とね日記

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連続群論:保江邦夫

2010年05月04日 21時56分13秒 | 物理学、数学
連続群論:保江邦夫

保江先生の「数理物理学方法序説」というシリーズを読み進んでいる。これで3冊目だがすっかりこのシリーズに熱中している。このシリーズの存在は前から知っていて志賀先生の「数学30講シリーズ」のように大学1、2年生のために易しく書き起こした物理数学の入門書のようなものだと想像していた。

読み始めてみるとそれは大きな勘違いだということがわかった。保江先生の「数理物理学方法序説」のほうは「数理物理学の入門書」、つまり理論物理学の正当性を数学の各分野から導かれる定理や証明によって裏づけを与えるものだ。レベルは高く大学3、4年から大学院で学ぶの数学を要約し、分冊にしたものである。保江先生ご自身が「理論ミニマム」と呼んでいらっしゃるように先端理論を理解するための最短コースなのだ。

本書のタイトルは「連続群」。連続群は別名「リー群」とも呼ばれる。物理学で扱う対象はなんらかの自由度についての連続的な変換からなる連続変換群がほとんどなので、この群が特に重要視されている。だから読む前まではタイトルどおり連続群のことだけ解説されているのだろうと思っていた。

ところが最初の6章は群論とは全く関係ないヒルベルト空間の簡潔な復習、有界線形作用素、スペクトル分解、解析ベクトルなど関数解析系の話ばかり。。。本のタイトルと内容に違いがありすぎる。そう思いながら7章以降やっとはじまる群論の解説を読み、やっとその理由がわかるような構成。それはすべてが関連を持っていたからなのだ。

僕はこれまで量子力学、相対性理論、多様体、微分幾何学、群論、ヒルベルト空間などをそれぞれ別個にかじってきたに過ぎない。量子場の理論や素粒子物理学の教科書には達していない段階だ。理論物理学に多様体や微分幾何学、群論が必要だということを耳にしていても、どのようなわけで必要なのかを具体的に知っているわけではない。

ところが本書では別個に見えるそれぞれの数学の分野が理論物理学の中でどのように関連をもっているかということが実に手際よく紹介されているのだ。連続群の説明だけにとどまっているわけではなかった。

ニュートン力学における3次元ユークリッド空間、アインシュタインの4次元時空間、量子場の理論のゲージ場にそれぞれ対応するガリレイ群、ローレンツ群、ゲージ群はそれぞれ対応するリー群(連続群)の構造定数に対応し、リー群はリー環という代数構造に対応し、リー環はヒルベルト空間のユニタリー作用素によって表現される。またリー環に微分可能多様体が付随しているため、多様体上のベクトル、接ベクトル空間、ベクトル場のフローなどが関連しているのだ。それらが数学的に一意なものとして存在することを保証しているのがヒルベルト空間論というわけになる。最初の6章がヒルベルト空間論のユニタリー作用素など関数解析系の説明に割かれていたのはそのような理由による。量子場の理論と作用素環論という代数学の結びつきが順を追ってはっきりと示されているのだ。

量子力学はもとより、その先の量子場の理論や素粒子物理学で数学理論がどのように結びついているかが実感としてわかれば、学ぶ目的を見失いがちな数学の勉強にも強い動機付けが生まれてくるに違いない。

とはいっても本書のような140ページ足らずの本でこれらのことをすべて語り尽くすことができるはずがない。群論の入門の箇所もあっさりとすませてある。本書を読むためには少なくとも別の入門書で群論とヒルベルト空間論を学んでおく必要があると思った。ともかくよい意味で荒削りながらいろいろなことを詰め込み過ぎている良書である。

先に読んだ「ヒルベルト空間論」や「量子力学」に比べてずっと難しかった。僕の理解度は全体を通じて7~8割程度にとどまった。

さて、次はこの本を読むことにしよう。

確率論:保江邦夫



今日紹介したのはこちらの本。

連続群論:保江邦夫



目次

1 ヒルベルト空間ミニマム
2 有界線形作用素ミニマム
3 線形作用素と定義域
4 スペクトル分解
5 ストーンの定理
6 解析ベクトル
7 代数学の三銃士
8 群
9 同型定理
10 古典群
11 位相群
12 連続群あるいはリー群
13 外積とリー環
14 並進群と回転群
15 ガリレイ群
16 ローレンツ群
17 ゲージ群
18 解析ベクトルとユニタリー表現


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