『夕べにすべてを見届けること』
ベートーヴェンの言葉なのだそうだ。
一体どのようなタイミングで使ったのかはわからないのだが、想像してみよう。
「すべて」とは?
ベートヴェンのある一日
今日は引っ越し、何故なら大家とケンカをしたからだ。
大家はいつも不機嫌で、私にも、甥のカールにも、失礼な人物だったのだ。
かくゆう私も、不機嫌な人には不機嫌に接することにしている。
さて、今朝はやけに早く目が覚めたので、さっさと引っ越しを済ませてしまおう。
めぼしい部屋を見つけて契約をしたばかりだ。
ココよりも安く、空にも近く、いつもの散歩道である河辺にも近い。
馬車を呼び、甥っ子と荷物を片付け、最後にピアノ・椅子・楽譜を別の荷馬車に載せる。
此の衝動的な引っ越しも50回目か…
この50回で学んだことが、大事なものは最後に運び込むことだった。
さて、もうすぐ大変だった一日が終わる。
新居での夕べは特別だ。
あらたなワインを開けるときのように、明日からを想像し、期待する。
そして
これまでの全てを見届ける夕べなのだ。
明日からは新たな自分になるのだ。
新しい部屋の朝は陽のさし方も変わり、空気の香りも変わり、全てが変わるのだ。
もちろん私自身も変わるであろう。