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仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

鍵を返せば済むことさⅡ

2008年08月27日 15時47分17秒 | Weblog
ヒデオは「ベース」の管理をしなくなっていた。ヒロムの組織したチームがシフトを決め、ヒデオの負担を軽くした。ヒデオは人前にたって話をするタイプではなかった。だから、負担が軽くなった分、「ベース」に顔を出す回数も減った。以前は毎日、鍵を開け、鍵を閉めていたのだが。ヒデオの疑問、第一回「神聖な儀式」からヒデオは「ベース」について考えていた。「何のために、何を目的として」、その答えが出なかった。まず自分が何故、「ベース」に行くようになったのか。今はヒカルを助手席に乗せて、現場を仕切っているが「ベース」に迷い込んだときは自分が何なのか、何故ここにいるのかも解らない状態だった。生きることがすべて耐えることと同じように思えていた。そのころ、周りの人間はヒデオの前から姿を消し、たった一人取り残されてしまったような気がしていた。言葉にはできなかったが、人に対して不信感を持ち孤独に打ち勝つためにのみ一生懸命働いた。
 ヒデオは「救い」が欲しかった。初期の「ベース」の雰囲気はそこいるだけで個としての存在を忘れさせてくれた。自分は誰でもないけれど、そこにいる。同じように誰でもない人間がそこに集う。個としての存在の意味がなくなることで全体に調和する感覚に入ることができた。名前も何もなく、ただ、そこにいる事実だけが自分を認識させてくれた。肌の温もりは存在自体を教えてくれた。セクスはその空間と同じように共有感を増幅させた。誰でもない自分でいながら、存在を認めることができた。「仁」、その存在はそこに集う者たちを勇気付けた。彼等の危機を救い、呼吸によって統一される精神の「ベース」へ導いた。仁の存在がヒデオをさらに「ベース」へ引き付けた。