
「ルベーグ積分入門:伊藤清三」
もし高校生や一般読者に「ルベーグ積分って何?」と聞かれたら、僕はどう答えるだろうか。
長さや面積、体積などを高校では定積分を使って計算する。積分するためには関数が必要で、高校までで習う関数は(一様に)連続な関数ばかりだ。このような関数の積分を「リーマン積分」と呼んでいる。けれども関数には階段関数のようなものや、値を変化させるほう、つまり定義域(X軸方向)をとびとびの範囲で扱う関数など、リーマン積分では扱えないものがいくつもある。
実際に物理学の勉強を大学3年のレベルまで進めると、そのように高校では学ばない一筋縄ではいかない関数が必要になってくる場合がでてくる。そのような状況でも面積や体積などが存在することが確実に言えて、それが値としてどのように定まり計算できるようになるかを理解するために必要になるのが「測度」や「ルベーグ積分」なのだ。ちょっと難しいかもしれないが具体的にはこのような感じ。つまり、面積や体積に限らずこの世界に「有限の値の量」として存在するいろいろな物事に数学的な裏付けを与えるものなのだ。
数学のはじまりが「点の存在」やその周りの「近傍」だとする「集合論」を基礎とし、それじゃ有限の量というのはどのように作り上げられるのだろうか?面積や体積などはどのようにその存在が理由付けされるのだろうか?こういうことを定理や証明を積み重ねて論理的に導いていくのが測度やルベーグ積分で学ぶことである。
ウィキペディアでは「測度」、「ルベーグ測度」、「ルベーグ積分」、「アンリ・ルベーグ」のように紹介されている。
本書はそのようなルベーグ積分の正統派の教科書なのだが、
あ~、しんどかった。。。
というのが読後の正直な感想。まさに数学の教科書らしい緻密な教科書である。ルベーグ積分は大学の物理学科はもちろんのこと数学科でも授業科目で採用されることはほとんどない。関数解析や確率論、数理ファイナンスなどへの基礎付けを与える重要な分野なのだが、定理や証明が複雑であることと分量が多いために1年間の授業で教え切ることが不可能なためだ。よほどの数学好きでない限り、学ぶにはかなりの忍耐力が要求される。
このようにハードルが高いルベーグ積分の教科書の中でも、本書はその完璧さにおいてトップクラス。アマゾンに投稿されているレビューの数を見ればおわかりだと思う。1963年初版つまり47年前に刊行されたにもかかわらず、本書を超える教科書は出版されていない。
名著なのだが凡人にはハードルが高すぎるのだ。
忍耐力に自信がない方には僕は「ルベグ積分入門(新数学シリーズ23):吉田洋一」のほうをお勧めする。こちらはルベーグ積分についてだけに特化していることと、必要最低限な分量におさえてあること、説明が明快で親切だからだ。
「ルベーグ積分入門:伊藤清三」の構成についていえば、前半は測度とルベーグ積分、後半は関数解析、つまりバナッハ空間、ヒルベルト空間、フーリエ級数、フーリエ変換、偏微分方程式への応用という章立てからわかるように、ルベーグ測度やルベーグ積分が関数解析の分野でどのように基礎付けを与えているかを理解できる内容になっている。後半に入ると関数解析になるので少し面白くなってくる。
つまり測度やルベーグ積分のところについては「基礎付け」にすぎないから面白いはずはない。こういうのを面白いと感じることができるのは数学科のごく一部の学生しかいないのだろうなと思う。そもそも面白いかどうかは人が勝手に思うことで、数学そのものはそういう主観とはまったく関係なく構築されるものだから文句を言える筋合いのものではない。
愚痴っぽくなったが、そもそも僕がこのように地味な教科書を読んでいるのは昨年11月にNHKの「素数の魔力に囚われた人々 ~リーマン予想・天才たちの150年の闘い~」を見たことが発端だ。
この番組に登場したコンヌ博士の「非可換幾何学入門:A.コンヌ」という本を理解できるようになりたいという流れで、そのための最短コースを意識しながら数学書を読み進んでいるわけなのだ。昨年までは物理学だけ学んでいれば満足できていたのだが、この番組が紹介しているように物理学の最先端と数学の最先端がどのように結びついているのか理解できればきっと深い感動が得られるに違いない。
もちろんその大目標に到達するはるか手前でも、つまり量子力学や相対性理論の段階でも物理法則と数学理論は美しく結びついているわけで、「物理法則は数式で書かれているから数学を学ぶことが必要だ。」のように当たり前のことでなく、両者の結びつきがずっと深く、美しいものであることを知ることができるのだろう。僕のような素人にそこまで到達できるかわからないけれどもチャレンジしてみようというのが、僕の勉強とこのブログが目指しているところなのだ。
ともあれ僕の大目標のはるか手前に位置づけとなる本書であるが、全体的な理解度は70パーセントほどにとどまった。第6章の途中、つまり「正の定符号函数」や「偏微分方程式論への応用」あたりで落ちこぼれてしまったからだ。でもメインテーマの「測度」、「ルベーグ積分」、「関数解析のさわり」あたりはついていけたので「まぁ良し。」ということにしておこう。
もちろん落ちこぼれたのは自分のせいであり、本書に責任転嫁するつもりはない。本書自体は完結しており、測度やルベーグ積分のベースとなる「集合論」についても付録として補われている。
ネット上の無料教材でルベーグ積分を学んでみたい方には以下をお勧めする。
ときわ台学:ルベーグ積分入門
(とてもわかりやすいので、特にお勧め。)
http://www.f-denshi.com/000TokiwaJPN/16lebeg/000lebrg.html
ルベーグ積分入門(PDF):吉川敦
http://www7b.biglobe.ne.jp/~yoshikawa/lebesgue-lecture.pdf
ということで、次は「関数解析:黒田成俊」を読むことにしよう。関数解析に含まれる「ヒルベルト空間論」は量子力学の数学的基礎付けを与えるので、物理学を学ぶ上でとても大切な数学分野だ。大学では数学科の3、4年あたりの選択科目で学ぶ内容である。
「関数解析:黒田成俊」

今日紹介したのはこちらの教科書。
「ルベーグ積分入門:伊藤清三」

目次
第1章:予備概念
- Lebesgue測度とは何か
- 空間とその部分集合
- 点函数と集合函数
第2章:測度
- 有限加法的測度
- 外測度
- 測度
- Lebesgue測度の性質
- 測度空間の完備化、非可測集合の存在
- 拡張定理、直積測度
第3章:可測函数と積分
- 可測函数
- Euclid空間におけるBorel可測函数とLebesgue可測函数
- 積分の定義と性質
- 項別積分に関する諸定理
- 積分記号のもとでの微分法
- Fubiniの定理
- Riemann積分とLebesgue積分との関係
- Baire函数、Baireの階級
第4章:加法的集合函数
- 加法的集合函数とその変動
- 絶対連続集合函数と特異集合函数
- 直線上の絶対連続函数
- Lebesgue-Stieltjes積分
- Lebesgue測度の性質(続き)
第5章:函数空間
- 測度空間の上の函数空間 --- I. 空間 L^p
- 測度空間の上の函数空間 --- II. 空間 M および S
- Euclid空間の上の函数空間
- 線型作用素、線型汎函数
- 位相的外測度、正値加法的汎函数と測度
第6章:Fourier級数、Fourier解析
- Hilbert空間、直交系
- Fourier級数
- Fourierr変換
- 正の定符号函数
- 偏微分方程式論への応用
付録:Euclid空間における点集合論
- 近傍、閉集合、開集合
- 被覆定理
- 集合の距離
- 距離空間
問題の解答
あとがき
索引
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もし高校生や一般読者に「ルベーグ積分って何?」と聞かれたら、僕はどう答えるだろうか。
長さや面積、体積などを高校では定積分を使って計算する。積分するためには関数が必要で、高校までで習う関数は(一様に)連続な関数ばかりだ。このような関数の積分を「リーマン積分」と呼んでいる。けれども関数には階段関数のようなものや、値を変化させるほう、つまり定義域(X軸方向)をとびとびの範囲で扱う関数など、リーマン積分では扱えないものがいくつもある。
実際に物理学の勉強を大学3年のレベルまで進めると、そのように高校では学ばない一筋縄ではいかない関数が必要になってくる場合がでてくる。そのような状況でも面積や体積などが存在することが確実に言えて、それが値としてどのように定まり計算できるようになるかを理解するために必要になるのが「測度」や「ルベーグ積分」なのだ。ちょっと難しいかもしれないが具体的にはこのような感じ。つまり、面積や体積に限らずこの世界に「有限の値の量」として存在するいろいろな物事に数学的な裏付けを与えるものなのだ。
数学のはじまりが「点の存在」やその周りの「近傍」だとする「集合論」を基礎とし、それじゃ有限の量というのはどのように作り上げられるのだろうか?面積や体積などはどのようにその存在が理由付けされるのだろうか?こういうことを定理や証明を積み重ねて論理的に導いていくのが測度やルベーグ積分で学ぶことである。
ウィキペディアでは「測度」、「ルベーグ測度」、「ルベーグ積分」、「アンリ・ルベーグ」のように紹介されている。
本書はそのようなルベーグ積分の正統派の教科書なのだが、
あ~、しんどかった。。。
というのが読後の正直な感想。まさに数学の教科書らしい緻密な教科書である。ルベーグ積分は大学の物理学科はもちろんのこと数学科でも授業科目で採用されることはほとんどない。関数解析や確率論、数理ファイナンスなどへの基礎付けを与える重要な分野なのだが、定理や証明が複雑であることと分量が多いために1年間の授業で教え切ることが不可能なためだ。よほどの数学好きでない限り、学ぶにはかなりの忍耐力が要求される。
このようにハードルが高いルベーグ積分の教科書の中でも、本書はその完璧さにおいてトップクラス。アマゾンに投稿されているレビューの数を見ればおわかりだと思う。1963年初版つまり47年前に刊行されたにもかかわらず、本書を超える教科書は出版されていない。
名著なのだが凡人にはハードルが高すぎるのだ。
忍耐力に自信がない方には僕は「ルベグ積分入門(新数学シリーズ23):吉田洋一」のほうをお勧めする。こちらはルベーグ積分についてだけに特化していることと、必要最低限な分量におさえてあること、説明が明快で親切だからだ。
「ルベーグ積分入門:伊藤清三」の構成についていえば、前半は測度とルベーグ積分、後半は関数解析、つまりバナッハ空間、ヒルベルト空間、フーリエ級数、フーリエ変換、偏微分方程式への応用という章立てからわかるように、ルベーグ測度やルベーグ積分が関数解析の分野でどのように基礎付けを与えているかを理解できる内容になっている。後半に入ると関数解析になるので少し面白くなってくる。
つまり測度やルベーグ積分のところについては「基礎付け」にすぎないから面白いはずはない。こういうのを面白いと感じることができるのは数学科のごく一部の学生しかいないのだろうなと思う。そもそも面白いかどうかは人が勝手に思うことで、数学そのものはそういう主観とはまったく関係なく構築されるものだから文句を言える筋合いのものではない。
愚痴っぽくなったが、そもそも僕がこのように地味な教科書を読んでいるのは昨年11月にNHKの「素数の魔力に囚われた人々 ~リーマン予想・天才たちの150年の闘い~」を見たことが発端だ。
この番組に登場したコンヌ博士の「非可換幾何学入門:A.コンヌ」という本を理解できるようになりたいという流れで、そのための最短コースを意識しながら数学書を読み進んでいるわけなのだ。昨年までは物理学だけ学んでいれば満足できていたのだが、この番組が紹介しているように物理学の最先端と数学の最先端がどのように結びついているのか理解できればきっと深い感動が得られるに違いない。
もちろんその大目標に到達するはるか手前でも、つまり量子力学や相対性理論の段階でも物理法則と数学理論は美しく結びついているわけで、「物理法則は数式で書かれているから数学を学ぶことが必要だ。」のように当たり前のことでなく、両者の結びつきがずっと深く、美しいものであることを知ることができるのだろう。僕のような素人にそこまで到達できるかわからないけれどもチャレンジしてみようというのが、僕の勉強とこのブログが目指しているところなのだ。
ともあれ僕の大目標のはるか手前に位置づけとなる本書であるが、全体的な理解度は70パーセントほどにとどまった。第6章の途中、つまり「正の定符号函数」や「偏微分方程式論への応用」あたりで落ちこぼれてしまったからだ。でもメインテーマの「測度」、「ルベーグ積分」、「関数解析のさわり」あたりはついていけたので「まぁ良し。」ということにしておこう。
もちろん落ちこぼれたのは自分のせいであり、本書に責任転嫁するつもりはない。本書自体は完結しており、測度やルベーグ積分のベースとなる「集合論」についても付録として補われている。
ネット上の無料教材でルベーグ積分を学んでみたい方には以下をお勧めする。
ときわ台学:ルベーグ積分入門
(とてもわかりやすいので、特にお勧め。)
http://www.f-denshi.com/000TokiwaJPN/16lebeg/000lebrg.html
ルベーグ積分入門(PDF):吉川敦
http://www7b.biglobe.ne.jp/~yoshikawa/lebesgue-lecture.pdf
ということで、次は「関数解析:黒田成俊」を読むことにしよう。関数解析に含まれる「ヒルベルト空間論」は量子力学の数学的基礎付けを与えるので、物理学を学ぶ上でとても大切な数学分野だ。大学では数学科の3、4年あたりの選択科目で学ぶ内容である。
「関数解析:黒田成俊」

今日紹介したのはこちらの教科書。
「ルベーグ積分入門:伊藤清三」

目次
第1章:予備概念
- Lebesgue測度とは何か
- 空間とその部分集合
- 点函数と集合函数
第2章:測度
- 有限加法的測度
- 外測度
- 測度
- Lebesgue測度の性質
- 測度空間の完備化、非可測集合の存在
- 拡張定理、直積測度
第3章:可測函数と積分
- 可測函数
- Euclid空間におけるBorel可測函数とLebesgue可測函数
- 積分の定義と性質
- 項別積分に関する諸定理
- 積分記号のもとでの微分法
- Fubiniの定理
- Riemann積分とLebesgue積分との関係
- Baire函数、Baireの階級
第4章:加法的集合函数
- 加法的集合函数とその変動
- 絶対連続集合函数と特異集合函数
- 直線上の絶対連続函数
- Lebesgue-Stieltjes積分
- Lebesgue測度の性質(続き)
第5章:函数空間
- 測度空間の上の函数空間 --- I. 空間 L^p
- 測度空間の上の函数空間 --- II. 空間 M および S
- Euclid空間の上の函数空間
- 線型作用素、線型汎函数
- 位相的外測度、正値加法的汎函数と測度
第6章:Fourier級数、Fourier解析
- Hilbert空間、直交系
- Fourier級数
- Fourierr変換
- 正の定符号函数
- 偏微分方程式論への応用
付録:Euclid空間における点集合論
- 近傍、閉集合、開集合
- 被覆定理
- 集合の距離
- 距離空間
問題の解答
あとがき
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社会人になって何年もたってから、ふと当時気になってた事を確認しようと思い出してみたら完全に再構成できて、当時は理解できなかった直積測度の証明法も理解できたのはうれしい。
気になってた事というのは教科書の「ルベーグ積分」の定義法を使わなくても直積測度があれば「グラフの面積」で積分が定義できるんじゃないかと思ってた事だが、その通りだと確認できた。
「ルベーグ積分」の例で出てくる関数は実数値関数で、実数空間は測度空間でもあるから、あの「ルベーグ積分」の定義は直積測度で間に合うけど、あの定義は関数値が測度空間でなくても使えるというのが利点のはずなのに、例が実数空間だけじゃ何のために面倒な定義をやるのか分からんね。
学生時代に自主ゼミでこの教科書を、というかルベーグ積分を題材にされたというのはとても意欲的ですね。僕も数学を専攻していましたが、とてもここまでは手が回りませんでした。
一度学んだことは時間が経っても、教科書をあらためて開けばちゃんと思い出せるものなのですね。
特にこの教科書は巻頭に各章のつながりがフローチャートのようにまとめてあるので、後になっても復習しやすいと思います。
単に思い出すより面白いですよ。
それはすごいです。僕などは「思い出す」こともままらなないような有様でして。。。