毎田周一師の言葉をお届けします。(『毎田周一全集・第十一巻』より)
一瞬の閃き
人間の転回といふものは、ほんの微かな、一寸した、微妙な、一瞬の閃きである。
決して巨大な行を重ねていった結果といふようなものではない。その一瞬の閃きとはどういうことであるか。 例へば、「あゝ、私は駄目だな」といふやうなことである。
一瞬、私が駄目になる、この経験を持ち得たか否かが、転回の有無である。この転回によって、私達は頭が下がる有難さを味ひ、謙虚の意味を知るようになる。この時から自己中心の窮屈な世界の秩序が破壊されて、世界が世界そのものとして動いてゆく、大らかな、悠々たる境涯が転回してくる。
そして焦りもしなければ、急ぎもしない、物を物自身の自然に委せておくことが出来る心のゆとりと、胸の広さが次第にわがものとなつてゆく。 道元禅師は、布施について「自を自にほどこし、他を他にほどこすなり」といはれたが、それはひとたび、自己の抹消された人の境涯であろう。
独立人 昭和29年5月号
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