピードで名古屋方面に疾走していた。
革ジャンに革パンツ、ドライビング手袋をはめ、助手席の髪を金色に染めた派手な化粧の女の肩に手をかけ、煙草をくわえながら、ジャガーのアクセルを踏む男。チンピラではなかった。
「流魂」の常連だった。
名古屋支部への武闘派の派遣に疑問を持つ常任に命令された常連の一人が、その女を連れて、名古屋に向かっていた。その格好は、通常の常連としての権威も、尊厳も逸脱していた。
表向きの顔ではない彼の本来の姿だったのか。
ジャガーが宣伝カーの後ろに来た。その横にトレーラーがいた。何を思ったのか、ジャガーは宣伝カーとトレーラーの間をすりぬけようとした。金髪の女の頭は、常連の股の間に沈んでいた。若干の「命の水」も服用していたのかもしれない。狂気が彼を捕らえていた。女の頭が上下に揺れた。その動きが激しくなった。ジャガーのノーズが宣伝カーとトレーラーの間にかかったとき、はじけた。
一瞬、目を閉じた。
ハンドルがぶれた。
ジャガーのノーズは宣伝カーの横っ腹を引っかくようにえぐった。その反動で、ジャガーはトレーラーのほうに大きく揺れ、大きな車輪と車輪の間に吸い込まれた。コンテナの一番後ろの大きな車輪がジャガーをペシャンコにした。せんべいのようになった車体はトレーラーの後ろをゴロゴロ転がった。
宣伝カーはえぐられた反動でスピンし、マサルの逆ハンに必死で耐えたが、やはり、耐え切れず、ゴロンゴロンと横転した。運転席側を下にして横滑りし、ガードレールに引っ掛かるようにして止まった。
トレーラーの運転手は、バックミラーでその様子を見ていた。一度、スピードを緩めた。が、次の瞬間、アクセルを踏み込み、その場から逃げた。
マサルとヒカルの記憶はそこで途切れた。
「ヒカルって、ほんとベースって感じだよな。」
「どうして。」
「て、言うか、初めてのセッションの時、へたくそだなあって思ってたよ。」
「ひどいなあ。」
「はは、すごくうまくなったよね。」
「なんだよー。」
「俺も、人と演奏したことなくて。」
「ほんとに。」
「ウン。ハルとマーが初めてだった。」
「でも、軽音では・・・。」
「なんだろ、音が妙に色っぽくて、セクスみたいな感じだって、思った。ほら、仁と、仁さんと再会した時の下北のセッション。」
「うん。おぼえてるよ。」
「あの時から、言葉とは違う部分で、皆と一緒になれたって、思ったんだ。」
「うん。」
「ヒカル、名古屋に行っても、ベースは弾いてくれよな。」
「もちろん・・・・・・」
グ、グワシャーン
この会話の数分前、マサルの運転する宣伝カーの二キロ後ろで、ダークグリーンのジャガーが右に、左に、先行する車をかわしながら、もの凄いスピードで名古屋方面に疾走していた。
革ジャンに革パンツ、ドライビング手袋をはめ、助手席の髪を金色に染めた派手な化粧の女の肩に手をかけ、煙草をくわえながら、ジャガーのアクセルを踏む男。チンピラではなかった。
「流魂」の常連だった。
名古屋支部への武闘派の派遣に疑問を持つ常任に命令された常連の一人が、その女を連れて、名古屋に向かっていた。その格好は、通常の常連としての権威も、尊厳も逸脱していた。
表向きの顔ではない彼の本来の姿だったのか。
ジャガーが宣伝カーの後ろに来た。その横にトレーラーがいた。何を思ったのか、ジャガーは宣伝カーとトレーラーの間をすりぬけようとした。金髪の女の頭は、常連の股の間に沈んでいた。若干の「命の水」も服用していたのかもしれない。狂気が彼を捕らえていた。女の頭が上下に揺れた。その動きが激しくなった。ジャガーのノーズが宣伝カーとトレーラーの間にかかったとき、はじけた。
一瞬、目を閉じた。
ハンドルがぶれた。
ジャガーのノーズは宣伝カーの横っ腹を引っかくようにえぐった。その反動で、ジャガーはトレーラーのほうに大きく揺れ、大きな車輪と車輪の間に吸い込まれた。コンテナの一番後ろの大きな車輪がジャガーをペシャンコにした。せんべいのようになった車体はトレーラーの後ろをゴロゴロ転がった。
宣伝カーはえぐられた反動でスピンし、マサルの逆ハンに必死で耐えたが、やはり、耐え切れず、ゴロンゴロンと横転した。運転席側を下にして横滑りし、ガードレールに引っ掛かるようにして止まった。
トレーラーの運転手は、バックミラーでその様子を見ていた。一度、スピードを緩めた。が、次の瞬間、アクセルを踏み込み、その場から逃げた。
マサルとヒカルの記憶はそこで途切れた。