小林美希著『ルポ 職場流産 ―雇用崩壊後の妊娠・出産・育児』書評

2013-03-12 13:57:57 | 京都POSSEの活動報告です!

 今回は、働き方の劣化が日本社会に及ぼす影響という点に焦点を当て、フリージャーナリスト小林美希著『ルポ 職場流産 ―雇用崩壊後の妊娠・出産・育児』を取り上げたいと思います。

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 「職場流産」とは、流産した場所を指すものではなく、職場環境の劣悪さが原因と思われる流産を意味します。こうした「職場流産」の実態について、特に看護職※や保育士、教員などの妊娠異常の問題は、長年にわたって日本医療労働連合組合連合会や、女性労働協会等の調査でも指摘されています。

※看護職の過労や妊娠異常の問題については、同じ小林美希著『看護崩壊』で詳しく取り上げられています。またこちらのPOSSEメンバーの書評もご覧ください。「小林美希『看護崩壊』書評」-POSSEブログ

 本書ではそういった「職場流産」や、妊娠したことを理由として解雇される「妊娠解雇」について、その当事者の悲惨な経験や心情が描かれています。

 ある派遣会社で働く女性は、上司に妊娠の報告をした直後、大きなプロジェクトのリーダーに抜擢されました。悪阻がひどく、業務をやりとげられるか不安だということを相談しても理解してもらえず、また職場の人たちが深夜まで残業しているなか自分だけ帰るわけにもいかず、女性は過酷な業務をこなし続けました。そうした日々が2週間続いたある朝、目覚めると大量の出血。あわてて病院に行くと、医師から流産だと告げられました。

 女性は、その2日後には出社し、上司に流産の報告をしましたが、その際言い放たれたのは「だったら、仕事できるわよね」という言葉でした。

 その女性が再び妊娠に前向きになれたのは、流産から3年後で、また子どもを授かることができました。しかし、なかなか職場で妊娠を告げられず、皆が終電帰りという職場環境でお腹の赤ちゃんのために早く帰宅することもできません。通勤の際は、悪阻のせいで満員電車に乗ると吐きそうになる日々が続きましたが、「遅刻は許されない」と、なんとか出勤しました。

 法的には妊婦の通勤時間は考慮されるはず※ですが「権利を主張すれば職場で疎まれてしまう」と、妊娠していることも、時差出勤を願い出ることもできない状態が続きました。女性は予定日から1週間以上遅れて、無事に女児を出産しました。

※本来、労働基準法によって非正社員でも正社員でも等しく産前産後休業は取得できます。また妊娠などを理由にした解雇や不利益な扱いは男女雇用機会均等法によって禁じられています。しかし実際には、罰則規定がないことで妊娠解雇などが横行し、労働者が泣き寝入りしてしまうケースが後を絶ちません。
さらに、労働基準法と男女雇用機会均等法によって妊産婦の夜勤免除や業務の軽減は本人が申請すれば適用されます。夜勤免除など妊産婦の深夜業については、罰則規定があり、違反をすれば、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます(労働基準法第119条1号)。

 一見、この女性の働いている職場の上司が冷酷で、同僚の理解がないことが問題かのように思われます。しかし本書ではこのような事例がたくさん上げられており、決して彼女の職場のみの問題ではないことがわかります。どうして体を酷使して流産してしまうまで彼女たちは働き続けるのでしょうか。そこには、自分の築き上げてきたキャリアを守りたい、好きな仕事を続けたい、また、子どもの将来のための生活費を稼ぐためにも働き続けなければならないという思いがあります。そして働き続けるためには、派遣社員であれば妊娠すると「不良品」扱いされ雇用契約が打ち切られてしまう、一方で正社員でも残業ができない、ハードワークができないという理由で解雇されてしまうことを避けるため、「権利」も主張できず過剰に働き続けることを選びます。

 こうした働く女性・夫婦の子育てという観点から見ても、普段から過剰労働が当たり前の環境や労働者の権利主張が困難な雇用の在り方の問題性を感じざるをえません。


 著者は本書で、雇用の問題によって「いのち」が奪われていいはずがない、と訴えます。

 流産した女性が「だったら、仕事できるわよね」と言われる一場面は、働く人が人として扱われていない。さらにそういった余裕のない環境の広がりが、生まれ来るいのちさえ尊ぶことができない社会を導いているように思われます。本書を通じ、改めて劣悪化する雇用の問題に向き合う必要性を感じさせられました。


●本の概要
書名:『ルポ 職場流産 ―雇用崩壊後の妊娠・出産・育児』
著者:小林美希
出版社:岩波書店
出版年:2011/08/25

●目次
第1章 生きるすべを失う―妊娠解雇
第2章 雇用崩壊が生む悲劇―職場流産
第3章 子どもか、仕事か―迫られる選択
第4章 悲劇の舞台裏―職場流産の背景と周産期医療の現実
第5章 いのちを預かる重み―保育所が抱える問題
第6章 「支える人」を支える
第7章 ワーク・ライフ・バランスを実現する職場
終章 働き方、社会のあり方を問う

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