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表記のゆらぎについて

2023年12月26日 | 仕事/ビジネス
本業のライターは年数回のレギュラーを除けば開店休業状態で、今は校正・校閲の仕事がメインです。

私としては、「文章も書ける編集者」というスタンスでやってきました。アナログ時代の話になりますが、イラストや写真、図版・図表、写植・製版・印刷、アッセンブリやセット作業、納品のトラック便まで手配できるライターって、希少価値だったのです。
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DTPの時代になり、写植・製版は過去のものになりましたが、内職や物流などのアナログのノウハウは私のアドバンテージであり続けました。しかし、ネットの時代に移行して、過去の人間になってしまったということです。

校正の仕事がメインになって、たえず課題になっているのは「表記のゆらぎ」の問題です。

たとえば、「良い」と「よい(いい)」。

みなさんはどんな風に使い分けていますか?

あるクライアントの広報室室長さんいわく、「良い」と漢字にするか、「よい(いい)」と仮名にするかは、同じ言葉で「悪い」というか、いわないかだというのです。対義語として「悪い」といえるのなら漢字にするけれど、そういえなければ仮名にするのだ、と。

これは考えてもみなかった斬新な基準でした。

順不同に並べますが、「思い出」「声」「育ち」「学校」「会社」「医者」「先生」「選手」などは、「良い」を漢字にできるパターンですね。

これらの単語には、「悪い~」という言い方も可能だからです。

しかし、「いい皮の面」「(酒の)肴」「(酒の)アテ」(関西弁で酒の肴のこと)には、この法則は当てはまりませんね。「いい皮の面」の「いい」は、そもそも反語表現で、「悪い皮の面」という表現はありません。

文章語としては、「悪いタイミング」「悪い経験」なども使われるでしょうが、話し言葉としては、あまり使われることのないのではないでしょうか。話し言葉としても、不自然な表現に感じます。こちらも、「よい(いい)タイミング」「よい(いい)経験」と仮名表記になると思います。

この広報室長にお薦めいただいた、時事通信社の『最新用字用語ブック』を愛用しているわけですが、しかし、そのルールを厳密に適用しすぎると、またおかしなことになってしまうのですよ。

「いただく」という言葉も、「のせる、もらう」の謙譲語の場合は漢字の「頂」。

「~してもらう」の補助動詞、「食べる」「飲む」の謙譲語の場合は仮名の「いただく」というルールがあります。

しかし、このルールを厳密に適用すると、.

「このたび◯◯賞を頂けたのも、◯◯部長のご指導の下に研究に打ち込ませていただいたおかげと、心より感謝させていただきますとともに、受賞祝いに頂いたワインもおいしくいただいたことを報告させていただきます」

と、同じ文章のなかに「頂く」と「いただく」が混在する、鬱陶しいことになるんですよね。そもそも、この文章は「いただく」を使いすぎなのですが、タテ社会に生きるアカデミズムや大企業の世界には、いろいろ複雑な事情もおありのようです。

表記ゆれで厄介なのは、「新選組」と「新撰組」が有名です。リアルタイムの新選組/新撰組の隊士自身が、どちらも使っていますから、表記の統一は困難です。

私が若かった頃は、表記のゆらぎを、ここまで厳しくいわれることはありませんでした。

やはり、ネットの時代になり、SEO対策(サーチエンジン最適化対策)がいわれるようになってからではないでしょうか。

Webサイトも複数の人がチームで制作しますから、当然、表記のゆらぎは生じますよね。

机/デスク、見積/見積もり、Google/グーグル、WEB/Web/ウェブ、午後9時/午後九時/21時、~だ/です、下さい/ください、サーバー/サーバ……などなど。

こうした表記のゆれを統一していくのは、SEO対策の観点から、企業広告・広報の立場からは欠かせない仕事かもしれません。文脈を理解できないAIのために、人間さまがこき使われている現状には、釈然としないものもありますね。



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