[B5] 重力場および電磁場の統一理論(1931年)
この論文はアインシュタインとメイヤーによる共著だ。
冒頭で統一場理論がそれまでの物理学では十分説明できないことを解説している。すなわち、一般相対性理論の枠で電磁現象を取り扱うには、マックスウェルの理論を論理的に独立な1次形式の形で導入するしかなかった。重力場に関する式は2次形式である。そしてマックスウェルの方程式の線形性は、現実に対応するものではなく、非常に強い電磁場に対する真の場の方程式はマックスウェルの式とは少し異なっているのではないかという疑念を否定することはできなかった。
量子力学が作られてから、多くの物理学者が統一場理論の研究をやめてしまったことについてアインシュタインは言及している。しかし彼は統一場理論を信じ、量子力学とは関係を持たず、厳密な形で解答を与えてくれるものだということをここで宣言している。
次に彼はカルツァの5次元空間の理論を紹介する。カルツァによれば時空の4次元にもうひとつ空間次元を加えた5次元空間の計量gで重力場と電磁場をあらわせるとした。
g(1,1)からg(4,4)は重力ポテンシャルの役目を果たし、g(1,5)~g(4,5)は電磁ポテンシャルと解釈された。しかしg(5,5)の物理的意味は何もなされなかった。
また時空が4次元連続体であることを満足させるために、カルツァの5次元連続体はx5軸について「円筒型」であろうと考えられた。
カルツァの理論において、第1近似ではそれまで知られた重力場と電磁場の方程式を説明できた。
アインシュタインはカルツァの理論の不備を次のように指摘した。
1)5次元連続体を仮定する必要があること。つまりわれわれの世界は時空の4次元であるべきだと考えた。
2)5次元連続体が「円筒型」なので不自然であること。
3)運動している質点の電荷と質量の比を正しく与えることができないこと。
しかしアインシュタインはカルツァの理論にヒントを得て、独自の5次元理論を提案するのである。4次元連続体に立脚しながら、しかもそのなかで5個の成分をもつベクトルやそれに対応するテンソルを導入する方法だ。
§1 4元ベクトルと5元ベクトル
4次元リーマン空間の各点において、反変および共変ベクトルからつくられた4次元ベクトル空間V4のほかに、5次元線形ベクトル空間V5を考える。
このセクションでは4ページに渡ってこのような5次元ベクトル空間について、計量的性質や計量テンソルの間に成り立つ式、4次元ベクトル空間との関係などについて成り立つ数式を紹介している。
§2 絶対微分
このセクションでは5元ベクトルの絶対微分の方法を説明し、4元ベクトルの絶対微分はリーマン幾何学と同様であることを述べている。
さらに5元ベクトルと4元ベクトルの「平行移動」を定式化している。
§3 3指標記号Γ(l/πq)の決定
4次元計量gからΓを決定できたのと同様、5次元計量gからΓを決定できることを3ページに渡って解説している。その方法は4次元計量の場合と異なっている。(詳細は省略。)すなわち、このセクションから5次元空間の幾何学の話が始まっている。
この理論の導入部分で4次元空間に限定していたのに5次元空間が登場したのはおかしなことだと僕は思った。しかしアインシュタインが導入したのは数学的な5次元空間で、物理的な意味づけを5次元空間に与えているわけではない。
この§3の中でアインシュタインはこの5次元空間の中で成り立つ幾何学的性質について3つの仮説(仮説I, II, III)を数式で提示している。文章で書くのは不正確だが、あえて書くと次のような感じだ。
仮説1:1つの5元ベクトルの(1の決まった方向における)絶対微分が0となる。
仮説2:4元ベクトルが平行移動されると、これにつれて移動される5元ベクトルの絶対微分は「特殊方向」に比例する。
仮説3:4元ベクトルをこのベクトル自身の方向に平行移動させたときは、これに対応した「特殊平面」内の5元ベクトルも平行移動をこうむる。
これら3つの仮説がお互い矛盾のない形で成立していることを前提に、理論は続けられている。
§4 一般化された直線の方程式
V5の1つのベクトルの平行移動がV4における曲線に対応していることを示し、それが電荷をもった質点の相対論的方程式に正確に対応していることを述べている。
そして質点の電荷と質量に比が厳密にひとつの定数として導かれている。これはカルツァの理論では得られない結果だ。
§5 V5に関する曲率
5次元空間の平行移動の方程式の積分可能条件を考えることによって、5次元空間の混合テンソルPを与えることができ、リーマン曲率や測地線を考えられるようになる。
そしての混合テンソルPが4次元時空V4と接触する関係において4次元時空の物理法則に入り込むことができる。つまり物理法則を表現する数式には5次元でのみ存在する計量gをはじめとする「量」やテンソルは表面的に出てきてはならない。
このような考えのもと、5次元曲率と4次元曲率の間の関係式を1ページ半に渡って計算している。
§6 場の方程式
4次元時空で成り立つ2つの恒等式を出発点とし、5次元空間で求められた結果の一部を合わせて計算することにより、場の方程式を新しいものに書き改めた。その方程式は4次元時空でのみ使われている数式要素で構成されているものだ。
この場の方程式は重力場の方程式とマックスウェルの方程式の第1と第2の式をとりまとめ、「曲率」という概念で統一することによって、これまで一般相対性理論において重力場および電磁場の法則と見なされていたものと同じ方程式であることを述べている。
しかしこの統一場理論では、物質粒子は含まれていないので不完全なものである。
§7 V5における特別な座標系の導入
V5空間に特別な座標系を決める手順について説明しているセクションだ。座標系を定義した後、この空間における5元ベクトルの平行移動、4元ベクトルの平行移動について解説している。
特別な座標系を導入した目的は、余計な場の量の成分を消去して、場の方程式をより簡単な形に書くことにある。
§8 場の方程式と質点の法則
§6で提唱された場の方程式が§4でそれとは無関係に設けられた運動の法則と自然な関係にあること、つまり両者は互いに両立しうる関係であることを示す必要がある。ここまでの理論では、まだ物質粒子の存在に対する説明がなされていない。
アインシュタインは物質粒子をそのまま取り扱うのではなく、場の方程式に物質の密度を示すひとつの項を「技巧的に」付け加えることにした。
1ページに渡る説明で、彼は物質の運動についての「軌道曲線」を求め、その曲線に沿った物質の運動はその「質量」が一定であることを示した。
これまでに展開されてきた理論は、ひとつの統一された方法によって重力場および電磁場の方程式を、ごく自然に与える。けれども、この理論は物質粒子の構造とか量子論によって理解されるような事実に対しては、何も説明を与えてくれない。
関連リンク:
アインシュタイン選集(1)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559
アインシュタイン選集(2):読みはじめた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e
時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e
少年の頃の夢(の続き)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a6e4b9271cd56b2e85c3bdaa0b8b7cae
趣味で相対論
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/90aa60383b600ff4e4fd7bea6589deaa
とね書店:
アインシュタイン選集(1)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030192/503-5691539-3879144
アインシュタイン選集(2)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030206/503-5691539-3879144
アインシュタイン選集(3)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030214/503-5691539-3879144
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この論文はアインシュタインとメイヤーによる共著だ。
冒頭で統一場理論がそれまでの物理学では十分説明できないことを解説している。すなわち、一般相対性理論の枠で電磁現象を取り扱うには、マックスウェルの理論を論理的に独立な1次形式の形で導入するしかなかった。重力場に関する式は2次形式である。そしてマックスウェルの方程式の線形性は、現実に対応するものではなく、非常に強い電磁場に対する真の場の方程式はマックスウェルの式とは少し異なっているのではないかという疑念を否定することはできなかった。
量子力学が作られてから、多くの物理学者が統一場理論の研究をやめてしまったことについてアインシュタインは言及している。しかし彼は統一場理論を信じ、量子力学とは関係を持たず、厳密な形で解答を与えてくれるものだということをここで宣言している。
次に彼はカルツァの5次元空間の理論を紹介する。カルツァによれば時空の4次元にもうひとつ空間次元を加えた5次元空間の計量gで重力場と電磁場をあらわせるとした。
g(1,1)からg(4,4)は重力ポテンシャルの役目を果たし、g(1,5)~g(4,5)は電磁ポテンシャルと解釈された。しかしg(5,5)の物理的意味は何もなされなかった。
また時空が4次元連続体であることを満足させるために、カルツァの5次元連続体はx5軸について「円筒型」であろうと考えられた。
カルツァの理論において、第1近似ではそれまで知られた重力場と電磁場の方程式を説明できた。
アインシュタインはカルツァの理論の不備を次のように指摘した。
1)5次元連続体を仮定する必要があること。つまりわれわれの世界は時空の4次元であるべきだと考えた。
2)5次元連続体が「円筒型」なので不自然であること。
3)運動している質点の電荷と質量の比を正しく与えることができないこと。
しかしアインシュタインはカルツァの理論にヒントを得て、独自の5次元理論を提案するのである。4次元連続体に立脚しながら、しかもそのなかで5個の成分をもつベクトルやそれに対応するテンソルを導入する方法だ。
§1 4元ベクトルと5元ベクトル
4次元リーマン空間の各点において、反変および共変ベクトルからつくられた4次元ベクトル空間V4のほかに、5次元線形ベクトル空間V5を考える。
このセクションでは4ページに渡ってこのような5次元ベクトル空間について、計量的性質や計量テンソルの間に成り立つ式、4次元ベクトル空間との関係などについて成り立つ数式を紹介している。
§2 絶対微分
このセクションでは5元ベクトルの絶対微分の方法を説明し、4元ベクトルの絶対微分はリーマン幾何学と同様であることを述べている。
さらに5元ベクトルと4元ベクトルの「平行移動」を定式化している。
§3 3指標記号Γ(l/πq)の決定
4次元計量gからΓを決定できたのと同様、5次元計量gからΓを決定できることを3ページに渡って解説している。その方法は4次元計量の場合と異なっている。(詳細は省略。)すなわち、このセクションから5次元空間の幾何学の話が始まっている。
この理論の導入部分で4次元空間に限定していたのに5次元空間が登場したのはおかしなことだと僕は思った。しかしアインシュタインが導入したのは数学的な5次元空間で、物理的な意味づけを5次元空間に与えているわけではない。
この§3の中でアインシュタインはこの5次元空間の中で成り立つ幾何学的性質について3つの仮説(仮説I, II, III)を数式で提示している。文章で書くのは不正確だが、あえて書くと次のような感じだ。
仮説1:1つの5元ベクトルの(1の決まった方向における)絶対微分が0となる。
仮説2:4元ベクトルが平行移動されると、これにつれて移動される5元ベクトルの絶対微分は「特殊方向」に比例する。
仮説3:4元ベクトルをこのベクトル自身の方向に平行移動させたときは、これに対応した「特殊平面」内の5元ベクトルも平行移動をこうむる。
これら3つの仮説がお互い矛盾のない形で成立していることを前提に、理論は続けられている。
§4 一般化された直線の方程式
V5の1つのベクトルの平行移動がV4における曲線に対応していることを示し、それが電荷をもった質点の相対論的方程式に正確に対応していることを述べている。
そして質点の電荷と質量に比が厳密にひとつの定数として導かれている。これはカルツァの理論では得られない結果だ。
§5 V5に関する曲率
5次元空間の平行移動の方程式の積分可能条件を考えることによって、5次元空間の混合テンソルPを与えることができ、リーマン曲率や測地線を考えられるようになる。
そしての混合テンソルPが4次元時空V4と接触する関係において4次元時空の物理法則に入り込むことができる。つまり物理法則を表現する数式には5次元でのみ存在する計量gをはじめとする「量」やテンソルは表面的に出てきてはならない。
このような考えのもと、5次元曲率と4次元曲率の間の関係式を1ページ半に渡って計算している。
§6 場の方程式
4次元時空で成り立つ2つの恒等式を出発点とし、5次元空間で求められた結果の一部を合わせて計算することにより、場の方程式を新しいものに書き改めた。その方程式は4次元時空でのみ使われている数式要素で構成されているものだ。
この場の方程式は重力場の方程式とマックスウェルの方程式の第1と第2の式をとりまとめ、「曲率」という概念で統一することによって、これまで一般相対性理論において重力場および電磁場の法則と見なされていたものと同じ方程式であることを述べている。
しかしこの統一場理論では、物質粒子は含まれていないので不完全なものである。
§7 V5における特別な座標系の導入
V5空間に特別な座標系を決める手順について説明しているセクションだ。座標系を定義した後、この空間における5元ベクトルの平行移動、4元ベクトルの平行移動について解説している。
特別な座標系を導入した目的は、余計な場の量の成分を消去して、場の方程式をより簡単な形に書くことにある。
§8 場の方程式と質点の法則
§6で提唱された場の方程式が§4でそれとは無関係に設けられた運動の法則と自然な関係にあること、つまり両者は互いに両立しうる関係であることを示す必要がある。ここまでの理論では、まだ物質粒子の存在に対する説明がなされていない。
アインシュタインは物質粒子をそのまま取り扱うのではなく、場の方程式に物質の密度を示すひとつの項を「技巧的に」付け加えることにした。
1ページに渡る説明で、彼は物質の運動についての「軌道曲線」を求め、その曲線に沿った物質の運動はその「質量」が一定であることを示した。
これまでに展開されてきた理論は、ひとつの統一された方法によって重力場および電磁場の方程式を、ごく自然に与える。けれども、この理論は物質粒子の構造とか量子論によって理解されるような事実に対しては、何も説明を与えてくれない。
関連リンク:
アインシュタイン選集(1)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559
アインシュタイン選集(2):読みはじめた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e
時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e
少年の頃の夢(の続き)
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趣味で相対論
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とね書店:
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https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030192/503-5691539-3879144
アインシュタイン選集(2)
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アインシュタイン選集(3)
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なかなか物理の話は一般受けしないですが、このようにどこにも書かれていない特色ある記事であれば、「通」の方々がいろいろと集ってくるのではないでしょうか。
はげみになるコメントありがとうございます。このテーマのブログ記事はアクセス数が少ないので、張り合いを失いかけていました。
確かに今日投稿した[B4]、[B5]の論文は冒頭で自信を見せているにもかかわらず、素人である僕が読んでもアインシュタインの「試行錯誤」や「行き詰まり」を感じます。明解さに欠けるのです。
次元を増やして考えるのは超ひも理論や余剰次元宇宙論に通じますが、アインシュタインは物理的実体は時空の4次元に固執していたため、常に4次元の理論に戻ろうとする姿勢をこの論文では感じました。
> このようにどこにも書かれていない特色ある
> 記事であれば、「通」の方々がいろいろと集って
> くるのではないでしょうか。
物理を専門にされていない方でも「なんとなくわかる」ように書くようにつとめています。少しでも多くの方に「アインシュタインはどのような形で統一場理論を完成できなかったか。」ということを知ってもらえればと思います。
統一場理論の論文解説も残すところあと2つになりました。頑張ります!
今年ももうすぐ8月6日や9日を迎えます。マンハッタン計画には参加していなかったアインシュタインですが、毎年この時期になると E=mc^2 の数式を自然に意識してしまいますね。