とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

明解量子重力理論入門:吉田伸夫

2013年01月14日 00時04分04秒 | 物理学、数学
明解量子重力理論入門:吉田伸夫」(Kindle版

内容説明
物質の究極と宇宙の謎に、最先端物理が迫る相対論と量子論を統一することはできるのか?最先端理論が説く宇宙の過去と未来とは?近年発展の著しい量子重力理論の最先端を、基礎から明解に説き明かす入門書

内容(「BOOK」データベースより)
なぜ重力の量子化が困難なのか?量子重力理論は、何を解決しようとしているのか?ループ量子重力理論とは、超ひも理論とは、どのような理論なのか?学部学生程度の物理学から出発し、量子重力理論という最先端へ読者をいざなう、専門書を読む前の、はじめの一歩に最適な入門書。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
吉田伸夫
1956年、三重県生まれ。東京大学理学部物理学科卒業、同大学院博士課程修了、理学博士。専攻は素粒子論(量子色力学)。東海大学、明海大学で非常勤講師を務めながら、科学哲学や科学史をはじめ幅広い分野で研究を行っている。


理数系書籍のレビュー記事は本書で204冊目。

場の量子論:F.マンドル、G.ショー」で場の量子論にめでたく入門したものの、「ワインバーグ場の量子論(4巻):量子論の現代的諸相」からすっかりついていけなくなり軽いトラウマ状態になっていた。その後、場の量子論からいったん離れ、電子回路や計算機科学、情報理論についての本を経て、年末年始は熱力学系の本に取り組んできた。その中で情報とエントロピーやエネルギーとの関連性を知り、大栗先生の「重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る:大栗博司」で解説されていたブラックホール表面のエントロピー問題、情報問題とのつながりに物理学の奥深さを感じていた。

僕が超弦理論の教科書を読むのはまだ先になるが、モチベーションを回復するために適当な本はないかと探して見つかったのが本書である。学部レベルから大学院レベルの物理学へ読者をいざなう数少ない一冊だ。2011年の夏に刊行された本で、表紙の帯には次のように紹介されている。

「超ひも理論も、ループ量子重力理論も、第一歩からわかる知的興奮の書!
難解とされる「量子重力理論の今までになくわかりやすい入門書
なぜ重力の量子化が困難なのか?量子重力理論は、何を解決しようとしているのか?ループ量子重力理論とは、超ひも理論とは、どのような理論なのか?学部学生程度の物理学から出発し、量子重力理論という最先端へ読者をいざなう。専門書を読む前の、はじめの一歩に最適な入門書。」

この紹介を読んだとき、たかだか200ページの本で最先端の理論が理解できるとはとうてい思えなかった。章立てを見る限り内容は盛りだくさんだ。前半の第I部で量子論、場の量子論、一般相対論、重力の量子化が述べられ、後半の第II部でループ量子重力理論、超ひも理論、ホーキング放射まで解説が及んでいる。

第I部:量子重力理論までの道程
第1章:量子論の基本原理
第2章:場の量子化とくりこみ
第3章:時空のゆがみとしての重力
第4章:重力の量子化

第II部:量子重力理論の具体例
第5章:時空構造の極限を求めて-ループ量子重力理論
第6章:素粒子論的アプローチ-超ひも理論
第7章:半古典的取り扱い-ホーキング放射
第8章:宇宙論への応用

吉田先生には「光の場、電子の海―量子場理論への道:吉田伸夫」(紹介記事)という著作があり、とてもよい本だったので僕としては格別の信頼感がある。よもや期待が裏切られることはあるまいと思いながら「明解量子重力理論入門:吉田伸夫」を読んでみた。小さい活字で印刷されているのでページ数のわりには読み応えがあった。


本書について僕の理解度を述べるのは難しい。ページ数が限られているから数式は天下りにならざるをえず、導出手順が示されているわけではない。だから「本当に理解したか?」と聞かれれば「正確なところは理解できないが、何となくわかった。」としか答えられない。吉田先生にしても詳しいことは専門書にあたってほしいとお書きになっているのでそれを言い訳にすれば、本書が目標としているところの90パーセント以上は理解できたのだと思う。

しかし読後の満足度については95パーセント以上だった。これだけ豊富な内容を200ページの本にまとめてしまったのはもったいないと思ったのが5パーセントの不満の部分。内容が素晴らしかっただけに400~600ページかけてじっくり解説してほしいと思ったのだ。

「学部学生程度の物理学から出発し」や「第一歩からわかる知的興奮の書」という紹介については少し過剰宣伝だと思った。少なくとも量子力学と一般相対論は通常の教科書で学んだ人でないと難しいだろう。欲を言えばファインマンの経路積分や場の量子論も前もって学んでおいたほうがよい。

第I部では第II部の量子重力理論に至るまでに必要な理論を系統立て、最短ルートで解説が行われる。すでに学んだ内容ばかりなので天下り的に出てくる数式にも当惑することなく読み進むことができた。

特に場の量子論の範囲、第2章が特にためになった。量子電磁気学(電子、陽電子、光子の相互作用)をファインマン・ダイヤグラムを使い、電荷や質量の発散をどのようにくりこむか、有効場の考え方など、ワインバーグの教科書で学んでよく理解できなかった部分についても、全体の枠組みの中でどのような意味を持っているのかを知ることができた。

第I部の最終章では重力の量子化や重力のくりこみ不能性が解説されるが、このあたりから僕にとって未知の領域となる。相対論から要請される時空の計量や共変性の要件を満たしつつ、重力のくりこみを導出するとどのようにしても発散をまぬがれないことが明確に示されている。この部分の式で発散している状況が具体的に示されているわけではないが、文章による解説でも読者は納得できるはずだ。


第II部が本書のメインだ。ループ量子重力理論や超ひも理論(超弦理論)はどちらも量子重力理論の範疇に含まれる。量子論と相対論がこれらの理論にどのように取り込まれるのかが明解に示されている。特にループ量子重力理論は新しい理論なので数式を使って正確に紹介している本としては本書が初めてに近い。

量子論や場の量子論から「時空の不連続性」が仮説として紹介されることがあるが、相対論によれば時空は連続であることが要請される。ループ量子重力理論では時空の連続性が導かれるとともに、どうして不連続に見えるのかということも示されていたのがとても興味深かった。

超ひも理論は、その発展史に沿った形で展開されていた。超ひも理論自体についての解説を行なった後、それが重力理論を含んだものであること、10次元や26次元であることがどのような経緯で導かれたか、M理論やDブレーンなどへ発展していく状況が紹介される。さらに近年明らかにされたAdS/CFT双対性についての解説も行われている。

ループ量子重力理論や超ひも理論について吉田先生は全面的に肯定しているわけではない。これらの理論の正当性が実験で検証されているわけではなく、仮説に過ぎないことを強調している。実験による検証がなされないまま理論が数学的になり過ぎたため、批判にさらされることなく理論が発展していくことに先生は疑問を投げかけている。本書ではそれぞれの理論を解説する中で、根拠が不明な内容についてはそのたびに慎重に考えるべきだと注意を促しているのだ。

ホーキング放射、ブラックホールのエントロピー問題については特に目新しかった。これにはブラックホール表面に近い場所で定義されるリンドラー座標系(加速座標系)で生じるウンルー効果によって説明が行われる。表面積に比例するブラックホールのエントロピーやブラックホール表面の温度(ホーキング放射による温度)の式も紹介されている。ミンコフスキー座標系でブラックホールの表面近くが真空場なのだが、リンドラー座標系で同じ領域を表すと真空場でなくなってしまうというのがポイントだ。

ウンルー効果によるブラックホール表面温度については古典物理だけを使ってT_NAKAさんが「Unruh効果のおさらい」という記事で導出していらっしゃるのでお読みいただきたい。

ウンルー効果とは
高強度レーザーによるウンルー効果の検証(KEK)
http://legacy.kek.jp/newskek/2010/mayjun/UnruhEffect.html


各章末では、その章で解説した理論を専門的に学ぶための教科書やネット上で入手可能な論文が紹介されている。自分で探し出すのが難しそうな論文もあるので、次のステップに進みたい読者にとっては貴重な情報だ。


吉田先生は数式を使わない、一般の方でも読める次のような本をお書きになっている。僕は「光の場、電子の海―量子場理論への道:吉田伸夫」(紹介記事)しか読んだことがないが、今日紹介した「明解量子重力理論入門:吉田伸夫」をお読みになる前に読んでおくとよいだろう。

光の場、電子の海―量子場理論への道:吉田伸夫
思考の飛躍―アインシュタインの頭脳:吉田伸夫
宇宙に果てはあるか:吉田伸夫


  



場の量子論や超弦理論を目指す方には、ぜひ本書を読んでいただきたい。モチベーションを高めるのにはうってつけの一冊である。


応援クリックをお願いします!このブログのランキングはこれらのサイトで確認できます。

にほんブログ村 科学ブログ 物理学へ 人気ブログランキングへ 




明解量子重力理論入門:吉田伸夫」(Kindle版


はしがき

第I部:量子重力理論までの道程

第1章:量子論の基本原理
- 古典物理学と最小作用の原理
- 不確定性関係と量子論の原理
- 経路積分の手法
- 波動関数とシュレディンガー方程式
- 振動するシステムのエネルギー量子
- 特殊相対論と場のアイデア

第2章:場の量子化とくりこみ
- マクスウェル電磁気学の基礎方程式
- 電磁場の量子ゆらぎ
- 電子の場
- 摂動論による相互作用の評価
- 量子電磁気学とファインマン則
- くりこみの処方箋

第3章:時空のゆがみとしての重力
- 特殊相対論とミンコフスキ時空
- 等価原理から時空の幾何学へ
- ガウスの曲面論
- リーマン幾何学における形式不変性
- 曲率テンソルと共変微分
- 重力場の方程式
- 重力波と重力子

第4章:重力の量子化
- 量子場の共変性
- 重力場と量子ゆらぎ
- 有効場のくりこみ変換
- 重力のくりこみ不能性
- 量子重力理論の候補
- 量子重力理論はどこまで信頼できるか?


第II部:量子重力理論の具体例

第5章:時空構造の極限を求めて-ループ量子重力理論
- 格子上の場の理論
- 格子ゲージ理論
- 格子上のループ
- アシュテカ変数の導入
- ループ変数による量子化
- ループ状態の制限
- 幾何学的状態の離散化
- スピンネットワーク
- 共変性は絶対か?

第6章:素粒子論的アプローチ-超ひも理論
- 超ひも理論以外のアプローチ
- なぜひもを考えるのか
- ひも理論から超ひも理論へ
- ひもの作用関数
- 整合性の条件
- 超ひも理論と重力
- 超ひも理論はどこに向かうのか?

第7章:半古典的取り扱い-ホーキング放射
- ブラックホールとは何か
- リンドラー座標と事象の地平面
- ブラックホールの熱力学
- リンドラー座標系におけるウンルー効果
- ホーキング放射とブラックホールのエントロピー
- 量子重力理論による扱い

第8章:宇宙論への応用
- 初期特異点の問題
- 次元数の問題

参考文献
あとがきに代えて-最先端科学の捉え方
索引
コメント (13)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« docomoスマートフォン機種変... | トップ | 図解 熱力学の学び方 (第2版)... »

13 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
経路積分で引っ掛かって積読状態 (T_NAKA)
2013-01-14 08:48:35
私もこの本を持っていますが、積読状態になっています。この記事を拝見して挑戦して読んでみたいと思いました。
Unruh 効果は場の量子論と加速系(リンドラー座標)との両方の合わせ技で説明するのですが、不思議と古典論だけで求める方法もあるので
「Unruh 効果のおさらい」http://teenaka.at.webry.info/201109/article_2.html
で紹介しました。参考までに。。
また、リンドラー座標が分かると何度も論争される「特殊相対論における2台の宇宙船のパラドックス」http://homepage2.nifty.com/AXION/about/A_Paradox_of_Two_Space_Ships.pdf
も理解できてしまいますよね。
返信する
Re: 経路積分で引っ掛かって積読状態 (とね)
2013-01-14 09:23:39
T_NAKAさんへ

「Unruh効果のおさらい」の記事読ませていただきました。吉田先生の本で紹介されているのはT_NAKAさんがお書きになっているように場の量子論と加速系を合わせた「半古典系」による解法ですが、古典論だけでも求められてしまうのですね。記事最後にホーキング温度がきちっと求められているのを見て(毎度ながら)すごいなーと感服させられます。

吉田先生の本で経路積分は「自由落下」の条件のもとに解説されていますが、本書のように大雑把な本はT_NAKAさんのように数式展開を厳密に追う方法をとっている人には自分で行間をたくさん埋めていかなければならないので、とてもエネルギーを必要とする本なのだと思い当たりました。経路積分のところだけでしたらファインマン先生の本や「量子波のダイナミクス:森藤正人」のほうがわかりやすいと思います。

「明解量子重力理論入門:吉田伸夫」はアマゾンのほうにこの分野に詳しい方によるレビューが3つ投稿されているので、これらも参考になりますね。
返信する
Unknown (通りすがりの素人)
2013-01-15 01:22:29
まだ発売されてませんが、
『完全独習量子力学 前期量子論からゲージ場の量子論まで 』も似たようなコンセプトじゃないでしょうか
返信する
通りすがりの素人さんへ (とね)
2013-01-15 01:41:40
林光男先生の本ですね。
すでに発売されている「ニュートン力学からはじめる アインシュタインの相対性理論 (KS物理専門書)」と同じコンセプトになるのだと思いました。
どちらの本にしてもカバーしている分野が広めですので、普通の教科書よりも要点重視になるのかと想像しています。
返信する
Unknown (名無し講座)
2013-01-22 14:15:55
Hans Betheの量子力学の講義映像(英語)が公開されました。
http://bethe.cornell.edu/
返信する
名無し講座様 (とね)
2013-01-22 14:52:33
貴重なページを紹介いただきありがとうございました。
講義動画はQuickTimeのファイルをダウンロードする形式なのですね。
返信する
吉田伸夫先生の本 (アルキメデス)
2015-09-26 18:47:02
トネさんこんばんは
吉田信夫先生の本
6点注文しました

たぶん書店でちらっと見たと思いますが
素粒子物理学の解説書はもういいかと思っていました

明解電子重力理論入門は眺めるだけになるかも知れませんが
退院してからまずは新潮選書シリーズから読んでいこうと思います

返信する
Re: 吉田伸夫先生の本 (とね)
2015-09-27 02:34:54
アルキメデス様
6点も購入されたのですね。新潮選書シリーズはとてもわかりやすく書かれています。
どうぞお楽しみください。
返信する
場の量子論 (アルキメデス)
2015-09-27 21:24:45
トネさんこんばんは
昔聞いたんですが

場の量子論は 秀才の墓場

といわれたとか
京大で湯川博士がいたころの話みたいですが

私も大学卒業してからも数学にしがみついてきましたが

45くらいからやっとわかるようになりました

トネさんのブログ読んで諦めなくて良かったと再確認

人生幸せです
返信する
Re: 場の量子論 (とね)
2015-09-27 21:49:23
アルキメデス様

ブログ記事がお役に立ったようでよかったです。吉田伸夫先生の本も大栗博司先生の「強い力と弱い力」もそれぞれ対象読者のレベルに合わせて場の量子論の本質を解説する良書だと思います。
確かに湯川先生の頃に場の量子論を目指した方は、とてつもない苦労と徒労を経験されたでしょうねぇ。当時ごく一部の大天才だけが手にすることのできる果実だったわけですから。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

物理学、数学」カテゴリの最新記事