今年もやってきた夏の「土用の丑」。土用の丑といえば、うなぎです。昨年は、うなぎの稚魚が豊漁だったため、今年は「うなぎが安くなる」ともいわれていましたが、実際はどうなのでしょうか。また、昨年から続くコロナ禍がうなぎの値段や流通に及ぼす影響は? 今年のうなぎの特徴やおすすめの選び方について、東京海洋大学非常勤講師のながさき一生さんが解説します。
● うなぎの稚魚は豊漁でも 価格が平年並みだった理由とは?
日本国内に流通しているうなぎは、大方が養殖によるものです。冬から春にかけて天然の稚魚を漁獲し、池で育てて生産されています。池入れから育ち上がるまでには1年~2年を要しますが、早いものは翌年の初夏には出荷されます。
実は、新型コロナウイルス感染拡大が始まる直前の2020年当初、それまで不漁続きだったうなぎの稚魚の豊漁が伝えられていました。そのため、この影響を受けて2021年は「うなぎが安くなるかも」と言われていたのです。ただ、実際には、私たち消費者の手元に届く段階では、それほど安くなっていないというのが実情です。
例えば、豊洲市場の市場統計情報を見てみましょう。
まず、生鮮うなぎの1kg当たりの価格は、2021年6月で4079円。過去2年間の同月では、2020年が5394円、2019年が5739円となっており、2割以上安くなっていることが分かります。
一方で、蒲焼きうなぎの1kg当たりの価格は、2021年6月で4748円。過去2年間の同月では、2020年が3713円、2019年が4795円となっており、今年の価格は昨年よりも高く、2019年並みの水準です。
このような差が出る要因の一つは、飲食需要の低迷と小売り需要の増加です。生鮮うなぎはもっぱら飲食店向けのもの。コロナ禍でいまだ飲食店の営業時間短縮が続く中、飲食店向けの需要は低迷しているといえます。一方で、蒲焼きうなぎは小売店にも多く流通しています。内食需要が高まっていることを踏まえると、その違いにもうなずけます。
しかし、先述の通り、昨年はうなぎの稚魚が豊漁。うなぎの供給を増やせるように思えます。それでも、蒲焼きの価格はなぜ下がらないのでしょうか。
この要因としては、うなぎの豊漁がいつまで続くか分からないことがあります。そのため、リスクヘッジを踏まえて値下げをしない事業者も少なくないのです。また、蒲焼きは冷凍でストックしておけるため、市場への供給量がコントロールできることも要因の一つといえます。
以上のような影響もあり、うなぎ蒲焼きの価格は、結局は平年並みになっています。ただ、供給できる量が増えているのと、生鮮うなぎの価格が下がっているのも事実で、局所的に安くなっているところも見受けられます。例えば、生鮮うなぎを仕入れて自前で蒲焼きを作っている魚屋などは価格低下の恩恵を受けやすいといえるでしょう。
● 土用の丑でうなぎを食べる人の半数が 食料品売り場で購入、正しい選び方は?
さて、今回、土用の丑に関する消費者アンケートを独自に行ってみました。アンケートは、インターネット調査で7月20日に実施し、20代以上の男女1000人を対象としました。
今年の土用の丑にちなんで、うなぎを「既に食べた」人と「食べる予定」と答えた人は、合わせて44.6%。「わからない」と回答した20.5%の一部が食べると考えると、少なくとも半分弱の人が土用の丑にちなんでうなぎを食べることが分かります。
次に、土用の丑にちなんでうなぎを食べる人に、どこで食べる(買う)のかを聞いたところ、「スーパー・デパート・魚屋などの食料品売り場」と答えた人が48.9%と最も多く、2番目に多い「うなぎ専門の飲食店(店内)」17.5%と比較しても圧倒的でした。
そうなると、気になるのが食料品売り場でのうなぎの選び方です。
うなぎ加工事業者からは、「コロナ禍で、本来はうなぎ専門の飲食店に行くはずの良質なうなぎが加工に回っている」という話を聞きますが、実際に売り場を見てみると中には粗悪品が紛れていることも……。
そこで続いては、食料品売り場でうなぎを選ぶ際に絶対にやってはいけないことについて述べていきたいと思います。
● やってはいけない「うなぎ選び」(1) 細長いうなぎを選ぶ
やってはいけないこと一つ目は、「細長いうなぎを選ぶ」ことです。
一見すると長いうなぎは、ボリューミーでお得な印象を受けます。ただ、長く見えるということは、「太っていない」ということの裏返しでもあります。
うなぎ以外でもいえますが、栄養状態が良く成長した魚は、“小顔になる”といわれます。これは、背中やおなかといった胴体の部分の肉付きが良いと相対的に顔が小さく見えるためです。このような魚は胴体の太さがあるため、細長いというよりも「太い」という印象の見た目になります。
そのため、細長いものよりも太いうなぎを選ぶと良いものにありつきやすいです。蒲焼きであれば、頭から尻尾にかけた線を縦としたとき、その縦線に対して垂直な横幅が大きいものを選びましょう。
● やってはいけない「うなぎ選び」(2) 厚いうなぎを選ぶ
やってはいけない選び方二つ目は、「厚いうなぎ」を選ぶことです。
うなぎの嗜好(しこう)は人によってさまざまですが、前述のアンケート調査でうなぎの蒲焼きにどのような点を求めるかを聞いたところ、「ふっくらした食感」と答えた人が48.8%と半数近くに上りました。
しかし、「ふっくら」とは逆のまるでゴムのように固いうなぎの蒲焼きを口にしたことのある人も多いかと思います。このような固いうなぎを避けるために手がかりとなるのが、蒲焼きの厚さです。
蒲焼きの固さの原因となるものに「皮」がありますが、この皮が固いと、焼いているうちにクルッと丸まって厚みができます。
このような特徴があるため、うなぎの蒲焼きは「平べったいものを選ぶと良い」といわれます。特にふっくらした蒲焼きが好きな人は、平べったいものを選ぶのが無難です。
● やってはいけない「うなぎ選び」(3) 産地を知らずに選ぶ
やってはいけない選び方三つ目は、産地を知らずに選ぶことです。
うなぎにはさまざまな産地があります。その産地をチェックするとともに、それぞれの特徴を知っておくと求めているうなぎに出合えるでしょう。
まず、国産で最も生産量が多いのが鹿児島県産。知らず知らずのうちに口にしていることも多いはずです。よく食べる安心の味を求めるなら、鹿児島県産をおすすめします。
次に生産量が多いのが愛知県です。愛知県には、ブランドうなぎの「一色うなぎ」があり、業界内での評価も高いです。生産量3番目は宮崎県になりますが、こちらも最近評価が高くなっています。
国産以外だと代表的なのは中国産です。中国産の品質はさまざまですが、中には良質な蒲焼きもあり、リーズナブルに楽しむことができます。
ただし、うなぎ専門の飲食店では中国産はほとんど扱われません。コロナ禍では本来うなぎ専門店に行くはずだったうなぎを自宅でも楽しめる可能性が高いため、そういう意味では、今は国産を選ぶ方が得策といえるかもしれません。
以上、今年のうなぎの状況と選び方をご紹介しました。今年の土用の丑も皆様がおいしくうなぎを召し上がれることを願っています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/acc366a1c6c67e23cd932a3309ed0fa4e66fba38