お客様の少ない限界ブログとはいえ、4週目ともなれば、多少のネタバレを書いても許されるだろうか。「全てのネタバレを生まれる前に消し去りたい」と願う人は、このエントリを読まないことをすすめる。もちろん、これを読んだ程度のことで、本作の魅力は少しも減じることはない。某まとめニュース管理人さんのように、作品の面白さを0.0001%くらい上乗せすることができたら嬉しい。
地元の洋食屋さんで、ナイフとフォークを使って夕食をとっていたら、本作のエイミーのことを思い出した。彼女もテーブルマナーは最初知らなかった。「うん、フォークは右手に持ち替えた方が便利だよな」とエイミーに共感しながら、作法どおりライスをフォークに乗せる。私もテーブルマナーはいい加減で、そのときの気分や状況で、フランス式だったりイギリス式だったり、一貫性がない。
エイミーは料理を作ることができ、お裁縫でぬいぐるみも作れる。貧しかったかもしれないが、母親に愛情を持って育てられていたのがよくわかる。他人に優しくされた記憶のない人は、他人にも優しく接することができない。
回想シーンのエイミーは、短髪で男の子のような出で立ちである。エイミーとテイラーは、髪の色が似ている。だから初見は、テイラーがエイミーの子ども時代、エイミー本人がその兄のように見えた。
髪は月に約1センチ伸びる。ヴァイオレットと出会った頃は、「父親」が迎えに来た回想シーンの冬の季節から、最低でも15ヵ月は経っている。前半パートは、戦争が終わって1年後だというから、そんなものだろう。学園に入学するにも、「淑女」らしい髪の長さになるまで時間が必要だったのではないかと思われる。しかし、エイミーはなぜ、あんなに髪を短くしていたのか。映画を観ている間は気づかなかったその理由に思い当たり、ナイフとフォークを動かす手が思わず止まった。
欧米の学校は9月始まりが多いが、この北の国（ドロッセル王国？というのだろうか）の学園は、4月始まりのようだ。ヴァイオレットが「侍女」として学園に滞在する3ヵ月は、草木が萌え、花が咲く、春から初夏にかけてである。三週目特典の『イザベラ・ヨークと花の雨』も、学園の薔薇が一斉に咲き、麓の村で「花祭り」が行われる季節として描かれている。
本編開始の4年前（外伝前半パートからは5年前）に勃発し、北東連合と南西連合が争った「大陸戦争」は、南西側の勝利に終わった。エイミーとテイラーは「北」の「敗戦国」の戦争孤児である。
二人が街をゆく軍隊の行進に行き合わせるシーンがあるが、まだ戦争が終わった直後なのだと思われる。エイミーの母親が亡くなったのも、そして、エイミーが髪を短く切ったのも、そう遠い過去ではない。「父親」が迎えにきたのも、母親が自分にもしものことがあった時、連絡がいくように手配をしていたのではないかと考えられる。
エイミーはなぜ男の子のような姿をしていたのか。敗戦直後、サハリンの日本人女性が、ソ連軍の兵士に強姦されないように、髪を短く切り、作業服姿で男のふりをして日中を過ごし、夜は押し入れか屋根裏に隠れて就寝したというエピソードを私は思い出した。敗戦を知り、エイミーの髪を切って娘を守ろうとした人がいたとしたら、唯一の肉親である母親だったはずである。戦争で真っ先に犠牲になるのは、常に子どもであり女性である。そのことを思い、私は胸を締め付けられ、食事を進める手が休んだ。
髪を切った時点で、母親はすでに亡くなっていた可能性もある。すると、エイミーがヴァイオレットの髪をとかしながら、「ビロードみたい。高く売れそう」と呟くシーンも、別の意味を持ってくる。身寄りもなく、何も売るもののないエイミーが、長い髪を切って売ったが、あまり高く売れなかった過去があった可能性である。見た目は王女様のような完璧無欠なヴァイオレットに対する、「きみはずるいよ」というエイミーのことばが、より一層悲しく迫る。「疲れてしまいましたね」と、優しく受け流すヴァイオレットは、同じ孤児で、初めてできた友達であるエイミーの悲しみを、誰よりも深く理解できただろう。
髪を短く切ったのも、女の子であることを隠すためか、あるいは生活のために売り飛ばしたのか、その両方か、いずれにせよ、戦争がもたらした悲劇であることには変わりない。この繊細で精密な作りの映画には、何度観ても発見がある。次はどんな発見があるだろう。第5週めも、また出かけるつもりだ。
すると、ヴァイオレットが来るまで7、8ヶ月、エイミーはひとりぼっちで過ごしたわけで、それはそれで辛かったろうな。
下の「学園は秋始まり」は、たぶんない。ラストに聞こえるのカエルの歌。北国の遅い春。