とね日記

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量子力学:保江邦夫

2010年05月03日 20時28分43秒 | 物理学、数学
量子力学:保江邦夫

まずおことわりしておくが、本書は量子力学を学ぼうとする人が最初に読むべき本ではない。定番の教科書でひととおり学んだ後で量子力学の数学的裏づけをかじってみたいという人のための本だ。つまり量子力学の理論が網羅的に書かれているわけではなく、その本質のおいしいところをピックアップしながら数理物理的立場からまとめたものだ。荒削りで著者の個性が強く反映されている本である。

これは保江先生の「数理物理学方法序説」というシリーズの中の1冊。先生ご自身が学生時代に個人的に作ったノートを再現したものである。天下りな記述や証明を同シリーズの他書にゆだねている箇所が目立っているため本書だけでは完結していない。

しかしそれでもなおこの本に僕が惹きつけられるのは、保江先生ご自身がこれまで抱いてこられた量子力学への熱い想いと、今は亡き保江先生の恩師のライフワークを完結させたいという願いがこめられているからだ。そこには量子力学と数学との深い結びつきが生き生きと数式で語られている。

関数解析に少しだけ入門してみようとして読んだ「ヒルベルト空間論:保江邦夫」の続編ということで僕は本書を読んだのだが、見事に保江ワールドにはまってしまった。はじめて量子力学を学んだときに感じたのと同じような高揚感を取り戻すことになった。

少しだけ内容にも触れておこう。ご存知のとおり量子力学はシュレディンガー流とハイゼンベルク流の定式化があるわけだが、本書ではこの他にも2つの流儀の定式化が紹介されている。1つは超準数学の無限小解析を確率力学および確率過程に組み込む方法、そしてもう1つは確率力学とニュートン力学を組み合わせる方法だ。前者は1960年代に、後者は1980年代になって発見されたものである。どちらの方法からでも量子力学の基礎方程式が見事に導かれてしまうことは僕にとってはじめてのことであり、新鮮な驚きだった。しかもこんな薄っぺらい本、たった十数ページの記述なのにである。

確率論や統計学はこれまで毛嫌いしていた分野だ。実利的な応用としての数学には違和感を覚えていたからだ。けれども量子力学において量子の存在に確率解釈を提唱したのはマックス・ボルンであり、量子力学に確率論が結びつくことでその応用は僕にとっても十分魅力を感じられるものになった。本書のおかげである。(余談だがマックス・ボルンは歌手のオリビア・ニュートン・ジョンの祖父なのだそうだ。なるほど名家に違いない。)

一部の読者には不評かもしれないが、本書のあちこちに「~については同シリーズの~を参照せよ。」のような記述がある。でもそれはシリーズ全体で完結しているので仕方がないことなのだ。かくいう僕もついついその先が読みたくなり、同シリーズのうち更に3冊を買い求めることになった。蔵書は増える一方だ。(笑)

幸か不幸かゴールデンウィークは一緒に遊んでくれる人は誰もいない。ドライブに行って大渋滞に巻き込まれるのも嫌なので、この連休は「保江ワールド」に浸って過ごすことに腹を決めたところだ。

ということで次に読むのはこちらの本にした。

連続群論:保江邦夫



ところでネットで量子力学について学びたい方のために2つサイトを紹介しておこう。

まず、いちばんのお勧めはこちら。

EMANの量子力学
http://eman-physics.net/quantum/contents.html

もっと教科書っぽく学びたい方には岡部先生のサイトがいいだろう。

量子力学(岡部洋一)
http://www.moge.org/okabe/temp/quantum/temp.html


そして今日紹介したのはこちらの本。

量子力学:保江邦夫



目次

1章 完全連続作用素
2章 線形積分方程式
3章 対称核フレドホルム積分作用素
4章 超準数
5章 無限小解析と微積分
6章 超準完全連続作用素
7章 物理量と超準完全連続自己共役作用素
8章 ディラックの変換理論
9章 固有値問題としての量子化
10章 行列力学とハイゼンベルク方程式
11章 水素原子とパウリ-レンツのベクトル
12章 波動力学とシュレーディンガー方程式
13章 径路積分と加藤-トロッターの公式
14章 質量の解析接続とウィーナー測度
15章 確率力学と確率過程
16章 確率力学とニュートン-ネルソン方程式
17章 確率力学における電磁相互作用と最小作用の法則
18章 相対論的量子力学

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