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リーマン--人と業績: D.ラウグヴィッツ

2016年06月11日 17時59分42秒 | 物理学、数学
リーマン--人と業績: D.ラウグヴィッツ」(丸善版)(シュプリンガー版

内容紹介:
リーマン幾何学やリーマン積分など、現代数学の基礎概念にその名を残し、19世紀半ばにして20世紀数学を予見して、その飛躍の礎を与えたドイツの数学者リーマン。本書ではリーマンの数学における代表的な仕事を厳選し、それぞれの分野におけるリーマン以前の数学の到達点とリーマン以降の数学の流れの変化を明らかにすることによって、リーマンの業績の同時代における意義を浮き彫りにした。さらに本書では物理学・哲学についての彼の仕事も紹介。彼の学問の背景となる生い立ち、交遊についても伝記的に興味深い内容を詳述している。
1998年2月刊行、415ページ。

著者について:
D.ラウグヴィッツ: ウィキペディアの記事
1932年生まれ2000年没。ドイツ人の数学者、歴史家。専門は微分幾何学、数学史、関数解析、超準解析。1954年にゲッティンゲン大学でT.カルツァの指導のもと学位(数学)を取得。1963年よりダルムシュタット工科大学数学科教授。1968年に『年報数学展望』をマンハイム文献出版協会から創刊し、20年以上編集長を務める。微分幾何学や超準解析などの教科書数点のほか、オイラー、ガウス、ボルツァーノ、コーシー、リーマン、ワイエルシュトラスに関する著作がある。

訳者について:
山本敦之
1982年3月、東京大学理学部数学科卒業。東京大学大学院理学研究科(科学史・科学基礎論)博士課程修了。吉備国際大学社会福祉学部ボランティア学科助教授。
専門:19世紀ドイツを中心とした科学史、数学史
訳書にG.メーベ編『われわれは「自然」をどう考えてきたか』(共訳、どうぶつ社)、E.A.フェルマン著『オイラー』(シュプリンガー・フェアラーク東京)、『リーマン論文集』(共訳、朝倉書店)


理数系書籍のレビュー記事は本書で308冊目。

本書は昨年の「第56回 神田古本まつり」で買ったものだ。これは素晴らしい!大数学者リーマン(1826-1866)の伝記と研究内容が1冊でわかる!と飛びついたわけだが、読書はとても難儀なものになった。数学史の部分が山本義隆先生の科学史本を超える専門的な内容だったからだ。今年はリーマン没後150年目、生誕190年目であることは、本を買ってからしばらくして知った。

物理学史や天文学史にはすでに馴染んでいるが、数学史は別である。特にコーシー以降の近代数学史は僕にとっては断片的に知っているだけの未知の世界。本書にはリーマンだけでなく、その前後で活躍した数学者たちの業績を交えて解説を進めている。近代数学史を学ぶにはうってつけの本のはずだし、これはまさに僕が学びたいと思っていたことだ。

しかし、本書を読み解くにはこの時代に研究された数学諸分野の理解が前提とされている。取り上げられている数式にしても教科書のように導出されているわけではない。

章立ては次のとおり。

序章:伝記
第1章:複素解析
第2章:実解析
第3章:幾何学・物理学・哲学
第4章:数学解釈における転換点

リーマン面は複素解析で学ぶが、第1章の複素解析の部分を理解するためには「なっとくする複素関数:小野寺嘉孝」レベルの初歩的な内容では足りず、「複素解析:小平邦彦」で解説されているようなリーマン面のもつ詳しいトポロジー的性質を理解している必要がある。(リーマン面の写像定理、ディリクレの原理、リーマン面の構造、アーベル微分、リーマン-ロッホの定理、アーベルの定理など)

また第3章のリーマン幾何、すなわちリーマンのn重延長多様体についての解説を読み解くには少なくとも「幾何学の基礎をなす仮説について:ベルンハルト・リーマン」を読んでリーマン幾何学を知っておく必要がある。

そしてリーマン以前の数学史についてもデカルトからライプニッツ、オイラー、コーシーに至る微積分学史をあらかじめ知っておいたほうがよい。(参考記事:「微分積分学の史的展開 ライプニッツから高木貞治まで:高瀬正仁」、「微分積分学の誕生 デカルト『幾何学』からオイラー『無限解析序説』まで:高瀬正仁」)

このようなわけで本書が対象としているのは数学や物理学を専攻している大学院生以上ということになるだろう。


僕が興味をもったのは、後世に「業績」として伝えられている研究内容ではなく業績には至ることのなかった研究内容についてだった。リーマンの生きた時代は電磁気学が完成する時代、アインシュタインが特殊相対性理論を発表する前の時代である。

多様体についてリーマンの関心は連続多様体にあり、離散多様体ではなかった。物理学にも大いに関心を示したリーマンは物理的な空間の構造についても研究を行なっていた。当時の関心ごとのひとつに電気力学と力学の統一がある。この研究によってアインシュタインは特殊相対論の完成に至ったわけだが、リーマンも同様のテーマで研究を進めていたことが本書を読むとわかる。時代的にはリーマンのほうがアインシュタインよりも昔なのだが、リーマンに足りなかったものは何か、同時代の数学者、物理学者は同じ問題をどのように考えていたか。功績として私たちに残された数学史、物理学史には書かれていないサイドストーリーが本書の価値のひとつだと思った。



リーマンの研究テーマの広さに加えて、同時代の数学者の研究テーマや考え方についても多くの記述があるので何が後世の数学に直接影響を与えたのかを判断するのが僕には難しかった。しかしその影響力がとても大きかったことはよくわかる。現代数学に至るまでの近代数学の雰囲気を味わえたことを本書を読んだ僕の成果としておこう。


後述する詳細目次をご覧になるとおわかりのように、あまりに盛りだくさんでお腹いっぱいという感じで理解しきれない箇所が多く、読後もモヤモヤ感が残ってしまった。もう少し明瞭にリーマンの研究内容や業績を知りたいと思っていたところ、関連するテーマで市民向け講座が朝日カルチャーセンターで開講されることにたまたま気がついた。ツイッターでフォローさせていただいている加藤文元先生の講座である。

【新設】リーマン数学の思想と展開(ユース学生会員用ページはこちら
現代数学はどのようにして作られたのか
https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/895b6ce4-6445-a2e2-2353-571f44edf03e

<講師>
東京工業大学教授 加藤 文元先生

<講座内容>
数学は19世紀に大きく変容しました。その過程を経て現在に至っている現代数学は、18世紀までとは比べ物にならないほど高度に抽象的でパワフルな学問になっています。その歴史上の大きな変化の入り口のところにいるのがベルンハルト・リーマン(1826?1866)です。彼は有名な「リーマン予想」を提出し、数学の様々な分野で大きな足跡を残しただけでなく、数学の基本思想そのものを変えました。リーマンの足跡をたどりながら、できるだけ平易な数学の言葉を用いて、リーマンの思想やその現代への波及効果、さらには現代の数学がどのような学問になっているのかを解きほぐしていきます。 

<スケジュール>
1回目:7月19日 リーマンの空間思想
2回目:8月9日 リーマンと現代数学


火曜日の夜に開催されるので、日程が近づき仕事の予定の調整がつくようだったら申し込んでみたいと思っている。


関連記事、関連ページ:

現代思想 2016年3月臨時増刊号 総特集◎リーマン -リーマン予想のすべて-
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6216f2ff6057e8c3bfa2d4ca8e28d479

幾何学の基礎をなす仮説について:ベルンハルト・リーマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/22be602fe4cee385a9939c0869c511eb

解析学入門のための教科書談義
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/22c325e49cfd7c721679dbc2896b86a4

素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~:ジョン・ダービーシャー
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b15d8fa5e7f3e3e5b86cf1bc8a3c3f00

リーマン 人と業績(足立 隼)
http://researchmap.jp/jomk8mfp4-46767/


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リーマン--人と業績: D.ラウグヴィッツ」(丸善版)(シュプリンガー版



序章

ベルンハルト・リーマンとその時代
- その経歴と人格形成
- 政治経済状況
- 教育と教養
- リーマンの故郷
- 学びの場としてのゲッティンゲンとベルリン
- 正教授時代(1859-1866)

ゲッティンゲンにおける黄金の50年代:ガウス、ディリクレからリーマン、デデキントへ
- リーマンとデデキント:個人的事情
- 数学における変革について
- あるイギリス人による点描

最晩年の活動:イタリアとドイツを往復するリーマン

リーマン以前の解析学の、競合する様々な解釈
- 解析学の歴史的発展におけるリーマン:外観
- 代数解析
- 無限小解析
- 幾何学的な考察:フーリエ
- 極限値解釈:ニュートン
- イプシロン論法の完成に向けて:コーシーとディリクレ

第1章:複素解析

リーマンの時代までの複素解析の生成過程
- 予備知識
- 複素数
- 複素関数とその導関数
- 積分
- 応用
- 多価関数とリーマン面
- 2重周期関数

1851年の学位論文
- この研究の動機についてのリーマン自身の見解:学位論文第20節第1部
- 「学位論文」の内容とその要約
- リーマンによる学位論文の概括とプログラム:第20節第2部と第22節
- 学位論文の前史
- 学位論文の影響

理論形成
- 常微分方程式
- 解析学におけるトポロジーの誕生
- アーベルの定理
- 代数曲線
- 極小曲面
- リーマンの学生たちと関数論における彼らの記述
- 後世の評価
- デデキントと関数論の代数化

ゼータ関数と素数分布
- 予備考察
- あるアプローチ
- 関数等式
- 素数関数を表すリーマンの明示公式
- 零点とリーマン予想
- 遺稿
- 評価

第2章:実解析

実解析の基礎
- 積分概念
- 解析学における「厳密性」
- 例外というものが獲得した新たな地位:実例と反例

リーマン以前の三角級数
- 序論
- オイラーからフーリエまで
- 関数概念の発展
- フーリエからディリクレまで

リーマンの業績
- 積分概念をフーリエ係数に適用すること
- リーマンの「同伴関数」F(x)

リーマン以後の三角級数
- 三角級数から集合論へ
- 三角級数のその後の発展:関数の算術化を越え、関数解析におけるその自立化へ向けて

中間考察:ガウス、リーマン、ゲッティンゲンの雰囲気

第3章:幾何学・物理学・哲学

前置き:1854年の教授資格取得講演の果たした中心的役割

幾何学
- ユークリッドからデカルト、そして[非ユークリッド」幾何学まで
- ガウスの曲面論(1827)
- リーマンのn重延長多様体
- 計量規定
- 曲率
- リーマン以後50年間の幾何学と物理学における成果
- 計算技法の発展
- フェーリックス・クラインの影響
- デデキント「ベルンハルト・リーマンの論文 '幾何学の基礎にある仮説について' に関する解析的研究」

物理学
- 物理への関心
- 場の理論としての物理学
- 物理のための数学的方法
- 物理学者の観点から見たリーマンの電気力学
- 20世紀の物理学におけるリーマン幾何:アインシュタインとワイル

哲学について
- 序
- 1853/1854年の思想的背景について:唯物論論争
- 自然哲学の数学的新原理
- ヘルバルト哲学の役割

第4章:数学解釈における転換点

数学の革命について

数学的無限についての解釈の転換点

方法の転換:計算の代わりに思考する

存在論における転換点:概念を用いた思考としての数学
- 一般的概念とその規定法
- リーマンの数学における、離散的対象に対する連続的対象の優位
- 哲学的伝統の中のリーマンの多様体
- リーマン以前に行われていた、数学的概念を用いた思考

リーマン以後の時代の、数学の存在論と方法論
- デデキントにおける数の優先
- 算術化から公理化へ:ヒルベルト(1897/1899)
- ゲオルク・カントルの役割
- ベルリンの伝統

結論

参考文献
人名索引
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