システム担当ライブラリアンの日記

図書館システムやサービス系の話題を中心に。最近、歩き旅の話題も。

「ブックコレクション」で私の書いた書評、5冊分

2014-09-10 22:28:18 | マーケティング
「ブックコレクション」で私が紹介した本の書評は、以下のサイトに出ていますが、本ブログでもご紹介します。字数の関係で削除した内容も付記しておきます。

書評の掲載されているページからは、本の感想も書き込めますので、ぜひ感想などご記入ください。

・ブックコレクション ~ 教員 VS 学生【書評対決】~
http://www.osaka-univ.coop/event/07_4.html

■「旅をする木」星野 道夫
文春文庫、1999、978-4167515027
\514(本体\476)

アラスカや極北の自然や文化、歴史を知ることができる。さらに、人との出会い、生と死、人生のちょっとしたことまで気付かせてくれる本。単なる紀行文やエッセイとは呼びたくない。

本書は、多くの短編で構成されている。
本のタイトルになっている「旅をする木」は、一本の木が川に流され、木の生えていないツンドラの世界にたどり着き、、、。アラスカの動物学の古典に収められた物語のような話。

著者の星野道夫については、彼の美しい写真に魅せられるだけでなく、自分の常識を越える世界、時間の流れのかなしさと素晴らしさを教えてくれる。
例えば、「森林限界」という言葉は、日本では標高が上がることによって、木が育たなくなることを指す。しかし、極北では少し違う。平地を北に移動することで「森林限界」を超えることになる。「旅をする木」は、そんな世界だからこそ書かれた物語だろう。
私もそんな世界を見たくて、カナダの極北へクルマで旅したこともある。

なにか自分では気付けないことを感じさせてくれたり、長い人生の中で大切なことを思い出させてくれる1冊。

 #著者の星野道夫は、アラスカの写真や、それにまつわる文章で比較的知られた人物である。1996年8月に、ヒグマ事故により43歳で亡くなった。
 
■「はじめての構造主義」橋爪大三郎著 
講談社現代新書、1988、9784061488984
\820(本体\760)

「自動車の発明は、自動車"事故"の発明」と、同じ分野で注目された浅田彰がかつて発言したと記憶する。しかし、2011年3月の重大な事故で、そのような考えを持っていた人が、どれほどいただろうか。

「構造主義」と聞いてもピンとこないかもしれないが、本書は近代的な「進歩」だけでなく、多様な価値観、見方を得る枠組みを、平易な記述で解説してくれる。
私たちは、進歩は善いことと思い、自分の尺度で他の人や社会を評価しがちである。本書から、違う角度でものごとを見るきっかけを得られるだろう。

「現代を読むカギ、二十一世紀を読むカギがここにあります」(p.5)と述べる本書が発行されてから26年。地域紛争、南北格差、科学技術の社会的意味、出生前診断など、社会はより複雑になっている。だからこそ、本書から、ものごとを多面的に考えることを改めて振り返ってはどうだろうか。

少しでも興味を感じたら、20ページほどの第1章「『構造主義』とは何か」だけでも読んでみよう。20世紀以降の考え方の流れと、構造主義の立ち位置が大まかに理解できる。

 #関連文献: 浅田彰「構造と力」
 #自動運転か、マナー向上か
 #現代思想、ないしポストモダンについて解説してくれるロングセラー
 #「読むカギ」の改良より早いスピードで、社会は変化しているようにも思える。

■「文化人類学入門 (増補改訂版).」祖父江 孝男
中公新書. 1990. 978-4121905604
(本体\800)

文化人類学の基礎を学びつつ、ものごとを相対的に見る姿勢を身に付けられる本。文化人類学とは「世界のさまざまな民族のもつ文化や社会について比較研究する学問」(p.2)。

本書では、「民族」の定義や、言語、家族の形態などを題材に、文化人類学の手法や考え方、時にはその変遷を解説してくれる。第9章の文明どうしの接触などによる「文化変容」も、まだ現代に通じる記述と思える。

ものごとを客観的ないし相対的に見るために、「時間軸(歴史)」や「場所」を変えるのは有効な手段の一つである。それによって、異なる文化を理解しやすくなるはずである。自分の文化や社会もより理解できるだろう。
評者にとっての文化人類学は、「時間軸」や「場所」を変え、視点を変えて、ものごとを理解しようとする学問である。

本書から、異なる文化・社会との相互理解の基礎を身に付け、(自分の価値観では)「ちょっと変」と思えることにも、何らかの背景があることに気づくことができるのではないだろうか。

(関連書籍)
・文化人類学15の理論. 綾部 恒雄. 中公新書. 1984. 978-4121007414

■「『分かりやすい表現』の技術 : 意図を正しく伝えるための16のルール」藤沢晃治
講談社ブルーバックス、1999、9784062572453
\864(本体\800)

資料作り、作業の流れの分かりやすさ、さらにはプレゼンの分かりやすさまで、グッとよくなる、評者イチ押しの一冊。

皆さん、思い出してみてもらえるだろうか。
例えば、、、
・電気製品に「はじめにお読みください」という、基本的な確認事項を示す紙が添付されていること。
・病院や役所の窓口に示されている大きな数字。
・(京都の市バスだと)3桁で200番台の系統番号は、他と色違いで、それが循環路線を示していること。

これら全て「分かりやすい表現の技術」である。

本書は、世の中にある「分かりにくい」実例をあげつつ、改善例を示している。そして、「分かりやすい」とはどういうことかを論理的に説明し、「分かりやすい」表現をするための考え方を学ばせてくれる。

文章や表を含め、何かを作る時にヒントがたくさん。少しの気付きを得られるだけで、ずいぶん分かりやすいものが作れるはず。
(JR大阪駅の改装関係者がこの本を読んでいたらなぁ、と思ったり。)

同一著者による類書も多数。

■「自由からの逃走」エーリッヒ・フロム

本書は、近代以降の「自由」と、その「孤独」や「不安」について、「診断」「分析」する基本文献の一つ。

強引に言えば、"ぼっち"という言葉のマイナス面を、歴史的、心理的な側面から考えさせてくれる!? 県民性を扱うテレビ番組も、その「不安」解消のためと思えることもある。

皆さんの進路は、家族が呉服屋だから呉服屋に、ではないだろう。「前個人的社会の絆からは自由」に「独立と合理性」によって選択できる(原則的には)。
そこで感じる「孤独」や「不安」は、近代以降の社会が生み出したものかもしれない。(注:カギかっこ内は、本書の序文から)

本書は、「自由」の意味すること(第1章)や、「個人的自由の欠如」はあるが「孤独ではなく、孤立していなかった」中世(第3章)に触れ、ナチズムの考察などに至る。

難しいと感じれば、各章や各節の最初のパラグラフだけでもよい。キーワードに線を引きながら読むのもお勧め。夏休みなどに読んでみてはどうだろうか。

(関連書籍)
・自殺論(エミール・デュルケーム)
「個人」の視点から考察するフロムとは逆に、デュルケームは社会構造の視点から現代の事象を考察。

#近代以降の社会(特に先進諸国)では、個人の「自由」は重要だと理解されている。しかし、別の側面として、近代以降、地域や家族の結びつきが小さくなることなどにより、個人の「孤独」と「不安」も生まれる。

(写真)
広報用ビデオから
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