とね日記

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確率論:伊藤清(第5章:確率過程)

2011年11月26日 13時55分41秒 | 物理学、数学
確率論:伊藤清」第5章:確率過程

どうにか読み終えることができた。

古典確率論はラプラスにより1812年に完成された。(「ラプラス 確率論 -確率の解析的理論」)つまり高校数学で学ぶのがラプラスによる確率の定義だ。

ラプラスによる確率の定義
http://www7b.biglobe.ne.jp/~pasadena/kaisetsu/laplasnokaku.htm

確率の定義はその後1931年にコルモゴロフによって公理として与えられ、集合論、位相論をベースとした現代確率論が生まれたわけである。(「確率論の基礎概念:A. N. コルモゴロフ」)

コルモゴロフによる確率の定義(公理)
http://takashiyoshino.random-walk.org/memo/keikaku2/node4.html#SECTION00042100000000000000

この現代確率論の発展の中で「確率過程論」が生まれ、この第5章に書かれているように発展し、現代確率論の大部分を占めるに至っている。

そもそも僕がこの分野に「脱線」したのは「どうして未来は決まっていないのだろうか?」という記事や、「世界一やさしい金融工学の本です:田渕直也」という記事で紹介したように金融工学という分野が生まれる原因になった「ブラックショールズ方程式」が、この本の最後で導出されている「伊藤の補題」を流用していたからで、それでは未来が決まっていない物理現象や金融市場を記述している「確率論」とはいったい何なのか?という考察を深めたかったからだ。

結局、僕の第5章についての理解度は60パーセント止まり。大方の筋書きがどうにか追える程度だった。この章に至ってはじめて「時間」という物理的な量が登場する。ブラウン運動や株価の変動など時間の経過に従い確率がどのように変化していくかを研究するのが確率過程論である。

電子など素粒子など「不確定性原理」に支配される物理学的なジグザグ運動にしても、トランプの束から無作為に選んでハートのカードを抜き出す行為にしても、ともに確率的な事象であることに違いはなく、同じ確率論の枠組みで基礎付けを与えている。その原点がコルモゴロフによる確率の公理にまでしか遡れない以上、「どうしてその現象は確率的に振る舞うか?」という問いに対する答がそこに見つかるわけではない。

参考:自由電子のジグザグな運動については「量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス」という記事をお読みいただきたい。

素粒子の確率的な挙動の理由は物理法則としての不確定性原理にあり、ハートのカードを抜き出す確率的現象の理由はトランプをシャッフルする側とカードを抜き出す側の人を系とする「予測不能=計算不能」な「何かによる事象の選択」の中にしか見つけるしかないが、それは事実上不可能である。未来を不確定にしているからくりは、物理学の分野で言うところの「複雑系」をはるかに凌駕した多層的な構造の中にあり、計算モデルをつくることさえ不可能に思える。

同様に株価のジグザグ変動の理由も時事刻々変化する個々の投資家の思惑と意思によるのであるから特定の時刻間の推移確率を含んだ「チャップマン-コルモゴロフの等式」の中の推移確率を記述する原理は事実上見つけることはできない。その結果、株価の変動幅が正規分布に従うか、それとももっと他の分布に従うかは定性的、感覚的な議論になってしまうわけだ。

そもそも試験の点数の分布を正規分布と見立てて計算する偏差値などというものもずいぶんいいかげんなものである。試験の点数の分布はどう見ても左右のどちらかに偏っていることがほとんどであるわけだから。偏差値の誤差は直観的にみても10%くらいあるんじゃないかと思う。

それでもなお、一般性を損なわない形で自然に導出される確率過程や確率微分方程式には魅了される。ランダムウォークや株価の変動を記述する関数は、いたるところで微分不可能な連続関数なのである。そういうものがどうして微分方程式で表せるのか不思議な気がするが、この章で厳密な形での証明が尽くされているのだ。

第5章の$5.1から$5.4までは、後のための基本事項の説明、$5.5と$5.6ではマルチンゲールについての解説である。$5.7のガウス系は無限次元のガウス分布(正規分布)の理論、$5.8ではウィーナー過程についての古典的な結果を解説。ウィーナー過程は確率過程の中で最も基本的なものであり、確率微分方程式の基板となっている。$5.9では多項配置とポアッソン過程について説明している。$5.10の加法過程では「レヴィの分解定理」の厳密な定式化と証明に多くのページが割かれている。

$5.12と$5.13および$5.18はマルコフ過程に関する序論である。$5.14から$5.16はウィーナー過程を基礎にした確率微分方程式の古典理論を現代的に整理して述べてある。


第5章:確率過程
- 関数空間CとD
- 確率過程に関する一般事項
- 情報と増大情報系
- 停止時
- 離散時変数のマルチンゲール
- 連続時変数のマルチンゲール
- Gauss系
- Wiener過程(Brown運動)
- 多項配置、Poisson配置
- 加法過程
- 無限可解分布
- Markov過程と転移確率
- 生成作用素
- 確率微分方程式論の直観的背景
- 確率積分
- 確率微分
- 確率微分方程式
- 1次元拡散過程

第5章のキーワード:確率過程、連続時変数、離散時変数、ポーランド位相、ポーランド空間、コルモゴロフσ加法族、一様収束位相、Skorohod位相、Billingsleyの距離、見本過程(C過程)、見本第1種不連続過程(D過程)、可測過程、同等、強同等、法則同等、情報、増大情報系、右連続性、右連続化、停止時、n停止過程、F停止時、マルチンゲール、Fマルチンゲール、Doobの分解定理、任意停止定理、任意抽出定理、Doobの不等式、Doobの上渡回数定理、マルチンゲールに関する収束定理、DoobのD変形定理、ガウス系、ウィーナー過程、ブラウン運動、コルモゴロフの連続変形定理、多項配置、ポアソン配置、固有配置、偶然配置、平均測度、ポアソン配置、加法過程、ポアソン過程、レヴィ過程、レヴィ距離、レヴィ過程の分解定理、レヴィ過程の構成定理、無限可解分布、複合ポアソン過程、コーシー過程、マルコフ過程、転移確率、マルコフ性、チャップマン-コルモゴロフ方程式、確率差分方程式、確率微分方程式、確率積分、見本関数、局所自乗可積分性、確率微分、確率微分方程式、Langevinの方程式、1次元拡散過程


読み終えることはできたが消化不良の箇所が目立った。「伊藤の補題」への道筋を理解するという当初の目的は果たせたが、どうも気持ちが悪いので、もう一冊同じテーマで本書よりははるかに易しい本を読むことにした。「入門確率過程:松原望」である。


本書を読むためには集合論、位相、ルベーグ積分、解析学などの理解が必要だ。それぞれについてのお勧め本は次のとおり。

入門者向き:「集合への30講:志賀浩二著」および「位相への30講:志賀浩二著
中級者向き:「集合・位相入門: 松坂和夫著
入門者向き:「ルベグ積分入門(新数学シリーズ23):吉田洋一
中級者向き:「ルベーグ積分入門:伊藤清三
入門者向き:「定本 解析概論:高木貞治


関連ページ:

ネットで学びたい方は、以下のページをご覧になるとよい。

確率論入門:(横田 壽)
http://next1.msi.sk.shibaura-it.ac.jp/MULTIMEDIA/prob/prob.html

計画数理演習(確率微分方程式)
http://takashiyoshino.random-walk.org/memo/keikaku_ensyu/web.html


関連記事:

確率論:保江邦夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e61db01708357715d1d758b5c1308f5


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確率論:伊藤清


はじめに

第1章:有限試行
- 確率空間
- 実確率変数、確率ベクトル
- 混合、直結合、樹形結合
- 条件付確率
- 独立性
- 独立な実確率変数
- 大数の法則

第2章:確率測度
- 一般の試行と確率測度
- 確率測度の拡張定理
- 確率測度の直積
- 標準確率空間
- 1次元の分布
- 特性関数
- 分布族の中の位相
- d次元の分布
- R^∞の上の分布

第3章:確率論の基礎概念
- 可分完全確率測度
- 事象と確率変数
- 分割とσ加法族
- 独立
- 条件付確率測度
- 条件付確率測度の性質
- 実確率変数
- 条件付平均値作用素

第4章:独立確率変数の和
- 一般的事項
- 独立確率変数の級数の概収束
- 中心値、散布度
- 独立確率変数の級数の概発散
- 大数の強法則
- 中心極限定理
- 重複大数の法則
- Gaussの誤差論
- Poissonの少数の法則

第5章:確率過程
- 関数空間CとD
- 確率過程に関する一般事項
- 情報と増大情報系
- 停止時
- 離散時変数のマルチンゲール
- 連続時変数のマルチンゲール
- Gauss系
- Wiener過程(Brown運動)
- 多項配置、Poisson配置
- 加法過程
- 無限可解分布
- Markov過程と転移確率
- 生成作用素
- 確率微分方程式論の直観的背景
- 確率積分
- 確率微分
- 確率微分方程式
- 1次元拡散過程

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2 コメント

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全部パー (hirota)
2011-11-29 16:40:59
経済変動の分布は「平均値のない分布かもしれない」という話もありますね。
そうすると「平均値がある」を前提にした理論は全部パーてなことに・・
返信する
Re: 全部パー (とね)
2011-11-29 20:30:27
hirotaさんへ

コメントありがとうございます。
「全部パー」というタイトルに笑ってしまいました。

つまりコーシー分布のことですね!

正規分布仮定で平均・分散を使うことの危険性
http://blog.livedoor.jp/tsurao/archives/1104236.html

第8話 そんなの常識、あたりまえでない大数の法則
http://miku.motion.ne.jp/stories/08_LargeNum.html

t分布、コーシー分布
http://staff.aist.go.jp/t.ihara/t.html

経済変動が正規分布に従う証明などできるはずはないですから、ブラックショールズ方程式は砂上の楼閣だということがよくわかりました。
返信する

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